夕食後の片付けを終え、トレーに食後のお茶を乗せてリビングへ戻ると、シュラ様は再び自身の周辺に資料を散乱させながらクロスワードに熱中していた。
手元に引き寄せた辞書では、目的の単語を見つけられなかったのか、ポイとそれを放り投げ、別の本を引き寄せるその様子は、あのゴミ部屋の中で、物をポイポイと投げ捨てて生活していた昨日までのシュラ様と全く同じ。
ゴトンと重い音を響かせて辞書が床に落ちた事も構わず、黙々とクロスワードを解いているシュラ様の姿に、私は大きな溜息を堪え切れなかった。


溜息の理由は二つ。


一つは、頬に受けたキスのせいで、すっかり頭が混乱してしまった私の無駄に高揚した感情に対して、何ら気遣いも配慮もないシュラ様の態度への苛立ちの溜息。
お陰で、シュラ様を意識し捲くってしまった私は、向かい合って夕食を摂る事すら困難になって、食べ物がマトモに喉を通らなかった。
まぁ、シュラ様にとっては冗談半分な悪戯だったのでしょうから、私が勝手に意識して舞い上がってしまうのは責任の範囲外。
それは仕方ないとして。


二つ目は、今のこの態度。
彼が目を丸くするくらい綺麗に片付けて、お部屋の内装も素敵に変えたというのに。
未だ以前と変わらない様子で、平気で部屋を汚していくその神経の図太さに、呆れの溜息が抑え切れなかった。


「何だ、その大きな溜息は?」
「シュラ様の散らかしっぷりがあまりに凄くて、呆れの溜息が出たんです。」


私がそう言うと、シュラ様は片眉を上げて自分の周囲を見回す。
そして、少しだけ申し訳ないと思ったのだろうか。
床に落ちていた資料や辞書を拾い上げ、目の前のテーブルに積んだ。


「終わったら、ちゃんと片付ける。」
「本当ですか?」
「仮にも黄金聖闘士だぞ。嘘は吐かん。」


これがデスマスク様なら、確実に信用出来ないんですけどね。
シュラ様はそういうトコロは真面目な方だから、部屋は汚くて片付けられなくても、嘘は絶対に吐かないと信じられる。


私は小さく微笑むと、テーブルの上にあった資料を脇に寄せて、運んできたお茶をシュラ様の前に置いた。
そんな私を横目で見て、ソファーの上に積んであった辞書類を除け、人が一人座れる分のスペースを作ったシュラ様。
合図のようにポンポンと空いた場所を叩いてみせる。
それは、ココに座れと、そういう意味でしょうか?
床に膝を付いたまま見上げると、シュラ様が小さく頷いた。


「どうしても解けん問題がある。一緒に考えてくれ。」
「シュラ様でも分からないものが、私に解けるのでしょうか?」
「人には得手不得手があるだろう。俺には思い付かない言葉でも、アンヌならすんなり答えが出てくるかもしれん。」


望まれるままにシュラ様の隣へと座り、彼の膝の上に乗っていたクロスワードの雑誌を覗き込む。
すると、数十センチは空いていた私との距離を詰め、ピッタリと真横へと寄り添ってきたシュラ様。
途端にドキリと跳ね上がる私の心臓。


カッと赤くなる頬の熱に焦る私を余所に、シュラ様はクロスワードの雑誌を自分の膝の上に半分だけ残し、残りの半分を私の膝の上に乗せた。
そんな風にされては、私の方から距離を空ける事が出来なくなってしまう。


一冊の雑誌を半分ずつ膝の上に乗せて、それを覗き込むシュラ様と私。
まるで恋人同士のようだわ、こんな近くに寄り添っているなんて。
正直、本日何度目になるか分からない心臓の不規則な高鳴りに混乱した私の頭は、クロスワードを解けるような状態ではなかった。



→第6話に続く


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