朝の光が降り注ぐ明るい部屋を、沈黙が流れた。
そこにあるのは、重い重い空気。
椅子に腰掛け、頭を垂れて俯くアイオリア様。
ソファーの背に凭れて、天井を見上げながら考え込むデスマスク様。
シュラ様は壁に背を預け、腕を組んで立ったままでいる。
そして、私はシュラ様の横に佇み、ジッと三人の様子を窺っていた。


息苦しい。
そう形容するのが一番ピッタリとくる雰囲気。
迂闊に口など挟めない。


私は隣に立つシュラ様を、チラリと見上げた。
相変わらずの無表情で黙ったまま、鋭い眼差しでアイオリア様とデスマスク様を見ている。
いつもなら、その無表情の中に現れる感情が容易く見て取れるのだが、この時ばかりは、彼が何を考えているのか掴めなかった。
これが本当の無表情と言うのだろうか?


いや、違う。
無表情なのではなく、相手や周囲に感情を読まれないように、心の奥にグッと押し込めているんだ。
それは、幼い頃から聖闘士として闘いの場に赴いていたシュラ様が、迂闊に相手に心の変化を気取られないよう無意識に身に着けた感情制御。
それが働いているせいで、私にさえも感情が読み取れないのだわ。
だって、今のシュラ様の顔は普段の彼ではないもの。
それは聖闘士としての顔。
いつも宮の中で見せている、彼の顔とは違う。


見上げていたシュラ様の横顔から、そっと視線を外す。
今の彼は『外』の顔をしている。
それは、任務や仕事の時に見せる顔。
そのためか、自分がこの場所にいる事が、酷く場違いなように思えてきて、外した視線を足元に移した。
朝日に光る艶々とした床に、細い影が伸びている。


少しだけシュラ様が身動ぎをしたのを感じたが、私はそのまま俯いていた。
ココにいても何も出来ない、良い考えも浮かばない自分が歯痒い。
いっそ、もう一度、あの女性の眠る部屋に戻って、彼女の傍に控えていた方が良いのではと思える。
私に出来る事、そして、私に求められている役目は、彼女の看病だ。
この獅子宮に勤めるアイオリア様の従者さんは男の人だし、相手が女性であれば、看病するにも何かと躊躇う事も多いだろう。
着替えもそうだし、手当てだって。


顔を上げる。
黙り込んだ二人も、横のシュラ様も、まだ動きのない状態。
よし、部屋を出るなら、今だわ。
そう思って、足を一歩前に進めた時だった。


「……彼女は、日本人だ。」


思い掛けずアイオリア様が口を開き、「あ?」と声を上げたデスマスク様と、目を見開いたシュラ様と、驚きで足を止めた私は、三人同時に彼の方を見遣った。





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