上の続き



キャップを捻った瞬間サイダーの中身が爆発的に逆流して、シャツが濡れた。ふざけんなお前振っただろ、ていうか今何て言った?


「実弟に、会ったんだ」


涼野の視線は床に向いていて、でも嘘をついていない瞳だった。たったの数分前にじゃんけんで負けた涼野にジュースを買いにパシらせて帰ってくる間に、何が起こったんだよ。

「私と同じ、目の色だったんだ。母親譲りの」

外から蝉の鳴き声が聞こえる。
やかましい。

「私がおひさま園に来て、何年後かに「あいつら」が産んだんだろう。テレビでFFIの中継を観て突き止めたんだろうな」

「お…おいちょっと待てよ」

淡々と語る涼野に制止をかける。実弟がいるということはおかしくない。でもなんで今更その弟が涼野に会いに来るんだよ。

「大方、捨てた自分たちの出来損ないの息子が活躍してるものだから捨てたのが惜しくなったんだろう、私の弟らしい少年は家に戻って来てくれと言った」

「……お前はどうしたいんだよ…戻るのか?」

「まさか。そんなわけないだろう」

涼野の答えにどこか安心している自分がいた。それと同時に不満に思う自分もいた。本当に、涼野は会わなくていいのだろうか。実の血の繋がりのある、家族に。

「それでいいのかよ」

「…弟は言ったさ。テレビで中継があっているとき、母は持っていた皿を落とし、食い入るように観ていた。…涙を流しながら、と」

涼野の瞳は霞んでいた。

「お前の母ちゃんはお前に会いたがってる、涼野」

「仮にそうだとしても私は赦さない。きっと、一生。今でも憎んでいるし、恨んでいる」

「それでもいい。お前は赦さなくていい。でも一度だけでも会ってみろよ」

「君に何が分かるんだ、父母の愛を知っている君に!」

その言葉は、オレの全身を貫いたようだった。何も言い返せなくなったオレに涼野はすまない、と言って前髪をガシガシとかきむしった。

確かに涼野や他の涼野と同じような事情でおひさま園に来た子どもたちと比べて、オレは両親にとても愛されていた。だから、こんなこと言える義理じゃない。涼野から見たらオレは妬ましいに違いない。でも、それでも、

「…お前の、血の繋がった人たちなんだろ。まだ生きてるんだ」

「………」

「生きてるってことが一番大切だとオレは思う。偉そうかもしれねえけど、死んだらもう会うこともねーんだ」

「でも私はきっと赦すことが出来ないよ」

「赦さなくていいんだよ。一生赦さなくてもいい。会ってみるだけでいいんだ」

「私は弱い。正直会うのが、怖い」

「だったらオレもついてってやる」

こんな弱々しい涼野は初めて見た。いや、もともと涼野は寂しがりな奴だ。きっとオレも。だから2人で組めば怖いものなんてなかった。目を丸くする涼野の肩を叩いて思い切り笑った。

どこまでも腐れ縁のお前に、付き合ってやるよ。












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