「お前は獅子宮に帰って食えば良いだろう。自分のところの従者が夕飯の用意だってしてるんじゃないのか? だったら、とっとと帰れ。」
「別に良いだろ。お堅い事を言うな、シュラ。アンヌが折角、俺の分まで用意してくれたんだ。食べない方が失礼だろ。」


言い合いを続けながら、浴室のある方へと向かう二人。
その後ろ姿を眺めながら、私は軽い溜息を吐いていた。


だが、シュラ様が着ていたTシャツに手を掛けた時点で、ハッと危険を察知した私。
慌ててクルリと背中を向けた。
それで大正解だった。


「な、何を脱いでいるんだ、シュラっ?!」
「汗塗れで気持ち悪いだろう。」
「だからと言って、ココで脱ぐな! アンヌもいるんだぞ! って、聞いているのか?! そんなところに脱ぎ捨てて、どうするんだ?!」


背後から聞こえるのは、困惑と怒りの入り混じったアイオリア様の怒鳴り声と、それに答えるシュラ様のツラッとした声。
思った通り、いつものようにリビングから脱ぎ始めているようね、シュラ様は。
私は慣れているから良いけれども、初めてそれを目の当たりにしたアイオリア様にとっては、驚愕ものだろう。


「お前も脱げ、アイオリア。そんなにビショ濡れじゃ気持ち悪いだろ?」
「い、良いからっ! 俺は向こうで脱ぐ! って、オイ! 勝手に人の服に手を掛けるな!」
「気にするな。脱いだ服は、アンヌが片付けてくれる。」
「な、何っ?! こんな汚いものの処理まで、彼女にさせているのか?!」
「いちいち煩いな、お前は。ほら、早く脱げ。それとも、脱いだらマズいようなパンツでも履いているのか、アイオリア?」
「ち、違うっ!」


何やら不穏な遣り取りが聞こえてくるけど、聞こえない振り、聞こえない振り。
絶対に振り返っちゃ駄目よ。
振り返ったら最後、あのとんでもない状態のシュラ様が視界に入ってしまう事になるのだから。
しかも、今日はアイオリア様という、これまた見事な体躯を誇る方のオプションまで付いている。


「お、真っ赤なパンツか。やる気満々だな。」
「いや、これは、その……。兄さんがプレゼントしてくれたんだ。俺の趣味じゃない。」
「良いではないか。お前に合っている。」
「シュラに言われても嬉しくないが……。って、待て! パンツまで脱ぐのか?! いや、俺は良いっ! うわっ、止せ! 俺のパンツに手を掛けるな、シュラ!!」


その言葉を最後に、二人の声はフェードアウトして消えていった。
念のため、それから三十秒程度、その場に立ったまま目を瞑っていたのだが、物音一つしなくなったなら、もう大丈夫、かな。
もうココにいない事は確実だろうと、恐る恐る振り返る。
案の定、フローリングの床には汗にグッショリと濡れた二人分の衣服が、ドアの方に向かって点々と散乱していた。


「あ、本当に赤だわ。」


私のいつもの三点セット、トングと籠と濡れ布巾を手に、せっせと床の上の散乱物を片付ける。
身を屈めてトングで摘んだパンツ、それは明らかにシュラ様の物ではなく、アイオリア様の物だった。
黒やグレーのボクサーパンツしか履かないシュラ様が、こんな真っ赤で派手なボクサーパンツ、持ってる訳がないもの。
でも、縁に黄色いラインが入った、その真っ赤なパンツ。
スペイン国旗みたいで、派手色を好まないシュラ様にも意外と似合うんじゃないかと、ちょっとだけ思った。





- 8/12 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -