それから間もなくして、教皇様への報告を終えたアイオリア様が戻って来た。
私達は、それまでの経過をアイオリア様へ事細かに伝えた上で、この先の彼女の事は全て彼に任せる事にした。
それは、執務もあるから直ぐに戻りたいとの、アイオロス様の意向があったからだ。
アイオリア様に反対意見を言う隙を与えず、もう彼女は安心だからと言い張って、アイオロス様は私を抱え上げ、帰路に着いた。


正直、彼女のあの戸惑いようを思えば、決して安心出来るとは言い難い。
先程はアイオロス様のペースに飲まれて、納得せざるを得ない状況にあったから、渋々ではあるが説得に応じてはいるものの、きっと明日辺り、いや、早くて数時間もすれば、彼女も冷静な思考を取り戻すだろう。
そうなれば、説得に応じた事を後悔し出す、確実に。


だからだわ。
アイオロス様は一分・一秒でも早く教皇宮に戻り、彼女の件を片付けてしまいたいのだ。
冷静になった彼女が「やはり納得出来ない。」と、意見を変える頃までには、全ての手続きを終えて、何をどう言っても身動きが取れないようにするのが目的。
彼女が何事かを言い出した頃には、時既に遅し、という寸法だ。


「どうやら、キミは気付いているみたいだね。リアは分かってなかったみたいだけど。」
「え?」
「俺が急いでいる理由、分かっているんだろう?」


獅子宮から磨羯宮まで。
瞬きの間の一瞬の移動を終え、プライベートルームへと続く扉の前に降ろされると同時。
そう告げられて、私はコクリと頷いた。


「アンヌは頭の回転も速いし、仕事もキッチリこなし、気も利く上に、一歩先を読むのも上手い。正直、宮付きの女官にしておくのは勿体ないな。おっと、もう『女官』ではないんだったか。」
「え、あ、はぁ……。」
「恋愛事に鈍いのが玉にキズだが、それもまたシュラやリアの心を擽るんだろうね。しかし、惜しいな。この十三年、死んでさえいなければ、アンヌを俺の専属の秘書に欲しいくらいだったのに。」
「そんな……。買いかぶり過ぎです、アイオロス様。」


聖域イチと言っても過言ではないスーパー美男子のアイオロス様に、こうもストレートに褒められると、恋愛方面の言葉じゃないとしても、それはそれでとても照れ臭くて恥ずかしい気持ちになる。
私は真っ直ぐに彼を見ていられなくなって、失礼とは思いながらも、顔を隠すように俯いた。


「さて、と。アンヌを困らせるなと、シュラに念押しされてるから、これ以上は止めておこう。さっさと戻って、俺がすべき事をしなければな。ここからが腕の見せどころ、この二時間が勝負の時だ。」


二時間……。
そんな短い時間で日本政府を納得させ、全ての手続きを滞りなく終えるつもりでいるの?
何という無謀な。
そう思いながらも、アイオロス様ならば、きっと難なくやってのけるだろうとも思った。





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