生徒風介×教師晴矢♀
想いが重なるまで、あと
静かな教室にペンが走る音が響く。硬質な響きが止まる間隔は僅かでそれ以外は時折紙が滑る音しか聞こえない。すらすらと一度も躓かずにいた音はカタン、とペンが置かれたために止まった。
「先生」
「ん」
手渡されたのは数枚のプリント。ざっと見渡して間違いがないことが分かり思わずため息をつく。次いで呆れたような目を目の前の教え子に向けた。
「お前、何でちゃんと出来るくせにテスト白紙で出すんだ?」
凉野、と言うと無表情に近い顔の中で瞳がゆっくりと瞬いた。
凉野風介は変な生徒だった。教師の俺が言っちゃいけないんだろうが、教科担当として担任として接していても思わず首を傾げるような行動をする。成績は極めて優秀、運動神経も良い文武両道を絵に描いたような生徒。少し対人関係に難があるものの友人達のフォローがある。人望だって高いし生徒会から勧誘もある。なのに、だ。さりげなく他の教師に聞いても良い評価しかなく、テストを白紙で提出、なんて聞かなかった。つまり俺の教科だけ。
「黙ってちゃ分かんねーぞ?」
それともあれだろうか、凉野的反抗期の行動か?もし舐められてるなら少し悲しいが。何せまだまだ新任だし。
「…やはり気付かないか…」
「ん?何だって?」
小さな声が聞き取れずにいると、凉野は突然立ち上がった。目の前で見下ろしてくる青い瞳を訳が分からず見上げていると、凉野は口を開いた。
「南雲先生、私はどういう風に見えてますか」
「は…え、どうって変な奴」
しまった、思わず即答してしまった。こっそり冷や汗をかきながら凉野を伺うが真意は読めなかった。
「私が、テストを白紙で出して、この補習に来てるのは」
すっと伸ばされた腕に情けないが肩が跳ねた。気にしないのか気付かないのか凉野の指は俺に近づきそうっと眼鏡を取り上げた。途端にぼやける視界に瞬きを繰り返す。酷く視力の悪い俺は今は凉野に奪われた眼鏡がないと目の前の人間の顔さえ造形が分からない。
「すず…」
目を細めてもはっきりしない視界に眉を寄せる。立ち上がって凉野の方へ腕を伸ばしても空を掴むだけで苛立ちに舌を打つ。眼鏡を取り返すことにとらわれて身を乗り出すと、逆に腕を掴まれた。
「っ凉野、いい加減に…!」
「先生、この姿勢でも気付きません?」
言われてみれば机を挟んで何をしてるのか。腕を離す気配はなく、俺は成す術なく凉野を睨むように見るしかなかった。
「無防備ですね、せっかく卒業するまで我慢しようとしてたのに。先生が悪いんですよ」
「ふざけ…っ?!」
視界がぶれて息を呑むと次の瞬間青が広がった。唇には何か暖かいものが触れている。固まったまま、どれくらい経っただろうか。ほんの数秒間、しかし数時間のように感じられた。
「私が先生のテストだけ白紙で出したのは私を見てほしかったから、補習なんかただ近づくための口実です」
固まって凉野を見つめるしかない俺は冷たい青の瞳に熱い劣情の色に気付き、一気に顔を火照らせた。返された眼鏡で見えたのは確かに男の表情で薄く笑う凉野だった。
「いつか、私のものにします。卒業までなんか待てませんし、ね」
そう言って今度は額にキスをして凉野は教室を出て行く。足音が完全に聞こえなくなってから、やっと俺の体は動いた。
「〜〜っっ!あ、いつ…!」
何て顔で見てくるんだ、と踞る。顔というより全身から火を吹きそうなくらい恥ずかしい。手のひらを押し付けた頬はまるで風邪でも引いたかのように熱かった。
よろりと立ち上がりため息をつく。やっぱり凉野は変な奴、だ。そう思いながらも机に置かれたプリントを手に取った。名の通り涼やかな字体で書かれた文字を無意識になぞる。
「ありえねぇ…」
熱を孕んだ瞳に心のどこかが嬉しいと喜んだなんて。笑えないにもほどがある。
「……」
それでも受け入れたい望む自分がいることに、俺は顔を赤くしたまま苦笑いするしかなかった。
なゆたん宅サイト様1周年です!おめでとううう!!相も変わらずストーカーしてたのでどうやら一番乗りだったみたい(笑)
生徒涼野×教師南雲♀がすっごいツボだったのでリクエストさせていただきました。眼鏡南雲ェ… なゆたんとこの南雲先生はきっとナイスバディで美人眼鏡の新任教師だと信じてますイヤッフウウウ
スッゲーマジで萌える小説ありがとうございました!1周年おめでとう!
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