俯く視界の中、部屋に差し込む光の模様。
未だ外で降り続く雨の影が、床の上でユラユラと揺らめいていた。
そして、白い包帯に包まれた彼女の足元と、その上で揺れる羽細工。
耳には外から聞こえる風の音と、次いで、歩美さんの声が静かに響いた。


「アイオリアは単純だもの。見ていて直ぐに分かる。貴女を見る、あの目。瞳の輝き。好きで好きで堪らない。そんな気持ちが、彼の緑の瞳に浮かんでたわ。」
「…………。」
「悔しいけれど、どうしようもないわね。だって、彼はずっと前から、アンヌさんの事が好きなのでしょう? それに――。」
「??」


ホンの刹那、途切れた言葉に、思わず顔を上げる。
途端に交差する視線と視線。
彼女の強い意志を宿した漆黒の瞳に、私の姿が映っている。


「アンヌさんには、恋人がいるみたいだし、ね。」
「えっ?! ど、どうしてそれを……?!」
「あ、やっぱり。」


しまった。
言ってしまってから気付く、カマを掛けられたのだと。
相変わらず、私はこういう事に引っ掛かり易い。
易いと言うか、百パーセントの割合で引っ掛かる。
穴があったら入りたいわ、自分のこの迂闊さ、恥ずかし過ぎる。


「貴女の身体から男の人の匂いがするもの。さっき背を支えてくれた時にね、『おや?』って思ったの。」
「そう、ですか……。」


デスマスク様以外にも、あっさりと気付かれてしまった。
そうよね。
女の人は、こういう事には鋭いもの。
気付かれて当然だったのに、彼女には全然、注意を払っていなかった。


「相手は誰? やっぱり黄金聖闘士?」
「そう思いますか?」
「そりゃあ、そうでしょう。アンヌさんのように美人で優秀で従順そうな人なら、黄金聖闘士全員で奪い合いしてもおかしくなさそうだもの。」


そ、そんなとんでもない事、絶対に有り得ないと思いますけれど……。
でも、他の人の目から見ると、私って、そのように高評価なんですね。
シュラ様にも何度か言われていたけれど、正直、本気と受け取っていなかった。
シュラ様だからこその贔屓目なのだろうと。


「で、誰? やっぱり勤め先の宮主さん? えっと、確か山羊座の――。」
「シュラ様、です。」
「そうそう、シュラさん。お付き合いしてるの?」
「は、はい……。」


自分でも酷く歯切れの悪い返事だと思ったが、大きな声では言えない以上、どうしてもこういう答え方になってしまう。
それが、やはり気に食わなかったのか、歩美さんは少しだけ口元を尖らせた。
その表情は、とってもキュートだ。


「随分と曖昧な肯定ね。どうして? 知られちゃマズかった?」
「はぁ……。あの、まだ公表していないものですから……。歩美さんも、出来れば内緒にしておいてくれませんか?」


今はまだデスマスク様とアフロディーテ様、そして、何処で知ったのかアイオロス様の三人にしか知られていない、シュラ様と私の関係。
しかも、ただお付き合いしているだけであって、本当の意味での恋人同士には、まだなっていない。


だから、キチッと私達の関係が固まるまで、それがいつになるかは分からないけれど、出来るだけ伏せておきたかった。
アイオリア様には悪いと思うものの、もう少しだけ秘密にしておこうと思っていた。





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