南雲と基山が♀
なりヤン南雲、一人称あたし



「涼野?」

基山は目を丸くした。驚いている。
仲良くしているグループは世間的に見れば素行の悪い連中ばかりで、その中に基山がいるのは少し違和感だけど別にあたしは平気だ。仲良くて楽しいし。でもやっぱり話についていけなくなるのは嫌で、ときどき嘘をつくことはあった。

「へぇ、今は涼野狙いかぁ…南雲はちょっと変わった趣味だよねぇ」

「アイツ如何にも優等生って感じでさ、童貞臭超してんじゃん。たまにはそういうの楽しそうだなって」

嘘だ嘘。
あたしはみんなみたいに男を自分から誘って股を開くことなんて出来ない。勿論処女だ。基山は外見も体型もいいから多分学校中の男子は勿論大人の男にまでも身体を捧げているらしい。“セックスは楽しい”なんてみんな言うけれどあたしには分からない。分からない以前にしたこともないんだけど。だって怖いし。

涼野の名前を出したのは、あたしが涼野を好きだからだ。涼野は真面目な優等生で、顔は格好良いのにいつも教室の隅で読書をしていたりと暗い。女子からからかわれたりしているような奴だけど、あたしは涼野が好きだ。基山に「南雲は次、どんなの狙ってるの?」と聞かれて咄嗟に涼野と答えてしまった。最悪。ごめんなさい、涼野。そんなあたしの心情も知らず周りのみんなは「南雲なら落とせるって」だの「南雲には勿体無いよぉ」だの言いやがる。黙れ黙れ、涼野に聞こえちゃう。それでもあたしは「まぁな」なんて答えちゃって。







今、何がおこっているんだろう。
他に誰もいない夕方の教室で、日誌を出してから帰ろうと思ったら涼野が教室に入ってきて…それで…
いきなり壁に抑えつけられてる。
え、なんでこうなってんの?
ぐるぐると混乱する頭の中で、なんとかしてこの体勢から逃れようと判断してみたけどやっぱり男の力には勝てないんだ。涼野の右手にあたしの手首を掴まれて、左手はあたしの顔の横にある。びくりともしない。怖い。涼野のこと好きなのに、怖い。

「君、私のこと好きでしょ」

「は…」

「そんなナリしてるけどね、バレバレだよ。処女臭い」

「……っ」

かああ、と顔が熱くなる。
涼野はやっぱりいつも通りで、無表情だ。しかしクスリと不敵に笑い、舌なめずりする姿が不気味で、今までの涼野と全然違って、もしかしたらこれが本当の涼野なのか、と考えている内にあたしの胸元のネクタイがしゅるりと音を立てて解かれ、床に落ちた。

「私が教えてあげようか」

「…やだっ…放して…」

「どうして。君はそれを求めていただろう?」

怖い。怖い。
憧れていた涼野が今はただの性欲に駆られた男で、その欲にまみれた瞳が近付いてくるのをあたしは拒むことが出来なかったのだ。







お題 泪雨



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