「全く……。今夜は邪魔ばかり入る。」


軽い溜息と同時に、片眉をクイッと上げたシュラ様。
ズッシリと圧し掛かっていた身体を、漸く私の上から退かせてくれる。
私は慌てて身体を起こし、肌蹴て乱れた服と下着を元の状態に整えた。
隣からは、ドサリとシュラ様が腰を落とす音。
革張りのソファーが柔らかく上下に振動する。


「何故、服を戻す? 別にそのままで良いだろう。」
「え? でも、もう何も――、って、きゃあっ!!」


アフロディーテ様の出現で、すっかりソッチの気分は失せてしまったのだ。
先程の戯言を本気にして、もう一度、アレを再開するなんてないだろう。
ベッドに入れば分からないが、取り敢えず、今は、もう何も……。


そう思っていたのに、シュラ様のこの言葉。
そして、彼の方を振り返ってみると、未だ上半身は裸のままで。
ボトムスも、腰の真ん中より下に摺り下がった状態。
しかもだ。
摺り下がったボトムスの隙間から、興奮して力を持った彼自身がホンの僅かだけ、ひょっこりと顔を出していたのだから、羞恥と驚きの悲鳴を上げた後は、もう声すらも出なくなってしまった。
私は即座に目を逸らし、顔を背けて、そんな姿の彼に対して、背を向けるしかない。


「何をしている、アンヌ?」
「な、何をって! し、シュラ様が、そのような格好のままだからです! 早くズボンを上げてください!」
「どうせ今から続きをするんだ、このままで構わん。」
「構います! それに続きはしません!」


あんな事があったっていうのに、萎えなかったシュラ様が凄過ぎるのですけど!
第三者が割り込んできたあの状況で、良くもまぁ、そんな元気いっぱいなまま保っていられるなんて、普通じゃ有り得ないですよ。
せ、性豪の神……、でしたっけ?
シュラ様がパーン神の化身っていうのも、あながち嘘じゃない気がしてくる。


「俺は続きをする気、満々なんだがな。」
「私はしない気、満々です。」
「冷たいな。もう少し色気のある応対くらいしてくれても良いだろうに。」
「シャワー浴びてきます。」


服の乱れも直さないまま、思わせ振りに肩に手を掛けてくるシュラ様を押し退けて、席を立つ。
このまま傍にいては危険だ。
また何だかんだで押し倒されかねない、本当に危険過ぎる。


「アンヌ、シャワーなら向こうの浴室を使え。」
「え?」
「俺達は夫婦だ。風呂もシャワーも共有で良い。」


私はずっと、使用人用の小さな部屋に住み、その部屋に付属している狭いシャワー室を使っている。
シュラ様と寝室を共にするようになってから数日、部屋は着替えとお化粧の時くらいにしか使っていないけれど、シャワーは未だに自分の部屋のを使用していた。
それをシュラ様が使用している広い浴室を使えと、そう言ってくれている。


「別に警戒しなくて良い。シャワー中に襲ったりはしない。」
「シュラ様は前科があるから信用出来ません。」
「前科? 何の事だ?」


まさか昨日の出来事を、もうすっかり忘れているとか、本気で言っているのじゃないでしょうね!
この人の言葉は心底、信じられないわ!
そうは思いつつも、広いバスルームの魅力には勝てず、私はタオルとお風呂セットを抱えて、嬉々(イソイソ)と広い浴室へ向かった。



→第4話に続く


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