聖域リーマン物語54
2021/05/31 01:50


「さあ、リア。今度こそ帰るぞ。ディーテ、後の事は頼んだのだ。」
「ふふっ、リアのためにね。任せてくれ。」
「お、俺は別に、そのような事は……。」


明らかに酔いのせいではなく、狼狽によって赤面するリア。
それを微笑ましく見つつ、ニヤリと笑みを浮かべるディーテとカミュの男二人。
その意味が理解出来ずに、デスは肩を竦めて、グラスに残ったカクテルを飲み干した。
横のシュラは、そちらにはまるで関心がない様子で、箱に残った最後の和菓子をジーッと凝視している。


「なンだ、もう帰ンのか?」
「丁度、帰ろうとしていたところだったのだ。少し長居し過ぎた。」
「俺は、まだ飲み足りない気がしているが……。」
「さっきも言っただろう。キミ達は飲み過ぎだって。明日も仕事なんだから、さっさと帰った方が良いよ。」
「客を追い出す店主……。」
「何か言ったかい、シュラ?」


初夏なのに氷点下を思わせる冷酷な眼差し。
ディーテの一睨みに、無表情男のシュラもギクリと口元を引き攣らせる。
ディーテを怒らせると怖いのだ、それは長い付き合いで良く分かっていた。
プチッとキレたら最後、どんな反論も捻じ伏せる毒舌の雨霰が降ってくる。


「き、気を付けて帰れよ、カミュ、リア。」
「あ、あぁ、シュラ。じゃ、また来る。」


ニコニコしながらも背後にどす黒いオーラを纏うディーテに向かって軽く手を上げ、カミュとリアは店から出て行った。
後に残されたシュラの表情は、未だ引き攣ったまま。
殺し屋とまで言われる強面の無表情は、何処へ行った?


「水をくれ。」
「だから、言っただろう。一気に和菓子を食べるのが悪い。」
「いや、喉を詰まらせたのではなく、酔いを醒ましたいだけだ。」
「ふ〜ん……。」


ジト目でシュラを見遣りつつ、グラスに注いだ水を差し出すディーテ。
その視線を受けながら、シュラは一気に水を飲み干した。
少しだけ気分がホッと和らぐ。


「で、頼まれ事ってのは、なンだよ?」
「あぁ、それね。デスへのお願いさ。」
「俺に?」
「出逢いの機会に恵まれないリアのために、女の子をね、見繕って欲しいな、と。」
「はぁ? アイツ、仕事柄、美人看護師と仲良くなれるチャンスがゴロゴロしてンじゃねぇの? 俺に頼む必要なんざねぇだろ。」
「担当が個人病院やクリニックばかりで、オバチャン看護師としか出逢えないらしいぞ。」


あぁ、そりゃ可哀想に。
数人のオバチャン達に囲まれてタジタジアワアワするリアの姿が目に浮かぶ。
軟派でやり手な兄貴とは、随分な違いだ。
デスは、顔はソックリなのに中身は正反対のリアの兄の顔を思い浮かべ、小さく溜息を吐く。


「で、いつよ?」
「今週の土曜日。」
「明後日じゃねぇか。急過ぎンだろ。」
「フットサルの練習試合なんだ。リアが活躍する格好良い姿を女の子に見てもらうには打って付けだろう?」


引き受けてくれたなら、今夜のカクテルは全て私のおごりにしても良い。
そうディーテが言い放った一言に、デスの瞳がキラリと光った。
ディーテが飲み代をタダにしてくれるなど、滅多にない好待遇。
どうせ土日の約束も入ってなかった事だし、多少の協力ぐらいはしてやろうか。
口の端をニヤリと軽く上げ、今夜はガッツリ飲んでやろうと決めたデスだった。


(つづく)


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