「その服、試着出来るか？」
「えぇ、勿論です。あちらの方がお連れ様ですか？」
「あぁ、そうだ。」
「では、どうぞ。試着室は中です。」


何だか良く分からないうちに店員さんに手を引かれ、店の奥へと連れていかれる。
アタフタとしている間に、ファスナーを開けた服を手渡され、そのまま試着室の中へと押し込まれてしまった。


「終わりましたら、お呼びください。」


ええっ！
着替えなきゃ、出ちゃ駄目なの？！
というか、シュラ様、強引過ぎっ！


多分、着替えを拒否して、今のままの服装で出て行ったら、あの鋭い眼差しで氷点下の視線を浴びせてくるのだろう。
氷点下というより、寧ろ、視線そのものが聖剣とでも言えそうな鋭さで。
ここは諦めて着替えるしかないようだわ。


「……着替え、終わりました。」


私は渋々、その洋服に着替えて、試着室を出た。
正直、似合っているとは思えないのだけど……。


「やはり思った通りだ。良く似合っている。」
「そ、そうでしょうか？」
「そうだと言ったら、そうだ。俺はお世辞など言わん。」


ていうか、シュラ様、見過ぎです、見過ぎ！
頭の先から足の先まで、それこそ舐めるようにジックリと見てくる。
そのシュラ様の視線に耐え切れなくて、モジモジしてしまうと言うか、落ち着かないと言うか。
兎に角、慣れないものを身に着けるのは、本当に恥ずかしい。


「お客様、着心地は如何ですか？」
「え、あ、そうですね。腕や足も動かし易いし、とっても良い着心地です。ただ、ちょっとパンツが緩いんですが。」


そう言って、チュニックの上から腰回りに余ったパンツの布を掴んでみせる。
すると、店員さんは直ぐに一つ下のサイズのパンツを持ってきてくれた。


「こちらを試着してみてください。きっと丁度良いかと思います。あと、このトップスもお客様に似合いそうかと思いまして持ってきたのですが……。」


差し出されたのは、紺色に白のドットが細かく散っている、これも腰下まであるチュニック。
今、試着している洋服とは違い、ドット模様が可愛らしい印象の爽やかなデザイン。
ただ……。


「アメリカンスリーブか。アンヌはスタイルが良いから似合いそうだ。」
「で、でも！　これじゃ、下着が着けられません！」


ノースリーブのように腕だけが出ているのとは違い、首の根元から袖ぐりの下まで斜めに大きくカットされたデザインは、腕どころか、肩の全部と鎖骨の半分くらいは露出している。
つまりは、下着を着けると、肩紐がはみ出してしまうという事。


「そんなもの、肩紐のない下着にすれば良いだろ。いっそ下着など着けなくたって俺は構わん。」


シュラ様、サラッと何を言っちゃってるんですか！
シュラ様は構わなくても、私は構うんです！
ノーブラなんて困るんです、無理なんです、絶対に御免です！


ゼーハーと肩で息をしている間に、シュラ様は一人で勝手にお会計を始める始末。
私の意志など関係なしに進められていく買物に、ただ諦めの息を吐きつつ、私は試着室の中に戻った。


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