彼女は天竜人その2

「センゴク! 早く出ていくアマス!」
「し、しかし……いや、分かりました」

ど、どういうこと、説明してセンゴクさん。
おれの必死の視線を受け取ったセンゴクさんは、しかしこう返した。

「説明する時間はないようだが、わたしは部屋の外にいる。……なにも起こすなよ」
「は、はい……」

無慈悲にもさっさと出ていってしまった。うそ……。

「ロシーも座るアマス! ね?」
「うん……」

手を引かれるままにソファーに腰かける。こんなふかふかのソファなんて見たことないから、レンちゃんに併せてこの部屋に置いたんだろうな。
レンちゃんになにかあれば、物理的におれの首が飛ぶのだろう……部屋の外にいるクザンさんの手によって。「ここにいるのが仕事」と言っていたクザンさんを思い出した。

「ロシーはシャボンしてないアマスか?」
「あ、ああ」
「じゃあわたしもいらないえ」
「(シャ、シャボンを割ったァーッ!?)」

ぱちんと弾けたシャボン。レンちゃんの髪がきらきらしている。ほっぺたにシャボンをが付いていたので、袖でふいてあげた。
ありがとう! と笑う彼女をみて、懐かしい気持ちになった。レンちゃんだ。きれいになったなあ……。

レンちゃんはおれの幼なじみだ。母の後ろに隠れていた人見知りなおれだったが、よく一緒に遊んだ。
もう会うことなんてないと思っていた。

「レン、ちゃん……」
「なあに?」
「なんで、ここにいるの?」
「ロシーに会いに来たの、遅くなってごめんね」
「え、ああ、うん……?」

遅くなってごめん……?
よく分からないから言葉を濁していると、そっと手をとられる。おれよりもずっと小さい手だ。

「約束を覚えているかえ?」
「や、約束?」
「大きくなったら結婚するって約束。レンも大きくなったけど、ロシーはもっと高くなっててびっくりしたアマス」
「えっ!?」

結婚!? 約束……!? 約束、やくそく…………。
全く覚えてない。『昔』と言えば、あまり思い出したくないけど、逃げていた頃のことばかりを思い出す。

「一緒にマリージョアに帰るアマス!」
「ま、待ってくれ」
「なにを?」
「……おれは、マリージョアには行かない」
「なんで? レンが……嫌い……?」
「それは違う!」
「じゃあ好き? レンと結婚してくれるアマスか?」
「それは、その……」
「……」

ま、まずい! まずいぞ……!!! レンちゃんの目に涙がたまっていく。やばい。

「ひ、久しぶりに会ったから、ほら、その、緊張して」
「レンは……もう10年も待ったアマス。まだ時間がいるかえ?」
「おれは、ほしい」
「……分かったアマス」

納得してくれた様子に、ほっとする。でもなにも解決してない。どうしよう。

「また明日くるアマス」
「う、うん……」

助けて……センゴクさん……。