8.心を繋ぐもの



翌朝、天気は雨降りだった。
これが晴天であれば、シュラ様と外出は出来なかったのだから、私にとっては良い事だとしても、こうも天候不良が続くと心配な事も多くなる。
こんなにも雨続きでは、作物も不作になってしまうかもしれない。


「気温は低くはない。だからといって、暑い訳でもなく、まぁ、お前にとっては過ごし易いだろう。」
「そう、ですか。」


雨の日だろうと朝のトレーニングを欠かさないシュラ様。
あれだけビショ濡れになっても、風邪一つ引かないのだから、流石は聖闘士、鍛えているだけはある。
あのくらいモリモリに筋肉が付いていれば、熱中症になんてならないのかしら?
私も、ちょっとは鍛えてみる?


「止めておけ。身体の強さが元から違う。アンヌは鍛錬したところで、身体がついていかずに倒れるだけだ。」
「そうですね。確かに、そうです。」


これだけハッキリ言ってもらえると、返って清々しい。
無駄な努力をしようという気も起こらなくなるから、余計な思考に時間を潰す事もないし。
黙々と鍛錬に精を出すのはシュラ様にお任せするとして、私は大人しく宮の中で、家事仕事をしていよう。


「傘は持ったか、アンヌ?」
「あ、はい。今、持ってきます。」
「そうか、新しい傘だったな。」


この前のお買物と違い、今日は出掛ける前から、既に雨。
傘がない事には、外に出られない。
私は慌てて自室に行くと、新品の青い傘を手に取った。


「ふふっ、お揃いですね。」
「嬉しそうだな。」
「はい、嬉しいです。シュラ様とお揃いですから。」


空模様は陰鬱だが、気分は晴れやかだ。
シュラ様と一緒に選んだ十六本骨の珍しい傘は、色こそ違えど、同じメーカーの同じ種類のもの。
暗い雨空の下に、インディゴブルーとスカイブルーの花が二つ、パッと鮮やかに開く。
十二宮の階段はジメジメ雨に濡れていても、気分は爽やかだった。


「あの、獅子宮に寄っても良いですか?」
「構わんぞ。やはり心配か?」
「心配というか……、折角、市街に降りていくのですから、必要なものとか、欲しいものとか、有るようであれば、聞いていこうかと。」
「そうか、そうだな。」


二人、連れ立って、獅子宮の奥へと向かう。
プライベートルームの中では、ソファーの背もたれに手を付いて、ゆっくりと歩く練習をする歩美さんの姿。
勿論、アイオリア様が直ぐ傍で見守っている。
昨日、注意した事が効いているのか、それとも、外が雨降りだから仕方なくなのか、歩美さんから目を離さない。
ただ、部屋の空気は、何処となくぎこちない。


「おはようございます、アイオリア様。歩美さん。」
「おはよう、随分と早いな。」
「おはよう、アンヌさん。それと――。」
「シュラだ。」
「シュラさん、おはようございます。」


二人共に見せるのは笑顔。
だけど、やっぱり、何となくぎこちない。
喧嘩をしないよう、自然に接しようと思っているせいか、返ってギクシャクしてしまっているのかもしれない。


「これからアテネ市街に買物に行くのですが、何か欲しいものはありませんか? 一緒に買ってきます。」
「俺は特にないが……、どうだ?」


言葉を切って、チラと歩美さんの方を見遣るアイオリア様。
歩美さんは唇に指を当てて考え込んでいる。
そんな彼女の様子に、時間が掛かりそうだと判断したのか、シュラ様はそそくさとアイオリア様に近付いて、小さな声でお喋りを始めた。
何でしょう、少しだけ、いや、かなり気になります。





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