「ごめんなさい」
そう一言だけ言って、静かにその場を去る彼女はやはり美しい。玉砕した男もそう思うに違いない。
「風丸」
「…豪炎寺」
風丸は美人だし、気が利くし、明るいし、スタイルもいい。言い寄ってくる男もそれは凄い数だ。しかし彼女は決して棘のある言葉は出さず相変わらずの綺麗な顔でただ一言、ごめんなさいと言うのだ。それは風丸にはもう、大好きで愛しい者がいるからである。
「また告白…か」
「…うん。でも断ったから」
「…ああ」
自分の恋人が他人に好意を寄せられるのは嬉しい。けれど、複雑なことに変わりはない。この2人が付き合っていることは学校中が知っているはずなのに、告白されるのは。
「(…お前のせいだよ)」
風丸は心の中でそう言ってやった。
サッカー部のエースとして活躍する彼が好きだ。クールに見えるけど本当は熱くて優しい彼が好きだ。しかし、彼は、
「(ヘタレ)」
なのだ。
豪炎寺は、ヘタレだ。
元々女子と付き合うのは苦手らしい。普通に女子に言い負かされてしまうし(主に佐久間)。風丸も豪炎寺もお互いに惹かれあって付き合っているのだが、なかなか次の展開に進めずに付き合っている男女にしては随分と、こう、甘さがない。
もっと恋人らしいことがしたいとか、甘えたいとかそういう気持ちは勿論ある。しかし風丸も頑固な性格をしており、自分から甘えたりすることに慣れていない為に2人はこの関係を保ち続けているのだ。
しかしそれでも、構わない。
2人がお互いを愛しているのは間違いないのだから。
「風丸」
「なんだ?」
「…帰り、何処か寄らないか」