※シャークさんは元?ビッチ
※遊馬と凌牙は恋人同士でした。ハルトとカイトはカイトの一方通行。
※ぬるいけど色々あるから18禁!!
性的表現…笑えますねぇ(白目)など苦手な人はUターン!














幼い恋を育てていくはずだった。
ようやく両想いになった遊馬と凌牙の幸せな時間が続く…はずだった。
しかし凌牙の復讐が始まったことで、すぐにその恋は終わりを告げた。

『オレに関わるな。』

遊馬を守るためなら、巻き込まないためなら、胸の痛みも失う恐怖も平気だった。

そんな自分勝手な想いを遊馬に押しつけて、傷付いた顔をした遊馬を見ないふりをした。









太陽が、沈み始めて…闇が深まる。

血の色のような真っ赤な空を、宵を告げようとする濃紺の空が侵食して交じり合う。
復讐に染まった自分の心のようだと、凌牙は空を見上げて目を細めた。
凌牙の一筋の光の太陽は沈み、とうとう薄暗くなってくる。街灯に照らされたハートランドでは星が見えない。
宵の明星すら掻き消す人工の灯りは、今の凌牙にとって酷く不快なものだった。
心なしか月も濁って見えてしまい、凌牙は空を見るのを止めた。

「月の光も、元は太陽の光……バカかオレは…。」

WDCで、まさか度々遊馬と会うとは思わなかった。
変わらない遊馬に、凌牙は何度も突き放した。もう関わるな、と。
会いたくなかった。復讐に燃える醜い自分を見せたくなかった。でも、これで終わりにすればちょうど良いのかもしれない。
やはり自分は遊馬に相応しくない人間だ。
臆病者で卑怯な、隣に居ることを望むことさえ罪深い。

大切なものを守るには、弱すぎる。絶対守れる自信がないから、離れる事を選んだ。

「強くなりてえ…」

復讐に、闇に、負けないように。大切なものを傷つけないように。

「………苦しい…っ」

胸を鷲掴みされたような感覚に思わず路地裏で蹲る。

そんな時に後方から、不愉快な声が聞こえた。

「神代くん?神代くんじゃないか!」

突然自分を呼ぶ声に、振り返る。すっかり日が落ちて街灯に照らされた街並みの中に一人のサラリーマン風の中年男性がいた。

「・・・誰だ?」

「冗談だろう?忘れたのかい。何度も愛し合った仲じゃないか。」

路地裏に入ってきた男は、人気がないことをいいことに凌牙へ近づいてきて、ニコリと笑う。

どうやら過去に関係を持った人間の一人のようだ。よく顔を見ると、薄らだが思い出す。
この男は確か、金も持っていてしばらく面倒を見てもらった。
しかし段々と凌牙の行動を縛るようになってきたので、半年以上も前に関係を断ったはずだ。

「もうお前とは関わらない。そう伝えたはずだろ。」
「・・・・ボクは認めてないよ。キミが勝手に消えたんだ。やっぱり鎖で繋げとけば良かったね。腕に傷が付いちゃうかもしれないって思ってやめたけど、キミが勝手にどこかに行っちゃうからいけないんだよ。」

ペラペラ喋る男の目は座っている。元々危ない雰囲気はあったが、もう少しまともだったハズだ。凌牙が不特定多数いる援交相手の中でもこの男の事は思い出せた位だから、多分凌牙自身も彼を気に入っていたのだろう。
段々と思い出してきた記憶によると、はじめ彼は優しくしてくれた、居場所もくれた。
勿論、情事もしたが他の男達と違って、凌牙の健康も気遣い美味しいものを食べさせてくれたり、慣れないデュエルもしてくれた。
…一歩も屋敷からは出してくれなかったが。凌牙への依存もしばらくしたら強くなり、着替えから入浴、排泄時まで監視や手伝いをするようになるともう限界だった。
しかし別れを告げると部屋に鍵を掛けられ閉じ込められた。
窓から逃げ出せなかったら、凌牙は今も彼に囚われていたかもしれない。

「さあ帰ろう神代くん。」
「オレに帰るべきとこはない。それに今はWDCで…」

痛いほど強く、腕を捕まれた。骨が軋む音がして、凌牙は改めて恐怖を感じた。

「キミはデュエルの表舞台を追放されたんだろう?わざわざ辛い世界に飛び込む必要はないんだ。そんな事より、ボクと早く愛し合おうよ。」
「…ってめぇ!」

キスを迫る男に凌牙は殴りかかろうとすると、あっさりと羽交い締めにされる。成人男性の力に押さえ込まれれば、ケンカ慣れした凌牙も適わない。
腕が折れそうなほど強く締め上げられ、骨折しないギリギリの痛みが凌牙を無抵抗にする。

「暴れないほうがいい。…腕が折れたら、デュエルディスクも付けられないし、ドローも出来ないよね?」

脅しじゃない事が、腕に込められた力で分かる。嫌な汗が背中を流れた。

「やめ……っつ」
「なら、ボクの言うこときけるよね?」

凌牙は男を睨み付けながら、痛みに歪んだ表情のまま頷いた。いつか隙ができたら逃げればいい。

「逃げられないからね。このカードがある限り、ボクは誰も逃がさない。」

男の手に紋様が浮き出る。ナンバーズ特有の毒々しい紋様と、狂喜に染まった瞳に、彼がナンバーズに取り憑かれているのはすぐにわかった。
ナンバーズに関わりやすいのは最早体質なのかもしれない、と凌牙はため息をつく。

しかし、ただ拉致されるより、断然憂鬱じゃ無くなったのは確かだ。

デュエルなら、この男には一度も負けた事はない。彼にデュエルを教えたのは凌牙なのだから。


***



ホテルに連れ込まれれば、凌牙は解放された。高級ホテルのVIPルーム。
凌牙が抵抗をやめた為、親戚のオジサンと子どもにしか見えなかったのか、普段から援交相手を連れ込んでるかどちらかかは分からないが、ホテルマンは特に凌牙を不審に思うことはなかった。

「乱暴して悪かったね。」

お茶を注いだ男は先ほど腕をへし折ろうとした手で、凌牙の髪を優しく撫でた。

「触るな。お前とはもうヤる気はない。」

男の手を振り払いながら、お茶を口に含む。WDCが始まってから水分を殆んど摂っていなかった。空調の効いたホテルの部屋は乾燥していて、余計に喉の乾きが酷くなる。

「オレは、お前とデュエルする為に来た。……ナンバーズを持ってるだろ?」
「このカードかい?」
「…デュエルしてオレに勝ったら、好きなことなんでもやってやるぜ。でも負けたらナンバーズを寄越せ。そしてオレの前に二度と姿を見せるな。」
「…どうしようか。キミに勝てた試しは一度もないからね。」

流石にすぐにのっては来なかった。凌牙は自分のデッキケースを指先で撫でながら、遊馬曰く『誘ってる顔』をする。

「ココにも、ナンバーズがあるぜ?それでもデュエルしないのか?」

男の目の色が変わる。瞳が鋭くなり、ナンバーズの紋様が浮き出たと思うと、凌牙を床に押し倒した。

「っつ!なにすんだ、てめぇ…!!」
「神代くん…神代くん……嘘までついて、悪い子だ…」
「は、なせ……!嘘じゃね…ん、ん!?」

服を捲り上げられ、胸が空気に触れる。狂ったように凌牙を呼び、欲望のまま、身体をまさぐる男は、正直気味が悪い。彼はいったいナンバーズにどんな欲望を増幅させられているのだろうか。

抵抗し続けていると、突然身体の奥がジワジワと熱くなってくる。服の生地が擦れ合うだけで、快感を異様なほど強く感じた。

「ふっ……あ、何だ…っ…!?てめっ…なに、盛りやが…ああっ」
「神代くん、忘れたのかい?ボクは製薬会社の人間だよ。」
「知らね…や、あ…っ」
「神代くんは元々敏感な子だから、ちょっと効きすぎちゃうかな。気が狂わないよう気を付けるんだよ?」
「ふざっけんな……!」

押し寄せる快感の波に、凌牙は耐え悶えるしかなかった。抵抗などできるはずもなく、衣擦れだけであられもない声を出す。
悔しさに凌牙は唇を噛み、高そうな絨毯に爪を立てた。

(アイツ…遊馬以外の奴なんて、こんな奴なんて…!)

ズキン、と胸が刺すような痛みを感じる。ナンバーズに貫かれた場所が…痛みで疼く。

(遊馬…遊馬……が…)

遊馬がいないと、負けてしまいそうに、なる。負けてしまう。
胸の痛みと全身の快感が凌牙を容赦なく追い詰める。

(…もう………)

凌牙が疲れたように瞼を閉じようとした時だった。
硝子が割れる音が響く。男が驚いて飛び上がると…背後に一つの影。

「狩らせて貰おうか!貴様のナンバーズを!!」

ホテルに飛び込んできたカイトの顔は、数秒後引きつることになる。




ナンバーズを狩りに来たら、全裸で準備万端のナンバーズ使いと半裸の顔見知りが目の前に居る状況。カイトは相当驚いただろう。

結局のところ冷静になったカイトは、デュエルアンカーで男を捕まえて強制的にカイトはデュエルをした。
凌牙が乱れた服を直している間にデュエルは終わった。もちろんカイトの圧勝である。

「悪かったな、援交相手横取りして。」

ちっとも悪びれた様子もなくカイトは凌牙を蔑むような目で見る。

「いや、レイプされかけてたから助かった。」
「色魔が何を言っている。」

カイトは凌牙が不特定多数の男と関係を持っているのを知っている。カイト自身も凌牙とあのデュエル後関係を持ったからだ。

「オレはもう好きな奴としか、しない。」
「信じられんな。」
「信じろとは言わねーよ。そういやオボットは今日一緒じゃねえのか?」
「他のナンバーズを探させてる。オレはこのホテルのVIPにナンバーズ使いが居ると聞いたから単独できただけだ。」
「………大変だな、てめーも。」

カイトは前により、やつれたように見える。高慢な態度では隠しきれない疲労が滲み出ていた。
凌牙も色白な方ではあるが、カイトはそれ以上に普段から肌が雪のように白い。そのカイトの白い肌は今では青みを帯びて、体調がすぐれてないのは確かだろう。

「痩せたんじゃねえか?ちゃんと食ってるのかよ、ナンバーズハンター。」
「そっくり返してやる。貴様も前より酷い顔をしてるぞ。」

魂を奪ったその手で、カイトは凌牙の顎を掴んで持ち上げる。
触れられた瞬間に凌牙はビクンと身体を震わせて、隠しきれなかった甘い吐息が漏れる。

「………淫乱が。触られただけで、感じてるのか?」
「…っクスリ盛られたんだ…!触んじゃねえ…っ!」

カイトを睨み付けると、凌牙を見下ろす彼の瞳には疲労の色以外の貪欲な光がぎらついていた。

「ちょうどいい、ヤらせろ。」
「…………てめー…人の話聞いてたか?オレは、好きな奴としか…」
「オレが嫌いか?」
「………………。」

嫌いではない。確かに魂を奪われたり皇の鍵を獲られたりしたが、カイトに対して負の感情はあまりない。
ナンバーズにも、エクシーズにも頼らない多様なデュエルに、彼のデュエルタクティクス、どれをとっても一流のデュエリストで凌牙は好感を覚えたくらいだ。
カイトが魂を誤って奪った償いとして抱いてもらった時には、彼の弟への想いを知り、彼にも強さの向こうに弱さがあるのを知った。

沈黙を肯定と受けとめたらしいカイトは凌牙のシャツをたくし上げる。

「まて…オレは、本当に……」
「いい。ソイツだと思って抱かれていろ。……オレも、守りたい大切な者は、本当に愛しているのは、ハルトだけだ。」
「お前……」

カイトの瞳はどこか遠くの方を愛おしそうに見ている。しかし表情は諦めと、哀しみが混じっていた。

大切な人を守るために、自分を犠牲にしているような男に憐れみを感じる。同情に近い感情が、凌牙の中に生まれた。

「それに…疲れた。」

カイトは凌牙を抱き寄せながら、ため息をつく。

「…他人(ひと)に触れるのは、久しぶりだ。」

カイトの言葉に、凌牙は遊馬と最後に触れ合ったのは、抱き合ったのはいつだろうと考える。
カイトの体温は暖かい遊馬とは大きく違ったが、先ほどの強姦未遂を除けば凌牙にとっても久方ぶりの人肌で、正直心地よかった。





凌牙は壁に背を預けて、カイトの首に縋りつくように腕を回す。向かい合い、片足を持ち上げられ、挿入される体勢はカイトとのセックスでは珍しいものだった。
別に壁や床で行為に及ぶのはいつもの事だ。
恋人同士でもなんでもないと互いに思っている為、ベッドでは決して身体を重ねない。だから体位も獣のように後ろから犯された。
凌牙は後ろは苦手だったが、ロマンチストだなんだと馬鹿にされるのが嫌でいつも耐える。

それが2人の性処理だった。

ところが今は向かい合っている。薬で敏感になっている凌牙は、何度目か分からないがカイトの腹に白濁を飛ばした。

「あっ…ああ、ん…!」
「……はっ…本当に、感度よすぎだな…!」
「くす、くすり…の、せっああう!」

凌牙はすぐに欲望に身を委ねた。
取り敢えず精を吐き出さないと苦しい。簡単な前戯で何度も絶頂を迎えて、身体を繋げた頃にようやく理性の欠片が戻ってきたくらいだ。
その頃には、凌牙も開き直る。

遊馬を忘れる、良い機会かもしれないと。

「中は、相変わらず…イイ具合だな…っ」

カイトが下から激しく突き上げると、凌牙の浮き上がった足が空を蹴る。

「…やああっ!…おま、も…あっ……相変わらず、でっけえ…!」

その上、遅漏なのでこれからどれほどの時間を彼に付き合わされるか分からない。
凌牙の白濁と先走りでぐちゃぐちゃ結合部から卑猥な音が鳴り響く。
思わず締め付けると、カイトがしかめっ面になり、動きが鈍くなる。

「ば、締め付けるな…イくだろう…っ」
「…はあっ……お前にしては、早いな…溜まってんのか?…っデカチンさいこー……!」
「こっちは、忙しいんだ…淫乱が…」
「だったら…さっさと…イけよ?」

誘うように腰を振ると、カイトの顔が苦しげに歪む。

「………どうした?」
「先に謝っておく。貴様を壊すかも知れない。」
「…………………は?」

心配してカイトの頬を撫でると、更に泣きそうな顔で撫でた手に口付けられた。
床についたもう片方の脚も持ち上げられ、不安定な体勢に更に凌牙はカイトにしがみ付く。深くなった結合に喘ぐと、カイトが噛み付くようなキスをする。

(……コイツとキスすんの、初めてだ。)

口腔を荒らすような激しい口付けを受けとめて舌を絡め合いながら、凌牙は苦笑した。
無我夢中な下手くそなキスは彼の初めて見せる姿だった。

「ハルト…!」

口付けの合間、息をする為に唇を放せば、カイトの唇から切ない声が漏れた。

本当にキスをして、愛し合いたい者の名前。

今、瞼の下にあるカイトの瞳の中には愛しい者しか見えていないのだろう。
凌牙も静かに目を閉じると、カイトと唇を重ねながら静かに囁いた。

「…遊馬。」

優しい笑顔、大切に大切に触れてくれる、凌牙を救ってくれた、愛しい奴。
自ら別れを選んでも、守りたい奴。

カイトはハルトを、凌牙は遊馬を想いながら、ただ自分を慰めるだけの行為を続けた。

「っは…ハルト、ハルトお…!つっーーーー…!」
「あ、ああ、ああっゆうま、ゆ、まああ…っひ、あぁー…!」








カイトの謝罪の意味を知ったのは行為が終わった頃だった。
………………………本当にぶっ壊されるかと思った。
馬鹿みたいに突き上げられて、イってもイっても終わらない絶頂。
何度か意識もトんで、覚えているのは何度も遊馬を呼び、カイトも同じくハルトを呼んで、互いに違う者を見ていた。

「……大丈夫か?」
「大丈夫に見えるか?」

いつもなら行為後すぐ帰るカイトも、流石にやりすぎたと思ったのか、後始末をしてくれた。
凌牙はうつ伏せで床に蹲っていたが、カイトに抱き上げられた。

「………すまん。」

カイトは凌牙を抱えたまま謝罪の言葉を口にする。

「今日はらしくねーな…どうした?」
「貴様には関係のないことだ。」

冷たく言い放つ言葉も、今日はどこか気迫がない。おかしなことだらけだ。肌と肌を密着させるような、向き合った体位で行為をしたり、カイトからセックスを誘ったり、凌牙を労ったり……異様なまでに愛する人を求めたり。傲慢な彼らしくない。

「ひとの身体の中、穿り回したクセに関係ねぇとか…とんだヤリ逃げ野郎だな。」
「逃げてなどいないだろう。」
「なら今日はどうした?」
「……………………別に。」

視線をそらすカイトに顔を近づけると、カイトは宣言通り逃げはしなかった。
しかし、迷子のような不安げな彼の表情を見た凌牙は、カイトから離れて力の入らない足で立つと、背を向けた。

「やめた。言いたくねーなら、言わなきゃいい。」
「貴様…」

カイトにも、迷うことはあるだろう。

「捌け口くらい、気が向いたらなってやるぜ。」
「余計なお世話だ。」

背中に突然、暖かいものが触れる。振り返らなくとも、カイトだと分かった。

「独り言だ。」

カイトはそう呟くと、凌牙の頭に額をよせた。カイトのため息がうなじにかかる。

「今日、ハルトと同じくらいの子どもの魂を奪った。ナンバーズを回収するために。」

凌牙は自分のデッキケースにある、ナンバーズを思い出した。カイトには悪いが、奪われるつもりは毛頭ない。 カイトもカイトで一度、ナンバーズのない凌牙の魂を奪った為か、凌牙が再びあのカードを持っているとは思いもしないだろう。

少し警戒したが、カイトは辛そうな声音で『独り言』を続けた。

「あの子にだって、兄弟がいたかもしれない……。ハルトと同じくらいだと思っただけで……このオレが、迷った。………真っ黒な欲望で染まった魂を、奪うのを躊躇った…。」

凌牙は肯定も、否定もしない。
彼の求める答えは、凌牙が知っているはずがないのだから。

「すまない……ハルト……兄さんは、駄目な奴だ。こんなことで迷ってちゃ、お前の病を治してやることなんて……出来ないよな。」

ぎゅう、としがみ付くカイトは先程凌牙を支えた腕と同じはずなのに、あまりにも力なく縋るようで、凌牙が今度は支える立場になる。

「兄さん、強くなるからさ…!もっと強くなるから、ハルト、だから……っ」

震える声を、凌牙は聞かないふりをした。震える身体を、見ないふりをした。
彼の強さは、彼の唯一の弱さ。
この迷いが消えた時…カイトは一層強くなるかもしれない。だが、弱くなるかもしれない。
そばで大切なひとを守ることを選んだカイトは、凌牙とは違う。

凌牙は少し、守るものと共にいることが出来る彼を羨ましいと…妬んだ。
自分の選択を間違ったとは思ってない。
だが、傍に居たかった、という気持ちは間違いなく凌牙の本心だ。

「お前は……手放すな。」

凌牙はカイトの頭を軽く叩きながら、自嘲する。
これほど苦しんでも大切なものを離さないカイトには必要のない言葉だ。

なのに、願わずにはいられなかった。

「……何を言っている?」
「オレは…………手放した。だからお前は…」
「まさか……!?貴様、馬鹿か!?」

カイトに肩を掴まれ、無理矢理振り返らされる。顔を上げれば、驚愕を隠せずにいるカイトが見えた。

「お前は、絶対に守ってやれよ。」
「………当たり前だ。」

先程の弱気が嘘のように、カイトの声には力強さがあった。

「貴様は、どうして……オレと戦った時の顔はどうした?何故そんな、馬鹿なことを…大切だったんだろう!?」

大切だ。今でも、これからもずっと…だからこそ。

胸が再び痛んだ。ズクンと疼くような痛みは、凌牙の心まで蝕むようだ。

「あぁ。でも、オレはもう一緒に居ることはできない。」
「諦めるな…!」
「鮫は、1人で生きるものなんだ。馴れ合うことは…初めから無理だったんだ。」
「何を言っている…!?」

一年前の大会で、神代凌牙はいなくなった。残ったのは、鮫【シャーク】という異名のみ。

「神代凌牙…貴様は、鮫じゃないだろう!?」

鮫だ。復讐相手を喰いつくそうとする凌牙の、どこに人間らしさがあるというのか。
否、この復讐という衝動だけが、唯一の人間らしさかもしれない。

「……お前、実は優しい奴なんだな。」
「なっ…違う!」
「休憩は終わりだ。オレは、オレの選んだ道を行く。」

カイトの手からすり抜け、その場を後にしようとするが…まだ下半身に違和感があり、膝から崩れ落ちる。立ち上がろうとするのを嘲笑うかのように胸の痛みまで酷くなる。

「くっそ…」
「休憩は終わりではなかったのか?」
「誰のせいだと思ってる…!」

凌牙が睨み付けると、嫌みを言ったその口は笑みを浮かべていた。
立つのもやっとな凌牙をカイトは荷物でも持つように肩に抱えあげる。そのまま、侵入時に破った窓から外に出るとホテルの庭に降りてゆく。
凌牙は呆れたようにため息をついた。

「どこへ連れていく気だ?」

「貴様1人じゃこのホテルからは出れないだろう?」
「お人好しだな。」
「馬鹿か貴様は?」
「これでも成績はトップクラスだ。」

失礼なことに、カイトは半信半疑の目を向けてきた。

「………にしてもこのVIP、セキュリティ甘くないか。」
「このホテルはハートランドが経営している。オレの管轄内だ。」
「聞かなかったことにするぜ。」

カイトの肩の上で、凌牙は綺麗に剪定された庭を見送る。雑草すら見当たらない整えられた芝生も植木も余計な異物は何もない、表面上は綺麗な庭園だ。その庭園すら、すぐそばで魂を奪われた人間が居るのを隠すかのように静寂に包まれている。…この庭には生き物の気配がない。

カイトの話を聞いて、魂を奪われた人間が続出しても、あまり大事にならない理由を少し垣間見た気がした。

「…ホテルから出た所を左に行って、しばらくしたところに駐輪場があるから、そこまで連れてけ。」
「何故オレがそこまでしなくては…」
「ホテル前にどっかの誰かさんのせいで足腰立たねえオレを置いてきぼりにしてみろ。数分後にはショタコンにお持ち帰りされる自信あるぜ。」
「…………今度はやりすぎないよう、気をつける。」

面倒そうながらも、言われた通り駐輪場に向かうカイトは相当バツが悪いのだろう。
ラブホ前でもあるまいし、こんな一流ホテルの前ならお持ち帰りされるはずがないのに。
冗談とも言えずに、少し固い肩の上で身を任せることにする。

「今度、か。……お前、オレが言のもなんだが、もう本当に大切な奴以外とセックスすんのやめたほうがいいぜ。」
「…ひとを貴様のようなビッチと一緒にするな。オレが………こんな行為をするのは貴様だけだ。」
「どこの口説き文句覚えてきた?本当に大切な奴に言ってやれよ。」
「言えるか!!」

凌牙は彼の弟の年齢を知らない。てっきり道徳的にできないからと思っていたが、どうやら話し振りからすると年齢の壁もあるようだ。

「それでも、やめたほうがいいぜ。大切な奴と、好きな人としたほうがいい。」
「………覚えておく。」
「そうしろ。」

駐輪場に着くと、凌牙はゆっくり地面へ降ろされる。どうにか膝に力を入れて立ち、よろけながらも足を踏み出して入り口近くにある自分の愛車に乗り込んだ。

「貴様、こんなものに乗るのか。」
「ああ。ハートランドシティは広いからな。コイツさえあればお前に支えられなくても移動できるから安心しろ。」
「ふん。そうみたいだな。」

ヘルメットを被り、エンジンをかけて帰ろうとすると、カイトに腕を掴まれた。

「……なんだ。」
「オレは必ず、九十九遊馬とデュエルをする。アイツはナンバーズを持っているからな。」
「そうだろうな。」

凌牙の答えが気にくわなかったのか、カイトは仏頂面になる。綺麗な顔が台無しだ。

「貴様、いいのか?オレは九十九遊馬の魂ごと必ずナンバーズを奪う。……それでも、貴様はいいと言うのか?」

カイトはしっかりと腕を掴んでおり、振り払うことは出来なさそうである。

「……………いいぜ。アイツは、負けない。」

遊馬には、凌牙以外にも守るべき大切なものが沢山ある。それを失うような事はあり得ない。
凌牙は自然に綻ぶような笑みを浮かべる。

「アイツは強い。」

カイトは仏頂面のまま凌牙の腕を離した。
この凌牙の言葉はカイトには理解できないのであろう。


そうして、カイトとは分かり合うことなく背を向け、二人は違う道を選んだ。


カイトとも、いずれ闘うことになるかもしれない。凌牙がナンバーズを持っている限り、それは避けられない運命(さだめ)だ。

だが、この復讐が終わるまではナンバーズが必要である。奪われるわけにはいかない。
もし復讐が終われば、ナンバーズは凌牙には不要となるだろう。

(………でも、奴には悪いが、やっぱりデュエルできないかもな。)

凌牙は胸に手を押しあてる。
疼くように痛むそこには、一度だけ大切なひとの大切なものがあった場所。

(もし、オレと……ナンバーズをかけてデュエルする奴が居るとしたら………アイツがいい。)

遊馬。
彼なら、復讐相手を失い暴走する鮫に向き合ってくれる。
デュエルを汚した凌牙を許さなくていい。彼を裏切った凌牙を許さなくていい。
全てを断ち切って、暴走する鮫にとどめを刺してくれ。

『シャーク…好きだぜ。』

先日までそう愛を囁いてくれた遊馬に、凌牙は残酷な見返りを求める。
自分の望みが、遊馬をどれほど苦しめるか分かっていながら、それでも望む。

ごめんも、さよならも、ありがとうも、何も言えないまま一方的に断ち切った。遊馬への気持ちを忘れられるのなら、忘れたい。

未練を振り払うかのように胸に爪をたてた。痛み以外何もない胸を抉るように何度も何度も両手で掻きむしる。
じわり、と広がる鈍痛に凌牙は意識を向ける。すると、少しだけ楽になるような気がした。

頬に、温かいものが流れる。顎を伝い、その温もりは一滴(ひとしずく)胸に落ちた。
凌牙の瞳から零れたいくつもの温もりと比例して、凌牙の心は冷めてゆく。
このココロが完全に凍りついた時、復讐という冷たい焔に鮫は抗えなくなるのだろう。

お別れだ。



END




































ここまで読んでくださりありがとうございます!!

カイ凌とか言いつつ、詐欺に近いくらいカイ→ハルと遊←凌。むしろ詐欺だろう。

この話は…以前出した遊凌本の、ページ数の関係でボツしたやつをほぼ変えて足してリサイクルしたのだったり…←

遊凌本読まなくても分かるように心がけたつもりですが、分かりにくかったらすみません…!

精進します!!







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