そして五日後、早朝。


段ボール数箱に纏められた私の荷物が、デスマスク様によって呼びつけられた候補生達の手によって運ばれていくのを見送りながら。
今日で、この巨蟹宮ともお別れなのかと、私は感慨に耽っていた。


「あの、デスマスク様。それで、私は今日から何処の宮で働けば宜しいのでしょうか?」
「あ、言ってなかったか? 伝え忘れてた、悪ぃ悪ぃ。」
「あのですね! 大事な私の勤め先なんですから、勿体振らずに仰ってくださらないと困ります!」
「ンな、怒ンなって。オマエの勤め先はアッチだ。」


デスマスク様が指差す先は、候補生達が荷物を持って階段を上がっていった方角。
つまりは、ココよりは上の宮。


「で、何処なんですか?」
「急かすなよ。つまんねぇなぁ、ったく。」


そして、スッと身を屈めたデスマスク様が、私の耳元に囁いた場所。
そこが私の新たな勤め先。
そして、新しい雇い主である人がいる場所だった。



***



――コツコツコツ……。


静かな宮内に、私の靴音だけが、やけに大きく響く。
宮の中ほど、プライベートルームへの入口まで辿り着くと、私は扉の前で大きく息を吸った。


緊張している訳ではないが、やはり少しドキドキする。
新しい職場に配属されるのなんて六年振りだし、教皇宮で働くのとは、またワケが違う。
ココの宮主と上手くやっていけるのか、宮付き女官として絶対の自信がある私でも、やはり多少なりとも不安はある。


――コンコンッ。


ゆっくりと、そして、しっかりと扉を叩いた。
だが、中からは何も反応もない。
誰もいないのだろうか?
いるとしたら、ノックが聞こえていないとは思えない。


誰もいないからといって、このまま扉の前で待っているというのもどうかと思うし……。
私は迷った末、勝手にではあるが、中に入って待つ事に決めた。
そうだ、今日からココに住み込みで働くのだもの、遠慮なんてしていられない。
そして、意を決した私は、恐る恐るその宮――、磨羯宮のプライベートルーム内へと足を踏み入れた。


「失礼します。シュラ様、いらっしゃいますか?」


――シーン……。


返事はない。
シュラ様は勿論、他の誰もいないようだ。
形ばかりの短い廊下を進み、その先のリビングへと向かう。
リビングのドアを開くと同時に、私はもう一度、声を掛けた。


「シュラ様。お返事がないようでしたので勝手に入りま――、っ?!」


そこまで口にして、言葉が途切れた。
途切れたと言うか、声を失った。
開いたドアの先、その部屋のあまりの物凄い光景に、私はただただ絶句するしかなかった。





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