「もう具合は良いのか、アンヌ?」
「い、一応は……、大丈夫かと……。」


潜り込んだタオルケットの中で、自分の声がくぐもって聞こえる。
朝とはいえ高い室温のせいか、タオルケットの中は酷く息苦しい。
顔を出して新鮮な空気を吸いたいと思う反面、でも、ここで顔を出せば、何だか負けのような気がして悔しい気もするし。
そんな事を考えながらモゾモゾと動いていたら、シュラ様の大きな手にポフッと頭を撫でられた。
柔らかに撫でる手の感触が、とても心地良い。


「そうか、良かった。だが、まだ安心は出来んな。今日も一日、仕事は休め。」
「え、でもっ!」


思わずタオルケットを引き下げ顔を出すと、予想以上に近い場所にシュラ様の顔があって驚く。
い、いつの間に、こんな近くまで身を寄せていたのだろう。
先程、起き上がった時に、ある程度の距離は取っていた筈なのに。


「あ、あのっ……。」
「何だ?」
「いえ、その……、お顔が随分と近いな、と……。」
「このくらい近くても良いだろう。いつでもキス出来る距離だ。」


ま、また何か言った!
襲うとか組み敷くとかキスするとか、今朝のシュラ様は激しく攻撃的過ぎるわ。
熱は下がった筈なのに、何だかまたクラクラと目眩がしてくる……。


「キスは……、遠慮しておきます……。」
「そうか? 残念だ。」


そう言って、いつもの無表情の中にチラと残念そうな色を浮かべたシュラ様。
それは、本気で『残念だ』と思ったという事?
また分不相応に、彼に対して期待してしまう気持ちが沸々と心の奥に湧き上がってくる。


「兎に角、今はもう少し寝た方が良い。まだ朝の六時前だからな。起きるには早過ぎるだろう。俺は今からトレーニングに行って来るから、アンヌは大人しくココで寝ていろ。」
「でも……。」
「良いから、寝ていろ。」


シュラ様がトレーニングに出て行くというのに、寝てなどいられない。
そう思って、起き上がり掛けた私の身体を、シュラ様は右手で軽く押し返す。
やんわりとした力でベッドの上に押し戻されて、抵抗なんて出来るものではない。
私はただ目を見開き、ベッドに横になったままシュラ様を見上げていた。


と――。


「きゃっ?!」
「ん? どうした?」
「や、しゅ、シュラ様っ! ふ、振り向かないでくださいっ!」


私を元の場所へと押し戻したシュラ様が、スルリとベッドから抜け出した、その瞬間。
私の目に映ったのは、衣類を何も身に着けていない彼の後ろ姿だった訳で……。
つまりは、シュラ様の立派な筋肉に覆われた引き締まったお尻を目の前に見てしまった訳で……。


「ま、まさか、は、裸で寝てらしたのですかっ?!」
「まさかも何も、俺はいつも裸で寝てるが?」


という事は、真っ裸の人に抱き竦められて寝ていたんですか、私は?!
何も着てないシュラ様に、こんな下着だけの姿で、ずっと抱き締められていたと?!


私は慌てて寝返りを打ち、シュラ様に背を向けた。
顔がカアッと火照る。
この調子では、また熱が上がりそうだわ。
何だかもう色々と刺激が多過ぎて、この熱が何によって上がってしまったのか、熱中症によるものなのか、それともシュラ様の行動のひとつひとつに当てられたものなのか。
背後でガサゴソと動く彼の気配をヒシヒシと感じながら、それすらも分からなくなりそうだった。





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