十代の日祝い&空斗様に捧げます!
※最初のころ辺り設定
―10月9日 PM3:00―
「カイザー!なあっカイザー!!」
元気いっぱいの声がデュエルアカデミアの廊下に響き渡る。
ついでにバタバタと走ってくる足音も騒がしい。
ここに声の主に目を光らせているクロノス教諭がいたら『ドロップアウトボーイ!!』と目くじらを立てていただろう。
ドロップアウトボーイこと、遊城十代に呼ばれた男は、そんなことを考えて珍しく1人で笑いそうになっていた。
帝王の名をほしいままにしている男・・カイザー亮はゆっくりと後ろを振り返る。
「どうした、十代。」
頬を赤く染め息を切らせながら、十代は満面の笑顔で近づいてくる。
「良かった会えて!今日テストだから会えねーかと思った・・!」
「もう終わった。・・・1年は実技ではなかったのか?」
「終わった!勝ち抜きだったし、オレ連勝だったからっ翔もあと1人だったぜ!」
相変わらずの引きの良さを感じさせる言葉と、弟の奮闘ぶりを十代の言葉から感じ、亮は内心とても喜んでいた。
「ところで何の用だ?話があるのだろう。」
「あぁそうそう!」
今日のデュエルをカイザーに逐一話しかけてた十代は慌てたように本来の目的を思い出す。
「カイザー、明日ヒマ?」
「・・・?まあ、明日はテスト明けの休みだからな。予定はない。」
十代の表情が亮の言葉を聞いたとたんにパアッと明るく変化する。
「せっかくテスト終わったんだからさ、明日デュエルしようぜ!」
「・・・・テスト終わっても結局デュエルか。」
亮が苦笑しながら言うと、十代はむっとしたように唇を尖らせる。
「だってオレ、カイザーとデュエルするとスッゴくワクワクするんだよ!でも普段カイザーとデュエルあんま出来ないし・・明日ならテスト明けでみんな部屋に籠もってるか出掛けてるだろ?みんなに内緒で二人きりでデュエルしようぜ!」
「仕方ないな、いいだろう。」
亮は喜びの歓声を上げる十代の頭をポンと優しく叩く。
「すっげぇ嬉しいっあー早く明日にならないかな!どこでやる?カイザーの部屋行っていい!?」
「・・・・お前とデュエルしたい場所がある。そこにしないか?」
「ああ、いいぜっそこはどこなんだ?」
「そこは――――・・・・・」
ふ、と彼にしては珍しく悪戯っぽい笑みを浮かべて、亮は十代の耳元に約束の場所を囁いた。
10月10日 ―AM11:00―
「負けたぁぁぁ!!」
十代は叫びながらそのまま後ろに倒れこむ。
場所はデュエルアカデミアの横の森で、少し開けた所なので小さな原っぱのようだ。その為倒れこんでも柔らかい地面と草花があるだけなので痛くない。
「中々良かったぞ?だが爪が甘いな。」
デッキを片付けながら亮は笑みを浮かべる。
相変わらず十代は負けても楽しそうで、寝転がったまま散らばりそうになったデッキを慌てて片付けている。
十代が動く度にチョコレートのような色の髪や首筋を草が撫で、十代はくすぐったそうに身を縮める。
可愛らしい動作を見た亮はカメラにおさめたいな、と下らない事を考えてしまう。
十代の鼻の頭に千切れた草が乗っているのに気付き、亮は十代の横に膝をついて草を払ってやった。そのまま亮が腰を下ろすと、十代がごろんと転がって亮の脚の上に頭を乗せる。
「・・・どうした十代?」
「へへっなーんかいいよな。こういうのも。」
十代は雲ひとつない青空に手のひらを伸ばす。
「知ってるかカイザー。今日ってオレの日なんだっ」
「・・・・お前の日?誕生日だったか?」
亮が分からず眉根を寄せる。そういう記念日のようなものが苦手な亮には自信がない。
十代はその様子を見て可笑しそう笑い転げる。
「違う違う。10月10日で『10』ばっかだろ?昔、クラスメイトに10月10日は十代の日だって言われてさー。」
「体育の日、ではなく十代の日か。」
十代の髪に指を滑らせながら亮は、空を見上げる。
十代が空ばかり見ているから何かあるのではと気になったのだ。
だが、何もない。
「そんなお前の日にオレと2人きりでいいのか?」
大勢でワイワイ騒ぐほうが十代は楽しいだろう、と亮はそう考えて言った言葉だった。
「・・・・・・・・・2人きりがいいんだ。カイザーと。」
照れたようにふわりと笑う十代とその言葉は不意討ちだった。
亮は跳ね上がる心臓を持ち前の冷静さで落ち着かせようとするが、今回ばかりは落ち着くどころか十代ばかりを見てしまう。
「・・オレが何故この場所を指定したか、わかるか十代?」
十代は「わかんねー」と目で訴えてくる。
亮は顔を合わせて言うのが恥ずかしくなり、視線を反らしてから答えを言った。
「ここなら滅多に人は来ない。・・・誰にも邪魔されないからだ。」
言うつもりなどなかったのにな・・と亮は内心後悔をした。
十代が何も反応しないのが一番イタイ。呆れてしまったのだろうか、と十代の方を見ようとする。
が。
「・・っっカイザーーーー!!!!!」
「!?」
十代が突然抱きついてきた。否、飛び付いてきたに近い。反動で亮が十代ごと草むらに倒れこむ。
しかし十代はお構い無しに抱きついたまま離れない。
「カイザー!カイザーすげーよ!オレ達2人とも2人きりになりたかったってことだよな!良かったぁ、呆れられなくって!」
それはこっちのセリフだ、と亮は言い掛けた言葉を飲み込んだ。
そして亮を押し倒している現状に気付いて離れようとする十代の背中に腕を回して、今度は亮が十代を抱きしめる。
最初は驚いた十代もすぐに嬉しそうに亮の首に腕を回す。
「十代は、温かいな。」
「そうか?」
「あぁ。温かい。」
「カイザーも温かいぜっ」
十代は幸せそうに亮の胸に頭を載せた。
必然的に亮の視線の先は再び青空へ向く。長い指は十代の頭を優しく愛しげに撫でていた。
そうだ、
この日は・・・
「今日・・・10月10日は統計上1年で、最も晴れる可能性の高い日だから体育の日だったな・・。」
「そうなのか?」
「あぁ。小学校の運動会などが体育の日に行われやすいのもその為だ。・・・最近はその統計も怪しいらしいが。」
知らなかった、と十代は感心したように呟く。
「カイザーは何でも知ってそうだよな。」
「そんな事はない。わからない事だらけだ。」
よく女は、異性の気持ちがわからないと言うが、亮は同性の気持ちすらわからない。
そうだ・・・
亮は心の中でもう一つ、10月10日に纏わる事を思い出す。
10月10日は、晴れるから・・・・結婚式が行われるのも多いのだ。
こんな晴れ渡った空の下、愛しい人と永遠を誓うなんて、一体どれほど忘れられない日になるだろう。
「十代・・・」
名前を呼ぶと十代は亮の胸に乗せていた頭をゆっくり上げる。
「何?」
視線がゆっくりと絡まると十代の瞳のなかに自分が見える。
きっと亮の瞳のなかにも十代が映っているのだろう。
太陽の光で十代の茶色の髪が黄金色にキラキラ輝く。
綺麗、だった。
だから少し汚してみたいという、嗜虐心が煽られたのかもしれない。
気が付けば十代の顔と細い手首を掴んで手で押さえていた。
不思議そうに十代が首をかしげる。
そんな姿に誘われるように亮は顔を上げた。
「カイザー・・・」
十代の声にカイザーは唇を重ねる寸前にピタリと止まる。
十代から顔をはなすと、自分の上に乗る十代を下ろして亮も起き上がった。
カイザーはドキドキ高鳴るうるさい鼓動を抑えるように意識しながら自分の額に手を当てる。
・・・・・・オレは今一体何をしようとした?
背中に嫌な汗が滲んで、気持ち悪い。
我に返り十代を見るが、怯えた様子もなく一安心する。幸いこの手に疎い十代だ、何をするか検討もつかなかったのだろう。
しかしその十代がとんでもないことを言いだす。
「なんでやめたんだ?カイザー。」
「!?」
忘れていた。
恋愛には疎いとはいえ・・十代は妙に勘が鋭いことを。
「なんで、ギュッてしてくれないんだ?オレ重かった?」
・・・・・・・・・幸い勘は外れたようだ。危うく亮自身が勘違いを起こすところであった。
それにしても・・破壊力が大きいセリフだ。
「いや、重くはない。気にしないでくれ。」
「でもカイザー、なんか調子悪そうだぜ・・」
「大丈夫だ。」
安心させるよう十代の頭を軽く叩く。
それで安堵したのか、あろうことか十代は再び抱きついてきた。
余りの衝撃に、亮の築いた理性の壁はあっけなくボロボロ崩れていく。
「十代」
名前を呼ばれて嬉しそうに顔を上げた十代の唇に自分の唇を重ねた。
抵抗されるかと思ったら、逆に抱きつく力が増え、唇もぎゅうぎゅう押し付けてくる。
決して深くない、子犬が戯れ合うようなキスは長く続かず、亮自身から終わらせた。
顔が熱く感じる。顔が赤くなっているかもしれないと思った亮は手で口元を覆うように自らの不甲斐ない顔を隠す。
自分から動いておいて、冷静になってから急に恥ずかしくなってきたのだ。
(・・オレらしくない・・・)
一方、突然キスされた方の十代のほうが嬉しそうにニコニコしている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・十代。」
「何?」
「・・・・嫌じゃなかったか?」
十代はブンブン左右に首を振る。
「・・男からキス、されたんだぞ?」
亮の言葉に、十代は満面の笑みで答える。
「だってオレ、カイザーにチューされて嬉しかったし。」
亮は自分は都合の良い夢を見ているのではないかと思った。
おかげで亮の朱に染まった頬はしばらくは元に戻りそうにない。
「なぁ、カイザー・・」
十代は膝立ちで亮に近付き、下から見上げてくる。十代の唇がまだ幼さの残る笑みを浮かべる。
「もっかい、して欲しい・・って言ったら困るか?」
亮はクラクラしてきた。困らないが、色んな意味で困る。
「本心か?」
「聞く前に質問に答えろよ、カイザー。」
十代は拗ねたように唇を尖らせるが、瞳はデュエルの時のように至って真剣だった。
亮は観念したように十代としっかり向き合う。顔を隠す手も、下ろして拳を作る。
「・・お前の言葉が本心なら、困ることはない。」
もう済んでしまったことだ。
男なら、責任持って気持ちを伝えなくては。
亮は覚悟を決めて、十代の方に手を伸ばす。
ドローをする右手、運命を決める手を。
「お前に本心を求めるのだから、まずオレが本心を伝えよう。・・・言葉で伝えるのは少々苦手だが、聞いてくれ。」
十代は頷くと笑顔を消して瞳を伏せた。その表情はまるで、命運を賭けたドローを待つときのように見える。
「好きだ。」
十代の表情を見ながら思い出したのは、ああいう時の十代はいつも以上に引きが良いのだ。
かなわないな。
「お前は?十代。」
十代はニッと歯を見せて笑う。
「オレも!」
亮はその言葉をきいて、肩の力を抜く。亮の伸ばした手を十代は逃がさないとばかりにきゅっと握って指を絡めた。
亮は空いた左手を十代の腰に回して引き寄せる。
「カイザー・・」
「目をつむれ。」
素直に十代は目蓋を閉じて、顔を少し上げる。キスを明らかに待っている顔に、亮は鼓動が上がり表にはださないが激しく動揺した。
「まだ?」
「ちょ、っと待って・・くれ。」
今更恥ずかしくなってきた。その上、十代が可愛くて仕方がない。
「早くー」
律儀に目をつむりながら十代は空いてる手で亮の上着を引っ張る。亮もようやく落ち着きを取り戻してくる。
「十代。」
「ん」
亮の呼び掛けに十代はこたえるように絡めた右手を強く握り返す。
それを合図に亮はいまだ忠実に閉じられている瞼に唇を落とした。
次におでこ、耳、頬にと輪郭に沿ってキスをしてゆく。
「ちょ・・カイザー!」
不満そうに十代は瞼を開ける。
おかしそうに亮が微笑むと、十代は「ずりーよな・・」と頬を赤らめた。
「焦るな十代。」
「・・だって。」
十代が乞うように上目遣いで見上げられれば、亮の負けである。
唇と唇を重ねれば嬉しそうに十代は瞳を閉じた。亮もしばらく柔らかい唇の感触を楽しむ。
それから少しして亮は唇の隙間に舌をそっとねじ込む。
驚いたようにビク、と体を揺らす十代を安心させるように背中を擦る。すると十代も空いてる腕を亮の首の後ろに回した。
奥の方に引っ込んでしまった十代の舌を優しく舌先でつつくと、恐る恐るカイザーの舌へ近づいてくる。その舌を絡めて擦り合わせると十代の強ばらせた肩の力が抜けてゆく。
十代の口腔を舌で愛撫すれば十代の甘い吐息が聞こえてくる。
「ん・・はぁ・・・」
角度を変えると慣れてきたのか十代も夢中になって舌を絡めてくる。可愛らしい中に艶めかしいものが垣間見え、ドクンと亮の征服欲が疼く。
これ以上は、色々とマズいな。
唇が離れると名残惜しいとばかりに唇の間に銀の糸がつう、と伸びて、すぐに重力に負けてぷつりと切れた。
「かいざぁ・・」
唇を濡らしトロンとした瞳の十代を優しく抱き締めると、十代は「へへ・・」と照れたように笑う。
「オトナのチューしちゃったな。」
「・・・・・嫌だったか?」
「すげー気持ち良かった。」
無邪気に爆弾を落とすのはやめてもらいたい。
十代の頭を優しく撫でながら散らばった理性を集めてゆく。
「オレもだ。」
「カイザーは余裕だったろー。」
とんでもない。
十代とのキスがファーストキスだと知ったら十代はどんな反応をするだろう。
真面目なカイザーらしい、と笑うだろうか。うそだ、と拗ねるだろうか。
こんなにくすぐったい時間を、これからも続けていけると思うと亮は幸せを感じずにはいられなかった。
「カイザー。」
「どうした?」
「呼んでみたかっただけ。」
へへっと嬉しそうな笑みを浮かべる十代を、亮は宝物のように抱きしめる。
十代も甘えるように亮の胸に頬をすり寄せた。
いつも誰かが必ずいるせいか騒がしい日常も、いまここでは遠く彼方にあるようだ。
まるで世界にいるのは2人だけだと錯覚しそうになるほど、穏やかで・・いとおしい時間。
ずっと、このままも悪くない。
そう亮が幸せに浸っていた瞬間。
ぐぅ〜
・・・・・・・・近くから聞こえた、現実の音。
「十代・・」
「わりぃカイザー!お昼近いから体が勝手にー!!」
申し訳なさそうな十代に亮は苦笑するしかなかった。
「生きているから仕方ない。そろそろ食事になるだろうし、帰るか。」
「はーあっせっかくの2人きりも台無しかよー。」
離れようとする十代の手を亮はそっと握る。
「わっカイザー!?」
「帰るまでいいだろう?」
十代はただ手を繋いだだけだが、嬉しそうに笑って頷いた。
その晴れ渡った天気のような笑顔に、あたたかい声に、自然と亮は魅せられる。
今日この日を亮は、生涯忘れることはないだろう。
10月10日、十代の日。
END
初GX!!
なんだこれキャラ崩壊ごめんなさい!!
去年の十代の日に思いついたやつだから…一年間とかもう何やってんでしょうね
拙い文章読んで頂き、ありがとうございます!
そして空斗様…これがあたしの限界でした!←