ここから

はっきりと言われてもあまりショックは受けなかった。それは心のどこかで認めていたから。
「君はスコールには相応しくない」
冷たく言い放つラグナにクラウドは黙って頷いた。スコールが好きだ。スコールも好きだと言ってくれている。この先スコール以上の人は現れないだろう。互いでなければ満たされない。それでも、どんなに想い合っていても側にいられないこともあるということを知っている。足掻きもせずに黙ってそれを受け入れたらスコールは非難するだろうか。もう会うことがないのだとしても大切な人を育ててくれた人だから、礼を尽くしたかった。
「ありがとうございました」
スコールを育ててくれて、出会わせてくれて。一年にも満たない期間だったけど、幸せだったとクラウドは深々と頭を下げた。
「クラウドっ」
ぐん、と意識が浮上する。目の前に広がるスコールの顔。何が起こったのか分からなかった。
「あ…スコール?」
「大丈夫か」
「…?」
クラウドはベッドから起き上がると辺りを見回した。スコールの部屋ではない、知らない場所だ。
「ファミレスで倒れたんだ」
「あ…ああ」
「熱があるのに無理して動くな」
夏とはいえ夜に裸に近い恰好で外に出て風邪を引いたのだろう。考えることがありすぎて体の不調に気付かなかった。
「…ここは?」
「新しい部屋だ。あんたに相談もしなくて悪いと思ったが勝手に決めさせてもらった」
「それって」
「ああ。二人でここに住むんだ」
嬉しそうにスコールが微笑む。その笑顔にクラウドの胸が痛んだ。夢の中で一度は諦めようとした手を掴んでもいいのだろうか。そんな都合の良い話はあるわけがない。
「クラウド?」
「スコール…すまない」
「…?」
スコールは自分だけを求めてくれる。物分りの良い大人を演じて諦めるのはいつもクラウドだ。もう子供ではない、そう言い聞かせて丸く収めようとする。
二人の仲をラグナに反対された夢を見たこと、そして自分は素直に受け入れて諦めようとしたことを告げてクラウドは視線を落とした。
「いつも失くしてからその重さに気付いて後悔するんだ」
自嘲気味に呟く。何度も後悔するのにすぐに諦めてしまう。スコールだけは、と思っていたのにまた手放してしまうところだった。
「大丈夫だ」
ふわり、とスコールが抱き締める。軽く抱き締めているだけのはずなのに力強く感じられてクラウドに安堵を与えた。
「あんたに比べれば俺はまだ子供でしがらみが少ないから言いたいことが言えるだけだ。あんたが少しでも俺を求める限りは絶対に離れない」
だから辛くなったら無理をして手を伸ばさなくていい。ただ拒絶だけはしないでくれというスコールにクラウドは頷いた。
「アンタは強いな。それに比べてオレは…」
その強さに憧れる。年下なのに強い意志と力を持っている彼。出会えて本当に良かった。
「ところで、ここ…」
「早く決めたかったからあまり選択の余地がなかったが、他が良かったか?」
「いや、よくすぐに見つけられたな」
クラウドが最初のアパートを借りたときはこんな物件は見当たらなかった。予算が違うと言えばそれまでだが、それでも都合よくすぐに入れるなんてタイミングが良すぎて何か裏でもあるのかと疑ってしまう。
「父の側近、あの細身の方、キロスって言うんだが彼から借りた」
スコールがにやりと笑う。これは何か企んでいるときの顔だ。
「キロスに公邸に一緒に住んだらどうかと勧めたんだ。その方が何かと便利だし」
ついでに監視も強化されてこちらに干渉する暇もなくなるだろうと笑うスコールに呆れながらも感心してしまった。そこまで親を邪険にしなくてもと思いつつ、二人の仲に割って入ろうとする者は徹底的に排除する計画性に執念を感じる。
そうまでして一緒にいたいと思ってくれていると自惚れてもいいだろうか。
「ここが、二人の帰る場所か」
そう考えると嬉しくなった。そっとスコールの手に手を重ねる。ただいま、と小さく呟くと心の中が暖かくなった。




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