卒業式

春というにはまだ少し肌寒かったがよく晴れて穏やかな日だった。バッツは晴れやかな顔を上げた。慣れないスーツが少しぎこちないがそのうち見慣れるだろう。
遠くの教職員席のクラウドを探す。目立つ金髪はすぐに見つかり、こちらに気付いたクラウドがふわりと微笑んだ。周囲がざわりと色めき立つ。相変わらず凄い破壊力だ。スコールの苦労を思いやりながらバッツも笑顔を返す。
学長の長くつまらない式辞が終わり、バッツは腕時計を見た。本当に退屈な時間だ。そんなことを言えばハレの日に何てことを言うんだと誰かに咎められそうだ。
だがこんな儀式は通過点でしかない。四年間を振り返って感慨にふける気もない。確かに楽しい四年間だった。クラウドに出会ってからは特に。
式が終わり講堂から出ると知った顔が勢揃いしていた。院生のウォーリアやセシルから、まだ入学もしていないジタンまで。
「卒業おめでとう」
ティナから花束を受け取ると少し照れくさくなった。こんな風に祝われるのは柄じゃない。
「おめでとう」
「おう、サンキュ」
片手を上げて軽く礼を言えば皆が嬉しそうに笑った。今日は俺が主役、そう思うと心が踊る。そして言ってみたかったセリフを言ってみる。
「皆、俺のために集まってくれてありがとな。ジタンなんか忙しかったんじゃね?」
「ついでに入学の手続きもしに来たから大丈夫」
今日は一日オフなのだと言う。そこまで慕われたのなら期待に沿わない訳にはいかない。
「よーし、これからパーっと行こうぜ」
「でも謝恩会は?」
「そっちに行くと思って日を改めて場をセッティングしてるんだが」
セシルとフリオニールが気を使うが今の気分は謝恩会なんかよりこいつらと派手にばか騒ぎしたい。
「そう言うと思って準備してあるよ」
振り返るとクラウドが笑っていた。
「バッツ、卒業おめでとう」
「おう、仕事はもういいのか」
「ああ。俺は式の担当じゃないから」
クラウドが案内したのはいつもの準備室だったが、いつの間にかきれいに片付けられて狭いながらも何とか全員入れそうだった。そして何より目を引いたのがテーブルの上にところ狭しと並べられている料理だ。
「さっすがクラウド、俺のことよく分かってる」
卒業生は大抵謝恩会に行く。バッツのような者はごく一部だ。それをここまで用意できるのはバッツの性格を熟知しているからだ。
「残念、発案はスコールだ。で、スポンサーはラグナ」
クラウドはただ場所を提供しただけだと言う。それでもバッツは嬉しかった。
「っ!そうか、サンキュー」
「別に礼を言われることじゃない」
この幼なじみは昔から無愛想で、密かに対人関係を案じていた。恋人ができてからは少しは丸くなったとは思うが。照れ隠しに視線を外すがスコールの顔は少し赤い。
さあ、と誰かが促せばみんながイスに座りコップを取った。今日だけ特別だと成年組には飲酒が許されたが未成年は相変わらずジュースだ。それも最初だけ、すぐに入り乱れて分からなくなるだろう。
それでは、とウォーリアが音頭を取る。
「我らが偉大なムードメーカ、バッツの無事卒業と益々の活躍を願って」
「かんぱーい」
そして沸き起こる拍手。ウォーリアの言い方といい、本当にこそばゆい。これが主役というものか。
「おめでとう」
「本当に、よく卒業できたね」
「ついでにいつの間にかちゃっかり就職も決まってるし」
何だか失礼な言葉も聞こえてきて、大げさに嘆いてみせる。胸を張って頑張ったとは言い難いがただ遊んでいただけではない。
「あのなぁ…俺、意外と真面目なんだぜ?単位は三年でほとんど取ったし、就活だって一応人並みにはしたし」
「ホントに意外だね」
少し生意気なルーネスが目を丸くして本当に驚くから遊び人のイメージが強すぎたかとがっくり項垂れる。
「お前ら…俺を祝ってんのか貶めてんのか」
「もちろん祝ってるよ」
はい、とセシルからラッピングされた小さな箱を渡された。
「僕達からのお祝い」
「え…」
まさかここまで用意されているとは思いもよらず、皆を顔を見た。誰もが微笑みながらバッツが喜ぶのを期待している。
ラッピングを解いて箱を開けるとネクタイが出てきた。
「みんな…本当にありがとな」
紺にチョコボのプリントはきっとお気に入りの勝負ネクタイになるだろう。入社式はこれにしようかと考えているとウォーリアが諭すように頷いた。
「これからは君も企業戦士として頑張ってくれ」
「そうそう、社畜ってツラいっスね」
「だからその一言が余計だって」
小突くとティーダがえへへと笑った。バッツも本気で怒っている訳ではない。クビにならない程度に適当にやると言えばウォーリアが顔をしかめた。
「君は…」
「ストップ」
長くなりそうだとウォーリアの説教を止める。今のこの場に説教は似つかわしくない。
「今日は堅いこと言いっこなしだぜ」
「…そうだな」
ウォーリアが眉を下げて微笑む。二人のやり取りを見ていた皆も笑顔になる。もちろんクラウドも笑っていた。
幸せってこんな時間のことを言うんだ。もうこんな時間はなくなってしまうけど、きっと皆の心に残るだろう。そうなることをバッツは強く願った。




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