「ゆうせーーーー!!!」

パシャッ

クロウを捜していた遊星は、いきなり顔に冷たい水をかけられて驚いて目を丸くする。

クロウが面倒をみている子どもたちがイタズラっぽい笑みを浮かべて水鉄砲を構えていた。

ジリジリ寄ってくる子ども達に、遊星は嫌な予感を感じて後退する。

「こらぁ!お前ら何してんだ!!」

間一髪のところでクロウの怒鳴り声が響く。
水鉄砲を構えた子どもたちは遊星を狙うのをやめてクロウの方を振り返る。

「わー!クロウ兄ちゃんがきたぁ!」

子どもたちは歓声を上げる。
クロウの手には、ホースが握られていた。

「お前ら!このサテライトでこんな冷たい水を飲めたり、水遊びができんのは、遊星が水道管調整したりしてくれたおかげなんだ!だから遊星にはイタズラすんじゃねーぞ!!」

「はーい!!」

クロウの言葉に子どもたちは元気に返事をする。

クロウはため息をつくと、遊星の方へ振りかえる。

「わりーな遊星。ガキたちが水かけたみたいで。」

「かまわない。今日の気温ならすぐ乾くし、逆に涼しいくらいだ。」

遊星は苦笑しながら、元気に駆け回る子どもたちを見る。

「・・・地下水も、少しは役にたったな。」

「おう。あんだけ喜ばれると水道管繋いだ苦労も報われるだろ?」

「ああ。」

遠くで遊ぶ子どもたちがクロウに大きく手を振る。

「クロウ兄ちゃーん!!シャワーしてシャワー!!」

なんのことかわからない遊星を気にせずクロウは返事をする。

「おら行くぞー!」

水道の蛇口をひねり、クロウの持つホースから水が勢いよく飛び出す。
大きく孤を描いた水は、遠くの子どもたちにどしゃ降りの様に降り注ぐ。

シャワーとは、このことだったのだ。

「きゃー!つめたいよクロウ兄ちゃん!」

「クロウ兄ちゃんっ見て見て虹できてるよ!」

「おーよかったな!遊べ遊べ!」

様々な反応をみせる子どもたちにクロウ満面の笑みをうかべる。

「んで何の用だ、遊星?」

眩しい笑顔のままクロウは遊星に問う。

「ああ・・・大したことじゃない。ジャックも鬼柳も昨日から出かけてるから暇で。」

だがクロウも子どもたちの世話で忙しそうである。

「ははーん遊星お前、寂しいんだろ?」

「・・・」

「んじゃガキどもと一緒に水遊びしてくか?」

遊星の気持ちをくみとったのかどうかわからないが、ニッと悪戯っぽい笑みでクロウがホースを構える。

「な・・」

うろたえる遊星にかまわず、クロウは子どもたちを呼ぶ。

「おーい!遊星が遊んでくれるってよ!」

「わぁい!!」

ずぶ濡れの子どもたちが駆けてくる。

肩をポンと叩かれ、デッキと上着脱いどけよ、とクロウに最終宣告のように言われた。
ちなみにクロウはすでにタンクトップ姿だった。

諦めてデッキをクロウに投げ、上着を脱いだと同時に、ずぶ濡れの男の子が遊星の胸に飛び付いてきた。


* * * * *


「ぎゃあー!つべたい遊星ぇ!」

クロウや子どもたちに集中攻撃されてた遊星は仕返しとばかりにクロウからホースを奪い、反撃を開始した。

「うぉっ!馬鹿ヤロ遊星っ背中から水入れんなー!」

隙をついてクロウのタンクトップを引っ張り、背中に直に水をかけてやる。
クロウは水の冷たさに首をすくめて悲鳴をあげる。

「クロウ兄ちゃんパス!」

「おっナイス!」

クロウの不利を見た子どもが、自分の水鉄砲をクロウに投げる。

「おら遊星っお返しだぜ!」

「うわ!!」

ホースより威力は弱いとはいえ、至近距離で水鉄砲を連射されれば、後ろに逃げるしかない。

「さすがてっぽーだまのクロウ兄ちゃ〜ん!!」

「ゆーせーも頑張れぇー!!」

結局子どもと遊ぶはずが、遊星とクロウの水鉄砲での一騎打ちになり・・・子どもたちは大喜びだったが、冷静になった遊星とクロウは恥ずかしくて土下座したい気分だった。

「ほらお前らちゃんと髪ふかねーと風邪ひくぞ。」

日が傾いてきたころ、クロウと遊星はタオル片手に子どもたちの体を拭き、着替えさせる。

まだ遊びたい子どもたちは、それを抵抗する。

「やーだぁ!まだゆーせーと遊びたーい!」

「また今度な?」

髪を拭いてやりながら、遊星は嬉しそうに笑う。

一方クロウは暴れる男の子2人を両脇に抱えて手荒く・・だが手慣れたように濡れた服を剥ぎ取って、拭き、乾いた服を着るよう命令すると有無も言わせず家に放り込んでいた。

もはや母親だな、と遊星はそれを見て感心する。

遊星は大人しい女の子を任されたので特に苦労はないが、やんちゃな男の子たちは本当に大変そうである。

しかしよく見るとクロウは拭いた子どもを捕まえても濡れないようにちゃんとタンクトップを脱いで、上半身はだかで子どもと戦っていた。

「じゃあお前ら、オレは今日はサティスファクションのアジトの方に帰るからマーサハウスいきな!なんかあったらすぐオレを呼べよ!」

子どもたちは元気に返事すると、クロウ達と反対の方向に歩いて行った。

ずぶ濡れの遊星とクロウはタオルで自分の髪を拭きながら、チームのアジトへ向かう。

歩きながら、遊星は一つ疑問を持ったことを口にする。

「・・・クロウ」

「なんだ?」

「何故子どもたちはマーサハウスへ?」

クロウがビクリと肩を揺らす。

「いーやー最近物騒だからな・・」

「今更だろう。」

クロウは何か隠している。
その証拠に遊星と目を合わせようとしない。

「クロウ。オレの目をみろ。」

「・・・。」

顔を上げたクロウの瞳は、悲しみ・・否、後悔や自虐の色に染まっていた。

「何故子どもたちをマーサハウスへやったんだ?」

「・・・・・・あぶねーからだ。」

真実を隠すクロウに、自分はそんなに信用できないのかと遊星は悲しくなる。
それにクロウはすぐ気付く。

「・・・・・・・・・・・わりい、遊星。信頼してないワケじゃないんだ。オレのあって無いようなプライドが言いたくなかっただけなんだ。」

遊星は悲しませたいワケじゃない。
それならオレのプライドなんか砕け散ってしまえ。

「オレのガキどもは、マーサが引きとろうとした時に無理に頼んでオレが育てることにした。・・・アイツらがオレを選んでくれたのもあるが、オレはガキ達と一緒に居たかった。」

クロウは額のマーカーを指で撫でる。

「マーサは・・盗みばかりやるお前に子どもたちを任せられない、今度捕まったりしたら子どもたちはマーサハウスで預かる、子どもを育てるってコトはもうお前1人の体じゃないんだって言われてたんだ。」

遊星は、重責に押しつぶされそうな目のクロウを初めて見た。
いつもは明るく弱さを見せないクロウ。
だが小さい頃から感情が豊かで、よく笑うし・・よく泣くクロウを遊星は知っている。

「・・・・・・・でもこの前、ちょっとヘマしただろ?」

それは遊星も知っている。
だがアレはヘマではなかった。
デュエルギャングとのデュエル中、セキュリティに見つかり遊星達を逃がすために囮になったクロウが捕まったのだ。

それで子どもたちと別れるなら遊星達にも責任はある。

「・・・状況が状況だったから、マーサはガキ達と引き離そうとはしなかったが、チーム・サティスファクションにいるなら夜は子どもたちをマーサハウスに寝泊まりさせるよう言われたんだ。」

子どもの安全を考えた結果だ。

もし再びクロウが捕まっても、子どもたちが帰らぬクロウのせいで眠れぬ夜を過ごさないように。

「はー・・・駄目だなぁ。あいつらは昼間に目一杯いっしょにいりゃー別に寂しそうにもしねぇのに・・・・・・・・オレ、すっげぇ寂しい。」

クロウはバンドを目元に引っ張り俯く。・・まるで表情を隠すように。

寂しい気持ちは遊星もよくわかる。今日だってクロウのところに行ったのは、ジャックや京介がいないだけではない。ここ数日クロウが夜になるまで子ども達の所にばかり入り浸り寂しかったのだ。

・・・・・そんな理由があったのは知らなかったが。

「・・・・・・・・・・・・・」

かける言葉が、遊星はみつからなかった。
悔しげに手に持った水鉄砲を握りしめ・・・・・言葉をかける代わりに水をかけた。

「っ冷てぇぇぇえぇぇぇぇ!何しやがる遊星!」

遊星は、顔を上げたずぶ濡れのクロウを見て笑う。

「クロウは、そっちの方がいい。」

笑われたクロウは、怒るより先に遊星の珍しい笑顔に見惚れてしまう。

「・・ってどういう意味だよ!!」

我に返り仕返しとばかりに水鉄砲攻撃をクロウが遊星に行う。

2人は再び水鉄砲で水を掛け合う。

結局乾いてきた服と髪はアジトに戻る頃にはずぶ濡れになっていた。

アジトに着いてまず2人は下着だけになり、タオルで濡れた身体を拭く。
幸い暑いので下着一枚でも風邪をひくことはない。

「って遊星、髪びしょびしょじゃねぇか!」

「・・・・・この暑さならすぐにかわくだろう?」

髪に水を滴らせながら遊星はタオルを肩に掛けながら言う。

クロウはため息をつきながら、遊星を椅子に座らせて乱暴にタオルで遊星の髪を拭く。

「ばかやろ。このままじゃ床が濡れるだろーが。遊星は機械ばっか弄ってるんだから濡れたままじゃあぶねぇし。」

素直に遊星はクロウにされるがままになる。

「・・・・・・・にしても疲れたな。眠・・」

クロウが小さく欠伸をする。
言われてみれば遊星も眠くなってきた。
睡魔と髪を拭くクロウの手が気持ちよくて、遊星のまぶたが重くなってくる。

「鬼柳やジャックおせぇなー遊星。・・遊星?」

クロウの声がだんだん霞んできた。
駄目だ・・・眠い。

「クロゥ・・・・」

「ん?」

クロウはタオルの手を止める。

「明日は、子どもたちと遊ぶ・・・だからオレも一緒にいたい。」

「・・・・・そうか。じゃあ明日は1日中一緒にいような。」

「あぁ・・」

遊星のまぶたが閉じる前にみたのは、優しいクロウの笑顔だった。

夢の中で遊星は、子ども達に作るオモチャのことばかり考えていた。

子ども達が喜ぶと、クロウも喜ぶから。


クロウの笑顔が見たいから。


END














友情以上恋愛未満な感じで書いてみました

この小説は、空斗のキリリクを踏んで“ずぶ濡れになって着替えてる途中の遊星とクロウ”という変なリクエストを空斗が素晴らしい神絵で描いて下さり…それに萌え萌えしてたら思いついたネタだったり(゜∀゜)






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