昔、三人で星を見た。

あれはそう、星のよく見える夜で、最初に言い出したのは晴矢だった。ぽつりとヒロトが「星がみたい」なんて言ったからなんだけど。ヒロトはあの頃からお日さま園の誰よりも父さんのお気に入りだったから、園の子どもたちから良く思われていなかった。無論、私もその中の一人だったわけだが。愛情を知らない子どもたちが集まるなかで一人、余分に愛情を貰えるなんて、そうなるのも当然だったんだろう。しかしどういうわけか、私も晴矢も、ヒロトの何か、自分と重なるようなところを見たんだろうか、よく覚えていないが惹きつけられてやたら三人一緒にいたものだ。

夜、みんなが寝静まった中で、私達三人だけ起きていた。私達は夜更かしするのが好きだった。いつもは外で元気に走り回ったり遊具で遊んだりして騒がしい園内が一気に暗くなり静かになり、誰もが眠ってしまったなかにいると世界に三人しかいないような錯覚に陥り楽しかった。
ヒロトが星がみたいと言ったから、晴矢が提案したのだ。今から星をみに行こう、と。そのとき確か私は今から?と聞き返した気がする。晴矢が悪戯っぽい笑みを浮かべて今から!と言ったのは覚えているから。私は未だかつて体験したことのない高揚感と、恐怖心を抱いた。

音を立てないように部屋から抜け出して、職員に見つからないよう廊下を進む。もし見つかってしまったら瞳子姉さんにこっぴどく叱られるだろう。しかしそれでも私達は施設を出ることに成功した。今思えばよく抜け出したなと思う。


「ねぇ、どこ行くの」

「高いとこだよ。そのほうが星が見えるんだぜ!多分」

「具体的にどこに行くのかは決めていないのだな。全く計画性がないな」

「ごちゃごちゃうるせえな」

「ちょっと、静かにしてよ」


当てもなくただ、真っ暗な闇のなかを歩いた。園の敷地から出て道路を歩くときも、ちかちかと頼りない街灯が僅かに照らしているだけで。三人で闇を歩いた。誰も何も言わずに自然な動作で手をつないだ。そういえばあのとき以来、手をつないだことがない。あの2人はどうだか知らないが、私は晴矢とヒロトと、三人で手をつなぐことが好きだった。私はあの頃、一人でいることが好きだったけれど、自分が弱いことを知っていた。何がどうなってそうなるのか分からないけど、いつもみんなの中心にいる晴矢は強い、と認識していた。

それと同時に弱い子だとも思っていた。

手をつないだまま長い長い石段を登って、もう疲れただの言うヒロト(言い出しっぺのくせに)と、眠いと駄々をこねる私を晴矢はよく頂上まで引っ張ってくれたものだ。


「わぁ…」


今でも忘れない、満天の星空だった。暫くの間、首が痛くなるまで口を開けて見入っていた。本当に美しかった。


「こうやって手をつなぐとさ、」

「ん?」

「自分が強いように思えるんだ」


ヒロトは、私と同じようなことを思っていた。ヒロトは私と晴矢と繋がれている両の手に力を込めた。


「…お前は強いじゃねえか」

「違うよ。オレは強くなんかない」

「でもお父さまに認められるのは君だ」

「ううん。オレはただの、」


ヒロトが言ったことが、あのときはよく分からなかった。だってヒロトはお日さま園の誰よりもサッカーが上手で、誰よりもお父様のお気に入りで。「お父様のお人形」だなんて言うヒロトが、分からなかった。


「もしも、2人がいなくなったらオレ、弱くなっちゃうよ」


そう言って笑うヒロトが何だか脆くて壊れそうな気がした。私も晴矢も、何も言わずただ星を眺めていた。三人でいればこんな暗闇の中歩いて来ても、少し怖かったけど平気だった。




「ジェミニストームが負けた」

あの頃の私たちは、葬り去った過去の中でまだ星を眺めているのだろうか。三人いつでも引っ付いて笑い合っているのだろうか。

「君たちは負けないよね」

「ハッ、何言ってやがる。そんなこと言ってるとプロミネンスがジェネシスの座についちまうぞ?」

「そんなこと言って、消されたりしないでよ?」


オレは2人がいないと、弱くなっちゃうんだから。


私の大好きな晴矢もヒロトも、待っていてくれているだろうか。満天の星を見たあの丘で。





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