「ウサギは寂しいと死んじゃうって、聞いたことない?」

静かな空間にたったそれだけのグランの言葉はよく響いた。玉座の肘掛けに肘をついて頬杖をついていたため、前髪の隙間から自然と上目に彼を見る。彼は、グランは相変わらず意図の見えない笑みを浮かべてバーンを見ていた。

「は?ウサギ?」

「そ、ウサギ。実際に本当なのかは分からないけど」

「知るかそんなモン。興味ねえよ」

「じゃあさ、人間だったら」

人間だったら、どうなのかな。
人間は寂しいだけで死ねるのかな。

グランは普段から何を考えているのかよく分からない。分かりたくもない。バーンはグランが嫌いだった。自分よりお父様に好かれていて、要領が良くて、強い。妬み、逆恨みというのは自分がよく分かっている。

「何アンタ寂しいの」

「そうかも」

「じゃあ試してみりゃあいいだろ。果たして人間は寂しくて死ねるのか」

「ダメだよ、オレは宇宙人だからね」

「…おー、そうだった」

グランは寂しくて死ねるような人間になりたいのか。だが人間が寂しさで死亡するなんて実証されていない、ではグランはウサギになりたいのか。とりあえず、グランは死にたいのか。それはバーンにとって、どうでもいいことだった。別にグランがウサギになろうが人間になろうが死んでしまおうが関係ない。グランのことが、嫌いだから。

「バーンはオレが死んだら哀しんでくれる?」

「さぁ。飛び跳ねるくらい喜ぶかも」

「ガゼルはどうかな」

「オレと同じだと思うぜ」

「そっかあ」

もしその話が本当ならば、ウサギも人間も大概脆いものだ。脆くて、儚い、小さな存在。

「そんなちっぽけなままでオレは死にたくねえよ」

「と、いうと?」

「いっそ派手に死んでやりたいね。そこにずっと残るような、誰の記憶からも忘れられないような死に方」

「なんだ、君も寂しがりじゃない」

「違ぇよ」

誰かの記憶に残っておきたい。そうグランは言った。それが果たして、基山ヒロトとしてなのかグランとしてなのか、それとも別の人間として誰かの記憶に留まりたいのかは定かでない。バーンにはどうでもいいことだ。しかしバーンは、どうでもいいことであるのに考えてしまった。

「そうだな、アンタは凍死か水死でもすれば?」

「どうして」

水死体にでもなってしまえば、誰かの記憶には残ってしまうだろう。グランだったら精巧な人形のように白く美しい死体の出来上がりだ。

「オレは忘れないと思う」

バーンがそう言うと、グランはさぞ嬉しそうに、顔を緩めた。バーンの言うように、水死体となって誰かの脳裏にその姿を刻み込みこの世界にさようならが出来るのなら、そっちの方が望ましい。そんなことを思って。






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