「あの、シュラ様……。よろしければ、それ、毎日、使っていただいても……。」
「良いのか?」
「はい。今度、市街に出た時に、買い足しておきますね。」
「あぁ、ならば……。」


言いながらシャワーに手を伸ばす。
勢い良く降り注いだお湯の雨に、シュラ様の身体を覆っていた真っ白な石鹸の泡が、スルスルと流れ落ちていった。
弾ける水滴と、露わになっていく逞しい彼の身体……。


って、またしても見惚れてしまったじゃないの、私!


「任務に出る前に、市街に買い出しに行こうと思っていた。アンヌも一緒に行くか?」
「買い出し……。あの、晴れでさえなければ……。」
「暫く天気は悪いらしい。なら、明後日だな。明日は白銀達の模擬戦に付き合う事になっている。」
「模擬戦? シュラ様も?」
「俺は指導するだけだ。俺とアイツ等じゃ、レベルが違い過ぎて、手合わせにもならん。」


それは、まぁ、そうでしょうね。
黄金聖闘士は、技も速さも力も、実力が桁違いだって聞きますし。


「遠方から帰ってきたばかりだというのに、良く体力が続きますね。」
「当然だ。動くのが仕事、戦うのが仕事だからな。どんな時だろうと、直ぐに動けないようでは、聖闘士として生きる意味がない。」


キッパリと言い切る当たり、流石はシュラ様と言いますか。
シュラ様らしいと言いますか。
デスマスク様の口からは、間違っても聞けないような言葉の数々に、感嘆するばかりだ。


ザザッと、強めたシャワーで最後に一流しすると、キュッとシャワーを止めるシュラ様。
髪の毛に溜まった水滴を払う仕草が、無意識でありながらも艶めかしくて、ついつい目が離せなくなる。
いやいや、だから、見惚れている場合じゃないでしょ、私!
グダグダしている内に、シュラ様が湯船の中へと戻ってしまったじゃないの!
私は慌てて身体に残った泡を流すと、彼の後を追って、浴槽の中へと舞い戻った。


「……本当に、これは気持ちが良い。」
「シュラ様が気に入ったようで良かったです。」
「お前はどうなんだ、アンヌ?」
「浸かっているだけで、身体の凝りが解れてくるようで、とても心地良いです。」
「そうか……。なら、やはり温泉だな。任務後の旅行は。」


その言葉に、私は直ぐ横に座る彼を見遣る。
シュラ様は視線だけを私の方へと動かして、小さく片眉を上げた。
つまり反論は許さないという事だ。
温泉行きは決定事項で、決して覆らない、と。


ザバリ、大きく音がして、シュラ様が浴槽の淵に、両腕を預けた。
そのまま背を反らせて大きく伸び。
それから、前に向き直って、大きな欠伸を一つ零した。


何だろう……。
ほんわり、のんびりした雰囲気。
和んだ空気、ポカポカと温まる身体。


私は頭を、そっとシュラ様の肩に預けた。
寄り添い、もたれ掛かって、ぼんやりと湯船の中で時間を潰す。
会話はない。
もたれる胸の奥から、トクトクと一定のリズムを刻むシュラ様の心音だけが聞こえてくる。
二人並んでお湯に浸かる、この瞬間は、とても心地良くて。
こうしてホッコリと過ごせる事が、何よりも嬉しいと思えた。





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