多分、今の私に求められている役割は、アフロディーテ様の話の聞き役だ。
彼は私に話を聞いて欲しくて、シュラ様の居ない今、ココに顔を出した。
勿論、私の様子を窺いに来たというのもあるだろうが、訪問理由の九割方は前者のためだろう。


「どうかされたのですか?」


取り敢えずは話を振ってみる。
気付かない振りして流す事は出来そうにない。
こんなにも分かり易く訴え掛けてきているのですもの。


「キミ達を見ていると、羨ましくてね。」
「シュラ様と私の事、ですか?」
「そう。キミ達二人は、こんなにもスムーズに愛を育んでいるっているのに、私はというと、さっぱり上手くいかない。世の中は不公平だよ。」


スムーズに愛を育めているかは疑問に思うところだけれど、私達だって、そう簡単に事が進んだ訳ではない。
シュラ様にとっては、ここに至るまでに六年も掛かった。
しかも、私に重いトラウマがあったせいで、なかなか恋人同士らしい状態にまでなれなかった。
それをクリア出来たのも、つい数日前なのだ。


「私だって、同じくらいの時間は掛けているよ。もう四年、彼女だけを想っているのだから。」
「四年……、ですか。」


黄金聖闘士様というのは、皆、一途な方ばかりなのだろうか。
シュラ様といい、アフロディーテ様といい、一人の女性をそんなにも長く想い続けていられるなんて。


「アンヌはウチの女官を知っているだろう?」
「え、あ、はい。仲良しです、一応。」


双魚宮の女官の子とは、同じ宮付き女官仲間として、頻繁に情報交換などをしている仲だ。
彼女も宮付きとしての職歴は長くて、確か、双魚宮に勤めて四年程……。


「あ……。」
「そう、そうなんだ。私の愛しい想い人は、彼女なんだよ。」


そういう事ですか。
それで、シュラ様と私の事を「羨ましい。」と仰ったのですね。
私達と同じ、宮主と宮付き女官という関係、立場。
同じように長年、想い続けた相手。


「私もね、シュラと同じ考えだった。どうせ命を落とす運命。ならば、彼女の心を縛るような事はしたくない。そう思って、ずっと心の奥に、この想いを閉じ込めていた。だけど、聖戦は終わり、私達は再び命を取り戻し、この世界に戻ってきた。聖闘士である以上、常に命の危険と隣り合わせだ。いつ、また死すとも限らない。でも、だからこそ、今度は後悔したくない、そう思った。彼女に、この想いを伝えるべきだと。」


それが、あの日の出来事だったのだろう。
双魚宮の女官の子が出て行ったと言って、この部屋に乱入してきた、あの夜。
酷く酔っていた事を思えば、告白は上手くいかなかったのだろうか。


でも……。
私が見ていた限りでは、彼女もアフロディーテ様の事が好きだったのではないかと、そう思える。
彼女がアフロディーテ様の事を話す時、いつも楽しげで、双魚宮の女官である事が幸せなのだと、そう言っていた事もあった。
鈍い鈍いと皆から言われる私でも分かる。
彼女はアフロディーテ様の想いを、無碍にするような事はしない。


「私も、彼女の心は私に向いていると、そう思っていたよ。でもね。彼女は出て行くと、ココには居られないと言ったんだ。私の精一杯の告白を受けてね。そして、言葉通りに宮を出て行ってしまった。」
「どうして、そんな……。」


理由が分からず、私も首を捻るばかりだ。
彼女が何故、そんな事を言ったのか。
どうして、そんな行動を取ったのか。
納得のいく理由が思い浮かばず、ただアフロディーテ様の顔を見返すばかりだった。





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