「……そうか、アイオリアが。」
「シュラ様と直接、お話するのが照れ臭かったのかもしれませんね。」


夕食の席での話題は、やはりアイオリア様達についての事が多かった。
一緒にランチを食べた時の会話。
そして、その後に訪ねてきた時のアイオリア様の様子。
私の話を聞きながら夕食を続けるシュラ様の表情が、次第に曇っていくように見える。
フォークをカタリ、お皿の端に置くと、彼は眉間の皺を深くした。


「全く……、アイツは生真面目で困る。」
「そうでしょうか?」
「ん、何故だ?」


生真面目と言うのなら、もっと歩美さんに対して真っ直ぐに向き合おうとする筈だ。
でも、今のアイオリア様は、出来る限り面倒を避け、彼女となかなか向き合おうとはしない。
確かに、何かにつけて歩美さんが食って掛かってくるのだから、遣り辛い事も多いだろう。
それでも、これが普段のアイオリア様であれば、そこで目を背けたりしない筈なのに。


「それだけ戸惑いが大きいという事だろうな。いつものアイツなら真摯に向き合うのだろうが……。」
「そんなにも困惑してしまっているのですね。」
「そうだな。普段なら、いっそ力で押して、押し捲って、半ば無理矢理気味に解決してしまうところを、そうもいかないから余計に困惑するのだろう。どうして良いのか対処しかねてるのだと思う。」


シュラ様は首を一度だけ大きく振ると、またフォークを手に取り、残っていたお肉を口の中に放り込んだ。
少しだけムッとした表情のまま、力強くお肉を噛み砕き、咀嚼を繰り返す。
一度、この話題は終わりにした方が良さそうだわ。
段々とシュラ様の御機嫌が悪くなってきている。


「あの……、白銀聖闘士の皆さんは、どうでしたか?」
「どう、と言うと?」
「候補生の少年達を相手にするのとでは、大違いでしょう。」
「当然だな。」


付け合わせの人参とジャガイモのソテーを食べ終えると、シュラ様は最後のフルーツに手を伸ばす。
彼が歯を立てると同時、瑞々しいオレンジの果汁が弾け飛ぶのが見えた。
パリンという音まで聞こえてきそうだ。


どうやら聖戦の後、白銀聖闘士の面々も、必死に再修行をしたようだった。
血の滲むような努力の結果、今では青銅聖闘士に負けるような事もない。
能力的には十分に、そのレベルまで上がってきている。
それだけの実力を身に着けていた事実を目の当たりにし、シュラ様も大いに驚かれたとの事。


「まぁ、そうでなければ困るのだが。聖域は俺達、黄金聖闘士だけで守っている場所ではない。世界各地に散らばる聖闘士達にしたって、そうだ。本来なら、任務にしても、後継者の育成にしても、黄金と青銅の間の地位にある白銀の彼等が一番の要、携わる比重が大きくあるべきもの。ここにきて漸く本来の姿、本来の役割分担が戻ってきたというところだろう。」


フンと小さく鼻を鳴らし、満足げに頷くシュラ様。
これまでと同じように、世界各地で起こる異変や変事に対応しつつ、未だ聖戦の傷跡が色濃く残る聖域の復興も、同時に進めていかなければいけない現状。
今が一番、大変な時だ。
正念場、とも言えるだろうか。
着実に本来の力・役割を取り戻しつつある白銀聖闘士達に期待したい。
そう願うシュラ様の思いが、ヒシヒシと感じられた。



→第8話に続く


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