「ヒロトと怜名姉遅いねー…」
もう夕飯出来ちゃうのに。
学校が終わって瞳子姉さんに呼び出されたと言ってお日さま園へ向かってしまった。ちなみに私たちが今暮らしているのはお日さま園名義で借りている貸家だ。義務教育が終わったらこうやって何人かで固まって貸家で暮らす。私たちは高校を卒業したらそれぞれ独り立ちする約束だ。
「リュウ、焦げる焦げる!」
「へ?うわわっ」
「まったく…」
砂木沼さんがため息をついて晴矢姉が苦笑している。またやっちゃった。それにしても怜名姉も晴矢姉も料理とか上手なのに何で私は全然出来ないんだろう。砂木沼さんなんかお日さま園1の腕前なのに。
「ねぇ晴矢姉はどこで料理勉強したの?」
「勉強したっていうか…習慣だったっていうか大体必要最低限なことは自分たちでやらせるのが園の方針だったからな」
「…私した覚えないよ?」
「ああ、一度リュウもみんなと同じように料理を作る練習はしたことはあった、しかしその後が地獄絵図だったためにリュウは台所に立たせるなと暗黙の了解が成立したんだ」
「ええ!?」
「覚えてねーのか?」
「全然覚えてない…だから洗濯係ばっかりだったんだ私……」
「一度リュウの作った飯食って茂人がぶっ倒れたこともあるぜ」
「!?」
し、知らなかった!
ごめん茂人兄…!
高校生にもなって料理が出来ない女子って、ヒロト呆れちゃうかな…。ヒロトも、それなりには出来るみたいだし。風介兄は出来ないみたいだけど。…はっ、もしかして、いつも風介兄と洗濯係かぶっていたのはこういうこと…!?
「でも風介兄は晴矢姉が料理出来るからいいよね…」
「…おい、どういう意味だそれ」
「だって料理も掃除も出来る奥さんなら、風介兄は安心して仕事出来るもんね!」
「はああぁぁ!?」
一気に顔が真っ赤になった晴矢姉のその手から豆腐が滑り落ちる。それをすかさず砂木沼さんがキャッチ。
「ばばばばっかじゃねえの何だよ奥さんとか!意味分かんねえし!ていうか何で風介がそこで出てくるわけ!?」
「ちょっ、晴矢姉豆腐が!豆腐潰れちゃうから!」
「晴矢落ち着きなさい」
ごほん、と一つ咳払い。とりあえず落ち着いたらしい。未だに顔赤いけど…2人とも両思いなのに、何でくっつかないのかが不思議だ。見てて焦れったいんだよね、でもさっきみたいに風介兄のことを指摘するだけで取り乱す晴矢姉は可愛いけど。
「そっ…そういうリュウは?どうすんだよ、バレンタイン」
「え?」
「手作りするって言ってたけど大丈夫か?そんなこと言ってっと手伝ってやんねえからな…」
「ごめんなさい!」
毎年バレンタインは、怜名姉と晴矢姉と(何故か砂木沼さんも)一緒に手作りしている。義理でっていうことでお日さま園に住んでた頃から女子は男子にチョコを渡していた、一つの行事のようなもの。風介兄にも渡してたし、勿論ヒロトにもあげてたけど、ヒロトに渡すときだけはやっぱり緊張してしまう。
「今年は何を作ろうか」
「んー、去年はトリュフだったか?」
「ケーキでも作る?」
そんな話をしていると、扉を開く音がして次にただいま、と声がした。
「ヒロトと怜名だ」
「おかえりなさー…」
い?
帰ってきたのはヒロトと怜名姉と、あれ、もう1人?
「ごめん、ご飯もう1人分よろしく」
ヒロトが苦笑いしながら言った。