大事な秘密3

誘拐のように無理矢理車に乗せられた非礼を詫びられてもまだ現実味がない。目の前でアイスコーヒーを啜っているのはこの国の大統領だ。そして、スコールの父。ニコニコと人好きのする笑顔の裏で何を考えているのだろうと、クラウドは俯きながら考えていた。
二人が向かい合って座っているここは以前スコールがクラウドに告白したファミレスだ。ここが生活圏なのだから当たり前だが、席まで同じだと何かの因果を感じざるを得ない。
「えーと…スコールの父のラグナです」
「…クラウドです」
実の父親を目の前にしてスコールとお付き合いをさせて頂いているという枕言葉をつけることはできなかった。
「昨日はゴメンね」
「いえ…」
クラウドにダメージを与えまいと敢えて明るく軽く謝る彼は悪くない。どちらかといえば恋人を連れ込んで盛っていたスコールや、事情があるにせよ家主に挨拶もせず突然転がり込んで長期間居座っているクラウドの方が悪い。
「まさかあのスコールに恋人がいるなんて思わなくて」
「…すみません」
「住む所がなくなっちゃったんだって?」
「…はい、すみません」
謝る場面ではないが口から出てくるのは謝罪ばかり。大事な息子さんをたぶらかしてすみません、悪い事を教えてすみません。クラウドはそんなことを考えていた。
「じゃあ、うちの離れを使ったら?」
「…は?」
思わず顔を上げる。何を言ってるんだろう。彼がどういう意図でそう発言したのか、表情からは図ることができなかった。
「今は誰も使ってないし、大学も近いし。どう?」
どう、と言われても返答に困る。確かに当事者同士の話し合いだが、スコールに無断で決めてはいけない気がする。
そもそも、もっと別に言うことがあるのではないだろうか。
「あの…」
「ダメだ」
どう返事をしたらいいか分からないながらも口を開いた瞬間、言葉が重なった。声のした方を見ると息を切らしたスコールが立っていた。
「絶対にダメだ」
スコールはつかつかと歩み寄りクラウドの隣に座るとアイスコーヒーを一気に飲み干した。それからぎらりとラグナを睨んだ。
「何で?」
ラグナが首を傾げる。正式に居候を許そうというのだ。それはクラウドも疑問に感じた。昨日までスコールの部屋に居候していたのに、離れに間借りするのが駄目だなんてどうしたのだろう。
「クラウドが離れに住んだら公邸から戻ってくるつもりだろう」
「ダメ?」
「当たり前だ」
ラグナの思惑を聞いてクラウドは慌てた。そういう事情なら受ける訳にはいかない。大統領は有事の際にはすぐに官邸に出勤できる体制を整えておかなければならない。それをどこの馬の骨とも分からない男が息子を誘惑しないように見張るために自宅に戻るなんて許されることではない。
「あんたクラウドが離れに住んだら絶対に干渉してくるだろう」
実の親に向かってあんた呼ばわりは良くないんじゃないかと思ったが、だんだんと親子の会話に聞こえなくなってきてクラウドは恥ずかしくなってきた。どうしてスコールはこうもはっきりと主張できるのだろう。
「ダメなの?」
「俺とクラウドの生活に入ってくるな」
「少しくらいいいだろ。俺だって生活に潤いが欲しいよ」
「そんなのをクラウドに求めるな。いいか、俺のクラウドだ」
はっきり迷惑だと言い切るスコールに遠慮など感じられない。これが父子というものかと羨ましくなった頃にラグナが特大の爆弾を投下してくれた。それはもう、クラウドの意識を吹っ飛ばす程の威力だった。
「何でそんなにクラウドに執着するんだ。人のものを欲しがるな」
「だってスコールが空港を閉鎖してまで手放したくないなんて、気になるじゃないか」
「え…」
クラウドは耳を疑った。今何て?と二人を見ると、スコールはしまったという顔をしていた。
「それってどういう…」
「何でもない」
思い出される、つい数週間前の修羅場。あの時、全便が休航しなかったらクラウドは今ここにはいなかった。スコールがクラウドを引き止めるために父に大統領権限で空港を閉鎖したのだとしたら。
一体どれだけの経済的損失が出たのだろう。考えただけで気が遠くなった。ぐるぐると目が回り、目の前がぐにゃりと曲がる。真っ直ぐに座っていられなくなったクラウドは静かに目を閉じた。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -