それでも、君だけ(ミククオ+ミククオ)
・・・えーと、どうすればいいんだろ、この状況。
「ほんっとうに!何考えてるのよ!」
「ご、ごめんなさいー!」
今僕の目の前には、二人のミクがいる。激怒するミクと、謝るミク。
なぜこんなことになったか、話せば長くなるんだけど・・・。
ミクと違って歌う機能を持たない僕は、インターネット内でバイトをして生活費を稼いでいる。
面白い話で、広告の張り替え、サイトの巡回みたいな簡単な仕事は、警備会社のプログラムじゃなくて、僕らみたいな普通のプログラムにも出来るから、バイト募集がされることがある。
普通にネット内のスーパーやデパートなんかで働くプログラムも多いけど、短期でいいならこっちの仕事の方が割がいい。
今回の仕事は、動画サイトの巡回だった。内容は至極簡単、変な動画が無いか調べるだけ、という奴だ。
順調にチェックを済ませ、午前中の分がもう少しで終わる、
そんな時だった。
「いーーたーーーー!!」
突然背後から聞き慣れた、でもいつもと明らかに違う声が聞こえてきた。驚いて振り向く、と同時に拳が飛んできた。
バキッ!ズザザザァー!
僕は吹っ飛んだ。かなり吹っ飛んだ。
「く、クオくん!?なんで避けないの!?」
驚いた声が聞こえた。
(・・・普通、無理じゃない?)
そこで僕はしっかり気を失った。
「ほんっとうにゴメンなさい!!」
目覚めた僕への彼女の第一声がそれだった。
気絶した僕は、同じバイトの仲間に発見されて管理センターの救護室に運ばれていた。
「・・・まぁ、いいよ。気にしないで」
人違いで他人を殴って気にしないでも無いかもしれないけど、取り敢えず反省してるみたいだし、何より・・・、
(他所のとは言え、相手がミクじゃあ、ね)
そう、会ったときは分からなかったけど(それどころじゃなくて)、僕に鉄拳をくれたのは、他の家の初音ミクだった。それも、ウチとは大分違う雰囲気、第一、僕に対して拒絶反応がない。
(・・・こんなミクも居るんだな)
「ところでさ」
「はい」
まだ申し訳なさそうな彼女にちょっと聞きたいことがあった。
「ミクちゃんは、僕を自分の所のミクオと間違えたんだよね?」
「あ・・・うん」
「・・・いつも殴りかかるの?」
「・・・えーと、うん。ミクの所のクオくん、なんかやたら強いから」
「そう、なんだ」
・・・仲が悪いとかでは無いらしい。
(どこもウチみたいな訳じゃないんだな、やっぱり)
正直、羨ましい。
そんなことを考えていると、突然バンッと凄い音を立てて扉が開いた。
「ミクオ!!大丈夫!?」
現れたのは、紛れもないウチのミクだった。
「み、ミク!どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ!!アンタが仕事場で怪我したっていうから!!」
大丈夫なの!?とミクが詰め寄ってくる。近い、近いよミク!
「殴られたって聞いたわよ、何処のどいつよ!あたしがぶん殴ってやるわ!」
言えない。そこの彼女です、とは言えない。殴るだけじゃ済まさないと顔に書いてあるから。
「あのねミク、ちょっと落ち着こう」そう言おうとした、その時だった。
「ご、ごめんなさい!ミクがやりました!」
ミクちゃんがバッと頭を下げてきた。
(あっ・・・)
「・・・ふーん、そう。あなたがやったんだ・・・」
(まずいまずいまずい!!)
そこからは一瞬だった。ユラリとミクが動いたかと思うと、物凄い勢いでミクちゃんの胸ぐらを掴んだ。
「ほんっとうに!何考えてるのよ!」
「ご、ごめんなさいー!」
大激怒のウチのミクに、半ベソ状態のミクちゃん。僕もどうしたらいいのか分からず動けずにいた。
「み、ミク落ち着いて!あれ、ほら、もう大丈夫だから!」
「黙っててミクオ」
・・・・・・一蹴。
本気でまずい。この様子だと、ミクが暴力に走りかねない。
(あー、どうしたらいいんだ!?)
「あのさ、ちょっといいかな」
(へっ?)
声のした方を見ると、そこには別の僕がいた。ちょっと驚いたが、すぐに気付いた。ミクちゃんの所のミクオ、クオくんだ。
「何よアンタ」
ミクが一層不機嫌になる。
「ウチのミクが迷惑かけたらしいね。悪かった」
・・・なんか、僕より少し無愛想だな、と思った。
「クオくん!どこ行ってたの!?すっごい探しt『ガシッ!』
「お前は何をしてるんだ?」
えっ、と思った瞬間には、すでにクオくんのアイアンクローがミクちゃんの頭を捉えていた。僕とミクは唖然としていた。
「ちょ、アンタ、ミシミシいってるけど・・・」
「あぁ、大丈夫。ちゃんと加減はしてるから」
「あ、あがが・・・!」
・・・悶絶するミクちゃんの様子を見ると、ホントかどうかは疑わしい。
「それより、今日は本当にすまなかった。コイツには、僕からよーく言い聞かせとくから」
「いや、もう気にしてないから、な?ミクももういいだろ?」
「・・・まぁ、ミクオがいいなら」
そのままあの二人は帰り、僕もバイトは切り上げて帰されることになった。
「今日は色々驚きだったね」
正直、他の家の自分達とここまではっきり接触したのは初めての事だった。
「・・・・・・。」
「・・・ん?ミク?」
「・・・あのミクちゃんはさ、ミクオに拒絶反応、起こしてなかったわね」
「ミク・・・」
どうやら、僕と同じだったらしい。ミクも羨ましかったんだ、あの二人が。
「・・・確かに、正直羨ましかった」
僕達なんて、今だって何となく距離がある。
「でしょ、可愛かったよねあの子。連絡先くらい聞いとけば良かったんじゃない?」
「クオくんに殺されるよ」
「・・・それもそうね」
「それにさ」
確かにミクちゃんは可愛かった。姿だって隣の彼女と違いは無い。それでも、
「それでもやっぱり、僕が好きなミクは、ミクだけだよ」
「・・・!な、なな・・・!?」
「今日だって、僕が怪我したから飛んできたって聞いて、嬉しかった。ありがとう」
「う、本当よ!感謝しなさい!とんだ迷惑だったわ!」
「なら、お詫びに何か食べに行こうか」
「なら、スイーツね!」
「了解」
少し空いた距離はそのままだけど、
心が、ほんの少しだけ近づけた気がした。
end
○あとがき○
わ、分かりづらくなってしまっタ・・・。一応呼び方で区別してみたんですガ。うーむ、日々勉強ですネ。