Indigo blue

 最初は好奇心とか、ほんの出来心っていうか、単なる興味本位ぐらいだったと思う。
 すんごく綺麗でさ、人を寄せつけないオーラを放ってたから、友達になれたたらいいな、なれたら自慢になるなってぐらいに。
 それなのに、こんなにも大事な奴になるとは思ってなかった。
 まさか俺にそんな奴ができるなんて。
 綺麗だなと思うことはよくあるし、可愛いらしい動作にもキュンとしたりもする。
 だけど俺はこいつの友達だ。
 たまにそうだったらいいのになって思っちゃうときもなくはない。
でも間違っちゃいけない。恋人じゃないんだ、友達なんだ。
 俺は、クラウドとはずっと友達でいたいと思うんだ。
その心に嘘はない。
ひょんなことから俺の紹介で俺の友達のスコールと知り合って、二人は恋人になった。 喜ばしいことこの上ない。クラウドとスコールは俺の大事な友達だ。この二人の幸せのためなら、俺は何だってするってそう思った。誰が敵になろうと、俺だけは二人の味方でいようって。クラウドの、そしてスコールに支えになろうって。
それもまぎれもない無い本心だ。
 それなのに。
それなのに、たまに心を闇が支配する。
 たまに言ってやりたくなるんだ。
 俺の方がクラウドのこと、もっと、ずっと、知ってるって。
 特に、こんな疲れた顔をしているクラウドを見たときなんかに沸き起こる感情。
 とても醜い、黒い感情。
 誰にも、絶対に知られちゃいけない。
 もちろん…クラウドにも。
 授業が終わって、昼飯に誘おうとクラウドを探して、準備室を覗けばクラウドはまた居眠りをしていた。
 机に突っ伏して、規則正しい安らかな寝息を立てている。
 少しひんやりとした風が窓から入り、それはクラウドの髪を撫でていった。
 柔らかい、光り輝く金。
 その髪に手を伸ばしかけて、やめた。
 俺がすべきことはそれじゃない。
 辺りを見回したけれど、毛布とかは見当たらなくて、そのまま椅子に寝かせておくのもなんだか忍びなかった。
 仕方なくクラウドの身体を奥のソファに移動させることにした。あくまで、移動させるために触るのだと言い訳みたいに自分に言い聞かせて。
 抱く際には細心の注意を図ったけれど、起きたらどうしようと思いつつも、それはそれでなんとかなるか、と楽に考えた。
「ん…」
 実際は抱き上げる時にクラウドから小さい声が聞こえただけで、起きる気配はなかった。
 ソファにゆっくりと降ろして、毛布代わりにと着ていたジャケットをクラウドにかけた。
 眠るクラウドの横に簡易椅子を置いて、座った。
 長い睫毛が影を落とす白くて透き通る肌が儚くて。
 まるでこのまま消えてしまうような錯覚がして、焦燥感に襲われた。 あまりにも綺麗過ぎるクラウドが、羨ましくて、そうなりたくて、胸が苦しくなる。
自分だけがこんな醜い感情を持っているようで、楽になりたかった。
純粋な存在に触れれば、自分の中の厭なものが消えるかもしれない。
 俺だけが、こんな醜いままでいたくない。
誰もわかってくれなくてもいい。汚したいわけじゃなくて、ただ助けて欲しかっただけなんだ。
憎まれることも、考えなかったわけじゃない。恨まれてもいいって思ってる自分もいた。そうまでして、俺はクラウドに触れたかった。
 クラウドの顔に少しずつ近づいて、唇に触れようとした。
あと少し近づくだけだったけれど、出来なかった。
体とは反対に、頭がブレーキをかけた。頭を過ぎる、友達の顔。眩しいぐらいのその笑顔たちが、俺の体を金縛りにでもかけたように、動けなかった。
そして何より、クラウドの瞳が開いていた。
「……よう」
「あぁ…」
 クラウドは俺の顔を見た後、辺りを見回し、そしてまた見つめてきた。
「移動させてくれたんだな」
「あーうん。あのままじゃ辛そうだったからな」
「………で?」
「で?何が?」
「この現状はなんだ?」
「あー…」
 先に視線を逸らしたのは俺だった。
 クラウドにしてみれば襲われてる状況に近いのだろう。
 しかもそれを俺は完全に否定できない。
 自分は奪おうとしたのだ、その純潔を。
決して汚すつもりはなくても、こんな俺に触れられてしまえば、もう真っ白ではいられなくなることは確実だ。
 何も言えないでいる俺に、クラウドは小さくため息を付いた。
「遠慮しなくていい」
「え?」
 何を、と言う前にクラウドの手が俺の後頭部に回り、ぐいっと引き寄せられた。
 たどり着いた先は、クラウドの胸の上。
「甘えたいんだろ?」
「へ?」
「あんたたまに切羽詰まったような顔してるから。…ちょっとここで休め」
 ぽんぽん、撫で撫で…と頭に置かれた手がものすごく気持ちいい。
「俺…そんなに変な顔してた?」
「自覚無しか」
「いや…うん、…自覚あるわ」
 触れてくる手はどこまでも優しくて、目の奥がじんじんと熱くなる。
 溢れ出る感情をどうやって抑えたらいいんだ。今までどうやって制御していたんだろうと思うぐらい、自分ではもうどうにもできそうにない。
 そんな今にも爆発しそうな心を穏やかにしてくれたのは、クラウドの声と温もりだった。
「甘えたくなったら、言えばいい。どんなバッツでも見捨てたりしない」
「…どんなって…」
「俺は、嬉しかったから。バッツが声をかけてくれたこと」
 忘れもしない、と。
 微笑み付きで言われては、俺は言葉を紡げなかった。
 あの気まぐれをそう思ってくれていたなんて。
 お前って本当に、めちゃくちゃ良い奴じゃん。
「それに…あんたがいなかったらスコールにも出会えていなかった」
 トキンと胸が高鳴った。
もし、あのとき、スコールに紹介しなかったら、俺たちはどうなっていたんだろう。
俺が猛アタックしていたら、スコールのポジションにいることができたのだろうか。お前は俺に心を許してくれただろうか。
「なぁ…」
顔を見ることはできない。クラウドの胸に頭を預けたまま、俺は尋ねようとしたけれど、それもできなかった。
聞いて、どうする?
それは、クラウドを、そしてスコールを、ただ困らせて悲しませるだけじゃないか?
そんなこと俺は望んでいない。二人が幸せになってくれるんだったら、俺は全力で助けるって、味方になるって決めたじゃないか。
あの時思った心は偽者だったのか?嘘だったのか?
「……」
呼びかけておいて、俺は言葉がでなかった。
「…あんたよっぽど疲れてるんだな」
 クラウドが小さく言った。そして、撫でていた手を止めて、俺の頭を優しく、そっと抱いてくれた。
「俺、バッツが好きだよ」
「っ…」
「バッツも、ティーダも、フリオニールも…セシルやウォルも、…みんな好きだ」
 頭を抱く手はそのままに、クラウドはなおも落ち着いた声で話してくれた。
「でも、スコールは特別。もう、あいつがいなかったら俺はだめだと思う」
 クラウドが笑った。つられて俺も少し笑った。まだ顔は見れないけれど、いつもの俺らしく振舞った。
「ラブラブってやつだな」
「ラブラブってやつかもな」
「そりゃよかった」
「そうなれたのは、あんたのおかげだ。バッツ、あんたがいないのも、もうだめなんだからな」
「だめって…」
 それ、反則じゃね?

「これはバッツがくれた幸せだ。あんたがいなかったら成り立たないだろう?」
「……」
「あんたには最後まで見届ける義務がある」
「…、義務?」
 クラウドの言っている意味がわからなくて、反射的にクラウドの顔を見てしまった。その顔は、穏やかな微笑でもって、その表情だけでクラウドの言いたいことが伝わってきた。
「…わかってる。俺はずっと、クラウドの、…お前らの味方だ」
「うん。ありがとう、バッツ」
お前今照れてるだろ。でも、赤くなったのはきっと俺の方だろうな。クラウドからの素直な気持ちを確かに受け取った俺は、今までで一番満たされているかもしれない。
 それに、今のクラウドの話だけでスコールのことをどんなに思っているかってのがよくわかった。紹介した立場としては、嬉しい限りじゃないか。
でも、それでもほんの少し…
「…スコールが、羨ましいな」
 出た声は小さくて、さらに言うなら涙声だったかもしれない。
「俺は、あんたの方が羨ましいけどな」
「……え?」
「バッツは優しいから。そんな風になりたいな」
それに色んな事知ってるし、いつも頼りにしてるんだ、と。
その言葉でどんだけ俺が、俺の気持ちが軽くなったかわかるか?
わかっても、頼むから、今だけは気づかないフリをしてくれ。
クラウドの言ったありがとうにはいろんな意味が込められていると思う。こんなに心地がいい言葉、久しぶりだ。
だから俺も、ありがとうと告げたかったけれど、言葉になったかわからなかった。クラウドに救われた心はあっけなく睡魔を迎え入れられるほどに、癒されてしまった。
俺はクラウドの手と温もりに全てを預けて眠りについた。
こんなに穏やかな気持ちは久しぶりだ。たぶん、こいつらがちゃんと付き合い出した時以来かな。
深い眠りにはいる前に、クラウドのおやすみ、安心して眠れよという声が聞こえた。もう、闇に飲まれることはないな。
クラウド、ありがとう。


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