別れ雨─数年前の話─の続き




紡ぎ雨─数年後の話─(がくルカ)






───なぁ、元気にしてるか?




───君が居なくなって、俺はひどくダメになったような気がするよ。















「ふぅー・・・」
 吐き出す白い煙と空を眺めながら、俺は疲れた目と頭を休ませていた。仕事の合間、取るに足らないささやかな休憩タイムを俺はこうやっていつも屋上のベンチで過ごす。


(雨、降る・・・か?)
 十階建てのビル、その屋上から見上げる広い空は、生憎なことに足下のコンクリートと同じ色をしていた。
「はぁ、イヤだなぁ」
 雨は嫌いだ、あいつを思い出させるから。


「や、憂鬱そうだね」


 聞き慣れた声が話かけてきた。そちらを向けば、今度は見慣れた甘いマスクと青い髪。
「おぅカイト、お疲れさん」
「お疲れー、隣いい?」
「やだ」
「ははっ」
 俺の返答を無視してカイトが横に腰をおろした。いつも通りのアホなやりとりだ。
「ねぇ、なんでいつも『やだ』なのさ」
「野郎と二人仲良く屋上デートとか、嫌だし」
「・・・女の子なら良いと?」
「言わずもがな」
「・・・。」


 お、なんか白い目で見られてる?そんな奴にはこうだ。俺は煙草の煙を目の前の優男に吹きかけた。
「うわ!?ゴホッゴホッ!」
 おぉ、良いリアクション。
「な、何!?」
「天罰」
「ゴホッ・・・理不尽だ」
 なんか言ってるけどとりあえず聞き流す。携帯灰皿に吸殻を収め、二本目に火をつけた。
 すると、またカイトが話かけてきた。
「さっきの話だけど」
「ん?」
「女の子なら良いって言ってたけど、がくぽ、彼女とかつくる気ないだろ?」


・・・何を言い出すかと思えば。


「あぁ、ないよ。てか、お前知ってるじゃん」
 前に言ったし。
「えっと、ルカさんのことだよな?」
「そう」
「覚えてるよ、あれだろ『ルカ以外とか、考えられないし』だっけ」
「・・・声に出せとは言ってない」
 罰としてもう一回煙を吐いてやった。
「ぶわ!ゴホッ・・・・・・それホントに勘弁」
「うるせ。何なんだよ急に」
「いや・・・別に。・・・ただ」
「ただ?」
「愛だなぁ、と思って」
「・・・意味が分からん」
 頭上に疑問符を浮かべる俺を、クックッとカイトが笑う。気色悪い奴だ。
「まぁ、すぐ分かるよ」
「・・・はぁ」
 なんか釈然としないけど、これ以上の問答は無意味そうだった。






 うん、たまにコイツはよく分からん。




















 仕事も終わりさぁ帰ろうかという頃、暗くなった空からはサラサラと音も無く霧雨が降り続いていた。
「まぁいいや、行こう」
 傘など持ってないのだ、本降りになられちゃたまらない。俺は住み慣れたマンションへ向かって歩きだした。


 帰路を往く中、身体が少しずつ濡らされていく。張り付いた髪が気持ち悪い。
 加えて、昼間にあんな話をしたからだろう。ゆっくりと雨に沈んでいく町並みに彼女と別れたあの時の風景が重なった。
 柄にもなく、ひとりで切なくなる。
「・・・ルカ」
 ポツリと呟く。彼女が隣に居なくなってから、どれくらいこの名前を呼んだろうか。我ながら女々しい。
「・・・待つとは、言ったけどさ」






 やっぱり、会いたいよ。















 Piririririri──




 静けさを破るように、右ポケットから着信音が響いた。
「ん、誰だ?」
 画面には番号だけが表示されている。すぐに切れないところをみると、どうやら知り合いみたいだ。
(誰か携帯変えたのかな)
 コール音はまだ続く。知り合いだなと確信し、俺は通話ボタンを押した。


「はい、もしもし──」














『お久しぶりです、がくぽ』
















───時間が止まった気がした。






「・・・え」
 電話ごしのその声に、思わず立ち止まった。
(まさか、嘘・・・だろ・・・)
『後ろを見なさい』
「あ、えっ・・・後ろ?」
 言われるままに振り返る。
「あっ・・・」

















 数歩向こうに、傘をさした人の姿があった。
 流れる桃色の髪、端麗な笑顔。
「元気でしたか、がくぽ」 そして、俺が大好きだったあの綺麗な声。







 見間違える訳がない。







 ずっと想い焦がれた彼女が、確かにそこに立っていた。




「ルカ!!」
 俺は彼女へ駆け寄った。目の前まで来ると、ルカは傘の中へ入れてくれた。
「・・・夢じゃないよな?」
 まだ信じられなくて俺は言った。
「えぇ、おそらくは」
 そんな余裕な返事が返ってくる。が、強がりなのにすぐ気づいた。瞳が潤んでいる。
 つられてこちらまで視界が滲み出す。それで俺はふっ切れた。
「・・・ルカ!」
 もう離れることのないように、そう祈りながら強く彼女を抱きしめた。
「待ってたよ・・・ずっと・・・ずっと・・・!」
「・・・私も、ですよ・・・」
 パシャリと傘が地面に落ちたと思えば、そのままルカの手が俺の背中に回された。
「会いたかったです、がくぽ・・・」
 腕の中の彼女が、小さくそう呟く。そして、顔をこちらに向けて目をつむった。何を求めているのかすぐに分かった。















 あの時と同じ静かな雨のなかで、あの時出来なかったキスをした。






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