なんか・・・変なんだ。

胸がきゅって苦しくなったり、ドキドキしたりするんだ。

眠れなくなったり、夢でも現実でもずっとその人コトを考えちゃうし、笑顔に嬉しくなったり、手を繋ぐとあったかくなったり・・・。

オレ、どうしちゃったのかな。

こんな気持ち、初めてでわかんない。

遊星・・・遊星なら、どうしてか知ってる?


* * * * *


「くんなよっバーカ!!」

ラリーは全速力で走りながら、後ろから追い掛けてくるガラの悪いチンピラに怒鳴る。

「逃げてもムダだぞ〜!」

3人の屈強な男たちはニヤニヤしながら、自分たちの勝利を疑わず、半分面白がってラリーを追いかけ回す。

こんな事になったのは数分前。
ジャックが数日前に遊星のDホイールを盗んで去ったため、新しいDホイールを1から作り直すことになったのだ。ラリー達はジャンクの山から使えそうな部品を手分けして探していた。
ラリーは少しアジトから離れたジャンク山に1人で来て、使えるモーターや鉄板などを見つけた。

そして帰ろうとした所を絡まれ、モーターなどを盗られそうになったのだ。

ラリーはどうにかスキをついて逃げ出したが、未だ撒くことが出来ずにいた。

「観念しな!」

「誰がするか!!」

モーターや鉄板などがラリーの細い腕に食い込む。

重い・・・・!

でも、これだけは渡さない。守ってみせる。

気が付けば、廃ビルの前の行き止まりに追い込まれてしまう。

(・・・・!?ココは・・・)

足元には見慣れた白い線。
以前、ここにも一度追い込まれたコトがあった。

「げっ!?」

後ろのチンピラも焦ったような声を出す。

そうココは・・・ジャックの縄張り。

もう居ない、サテライトのキングの虚城。

(なんで・・・オレは、こんなトコに・・・)

ドロボウの、ジャックの居た所なんかに・・・。

しかしラリーの考えは、突然の背中への衝撃で吹き飛ぶ。

「何すんだよ!!」

後ろから蹴り上げられたのに気付いたのは、顔から地面に倒れこんでからだった。

「バーカっジャックのクソ野郎がいねぇのはとっくに噂になって知ってんだよ!お前・・・まだアイツがいると思ってんのか?」

髪を掴まれ、ラリーは苦痛に顔を歪ませる。

「うっ・・・うるさいっ!・・・・うあっ」

睨みつけると、もう一人の男に鳩尾(みぞおち)を蹴られる。
息が詰まり、意識が一瞬飛びそうになる。

しかし、モーターだけは離さまいと強く握りしめる。

「コレだけよこせば今以上痛い目にあわねーぞ?」

ラリーは男の出した手を噛み付きモーターを守る。

「い・・・やだ・・・・」

「コイツ!」

噛まれた男は腹を立てて、さらにラリーの頬を平手打ちする。
衝撃で頭がくらくらした。それでもモーターは離さない。

これは、希望のカケラなんだ。

これで作ったDホイールで、遊星がジャックを連れて帰ってくれるかもしれない。
また、みんなで笑い合える時がくるかもしれない。

・・・・・バカだな、オレ。まだ心の中のどっかでジャックを信じてる。

だから、ここに逃げてきちゃったんだ。

「このモーターは使えるし、売りゃイイ金になんだよ!離せよ男女!」

「やだ・・・!!」

ラリーは痛む身体を無視して、懐からカードの束を取り出して男達の方に投げる。

「・・・それ、やる。・・・服だって、なんだって・・・やるから、モーターだけは、渡さない・・・!」

「なんだって・・・?」

3人の男達は顔を合わせて、何かボソボソと話し合い始める。
そして、ラリーを見下ろしてニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


「よし。モーターは諦めてやろーじゃねーか。」

「・・・!?」

こんなチンピラが、カードや服で納得するとは予想外だった。

「代わりに・・・イタイ目にあってもらおうか。なんだってやってくれんだろ?」

「は?」

ラリーが暴力かと身構えていると男2人に地面に押し付けられる。

そしてもう1人の男が暴れないよう、ラリーに馬乗りになってくる。

「な、にすんだよっ」

チンピラが面白そうににやつく。

「サテライトに来てから女日照りでな。お前オトコだって聞いてるが、こんな顔だ。もしもってコトがあるだろう。」

ラリーはすぐに察しがついた。男か疑問に持たれたのは初めてではないからだ。

「オレは、男だ!!」

必死に抵抗するが、大人3人相手ではかなわない。

「それを今から確認すんだよ。」

「大人しくしねーと、このモーター取るぞ?」

脇に転がったモーターや鉄板を示して、男は脅してくる。

「大人しくしたって取るつもりだろ!」

「・・・・・わかってんじゃねーか。」

しびれを切らした男がラリーの口を手で押さえて、上着に手をかける。
「助けを呼びたきゃ呼んでみな。ジャックはいないがな。」

まあ口押さえられちゃ無理か、と男達は笑う。

ラリーはどうしょうもなく、ぎゅっと目をつぶる。

何をされるかは分からないが、怖い。
怖がっているのを知られたくないのに、手の震えが止まらない。

怖いよ・・・ジャック。助けて。
怖いよ、怖いよ・・・。

誰か、助けて・・・・・!

怖いよ・・・・・ゆう・・・

「ラリー!!」

ラリーの身体を押さえる体重が、急にいなくなるのを感じる。
驚いて目を開くと、馬乗りになっていた男が数メートル先で、倒れていた。
ラリーの目の前で他の男2人も殴り飛ばされる。

「ゆ・・・せ・・・?」

「やべっ!遊星!?」

「クソっ逃げろ!!」

ぶっ飛ばされた3人の屈強なチンピラはあわてて逃げ出す。遊星はチンピラに目もくれずラリーの元に駆け寄る。

「大丈夫か?ラリー」

ラリーは、うなずく。震えを抑えてどうにか上半身を上げる。

「・・・でも、どうして?」

「ブリッツ達が、ラリーが1人でこの地区に行ったと聞いた。」

ラリーは知らないのだ。この地区はジャックが縄張りとする前は治安がとても悪かった事を。
ジャックが居なくなった今、サテライトのバランスは大幅に崩れた。元々治安の悪い所がさらに悪くなっているのだ。

心配して来てみれば案の定、チンピラに絡まれていた。

「・・・無事で良かった。帰ろう、ラリー。」

「うん。」

伸ばされた遊星の手をラリーは掴むが、立つ事ができない。

「あ、れ・・・」

腰が抜けてしまっている。その上、止まっていたはずの手の震えが再び起こる。

「あれ・・・なんで・・ごめ・・」

心配かけたくなかったのに、震えが止まらない。

「・・・・・ラリー。」

優しい声が聞こえたと思ったとたん、暖かいものがラリーを包む。

遊星に抱きしめられているとわかったと同時に安心したラリーの体からふっと力が抜ける。

「大丈夫だ。」

頭を優しく撫でられると、目頭が熱くなってくる。

泣いたら、ダメなのに。

見上げれば暖かい笑みを浮かべた遊星がいる。
ラリーの我慢はそれが限界だった。
堰を切ったように溢れる涙はラリーの頬を伝い、遊星の肩の辺りに零れる。

「遅くなって、悪かった。」

ラリーは左右に首を振る。

遊星はちっとも悪くない。悪いのはサテライトが子ども1人で無防備でいられるほど生易しい所ではない事を忘れて歩き回っていた自分だ。遊星やジャックが周りにいたため、自分がどれほど弱い存在なのか忘れていたのだ。

「・・・遊星の、せいじゃ・・ない・・・・・」

「なら泣かないでくれ。」

そうは言われても一度泣いてしまうと自分の意志で止めることは難しい。
涙は止まることなく瞳から次々と零れラリーの頬を伝う。

遊星は黙ってラリーを抱きしめ続けていた。

「・・・・・・・ラリー。このモーターは?」

気になっていたのか、ラリーの気を紛らわせるためなのか、遊星は足元に落ちているジャンクを問う。
「・・・コレは遊星のDホイールに・・・。でも、アイツらに盗られそうになって・・・。」

涙を止めようと目を服の袖でこすりながらラリーは涙声で説明する。

「・・・コレだけは、守れたんだ・・・遊星、コレ使えそうかな?」

遊星は驚いたように、ラリーを見る。

「まさか・・・・コレの為に?」

このジャンクを守る為だけに、大の男3人に抵抗したというのだろうか。

肯定するようにラリーはうなずく。
涙はまだ止まらないが、ラリーの口元には笑みが浮かんでいた。

「コレさえ守れたら、殴られたって、何されたって平気だよ。オレ全然大丈夫。」

大丈夫じゃないだろう。
痛かっただろう、怖かっただろう・・・。

遊星はラリーを見つけた時、助けるのを少しためらった。
ジャックの縄張りだったところにラリーが居たからだ。
ラリーが助けを求めているヒーローが、自分ではなく去ったジャックのような気がして・・・。

でもラリーは自分の為に、戦ってくれた。

抑えていた気持ちが・・・溢れてしまう。

「ごめん、遊星・・・もう少しで、なみだ止ま・・」

涙と格闘していたラリーは次の瞬間、なにが起こったか分からなかった。

目をこする両手を遊星に掴まれて、びっくりして顔を上げると・・・暖かいものがまぶたに降ってきた。

それが遊星の唇だと気づいたのは、遊星の顔がゆっくりと離れていってからだった。

「・・・?」

離れていった遊星の顔がまた近づいてきたと思うと、目尻の涙を舌で舐めとられる。
状況についていけないラリーはされるがままになってしまう。
ラリーの頬に遊星の唇が触れた時、ようやくラリーは飛び上がる。

(・・・こ、これってもしかしてっ・・・!?)

ラリー飛び上がったと同時に、遊星は我にかえったようにラリーを腕を離す。

「ゆっ遊星!!コレって・・・」

遊星は自分の自制心の脆さに内心悪態をついた。
さすがにラリーも気が付いてしまっただろう・・・

「何のおまじない!?」

「・・・・・!?」

遊星はなんの事だかわからず目を丸くする。

「ちっちゃい頃、マーサが寝る前に悪夢を見ないようにおでこにキスしてくれたんだ。頬は何のおまじないなの?」

遊星はなぜかバツの悪そうな顔をして答える。

「・・・・・涙を止める、おまじないだ。」

ラリーはハッとして自分の顔に触れる。
あんなに止まらなかった涙が、止まっていた。
「ホントだ!遊星すごい!」

でも・・・なんだろう。

気のせいか、胸がドキドキする。

「そろそろ帰るか。」

「あ・・・うん!」

2人は手をつないで、夕暮れの中ナーヴ達のいるアジトへとゆっくり帰っていった。


あれからもうすでに3日たった。
ラリーは遊星を見るたびに唇の感触を思い出してドキドキしてしまう。

変だ・・・

今までこんなこと、なかったのに。

ラリーはジャンク山の頂上で1人、空を見上げる。
工場から流れる黒い煙のせいか、曇ってばかりのサテライトの空はまるで今のラリーの心の中のようだ。


コレは・・・・・副作用かもしれない。


あんなによく効く涙を止めるおまじないだ。副作用があってもおかしくない。

この胸のドキドキも、遊星のコトばかり考える頭も・・・みんなみんな、おまじないの副作用のせいだ。

はやく副作用の効果が切れないと、ドキドキして遊星の声も顔もまともにみれないよ。

でも、この気持ちが嫌じゃないのはどうしてだろ。

この気持ちって何?
遊星なら知ってる・・・?

副作用を治す方法。

ラリーはしばらく悩みながら、濁った色をした雲の流れをただ見ていた。

ラリーがこの気持ちの本当の意味に気付くのは、もう少し後の話。
ラリーがもうちょっと大人に近づいてからの物語。

人は誰かに恋をする。
その気持ちを自覚するのは、近い人ほど難しい。

END







駄文で本当にごめんなさい!!
ラリーはジャックの事は仲間として好きで信じてるんです。
わかりにくくてスミマセン。

ジャク遊とか京クロとかも書きたいな・・・(雑食)






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