大統領殺人事件5

家の中はひっそりと静まり返っていた。使用人達も無口で遠慮がちに頭を下げるだけだ。いつもはすぐに飛んでくるたまもいない。
リビングに行く途中、ラグナの書斎から明かりが漏れているのを見つけてドアを開ける。そこにはキロスの姿があった。
「何か探し物でも?」
「ああ、君か」
机の上は乱雑でラグナが生前使っていた状態のままだ。キロスは書類を引っくり返して何かを探しているようだった。
「この辺に答申書があったと思うんだが。先日ヒアリングをしてメモを取ったのが」
「…これ…か?」
「ああ、これだ。ありがとう」
辞書に挟まった書類に書き込みがあるのを見つけ引っ張り出しキロスに渡す。キロスはそれを確認すると鞄にしまった。
「これで何とかなるか」
「あの…」
「君も大変だな。悪いけどクラウド君のフォローを頼むよ」
「え…ああ」
スコールは驚いてキロスを見た。役職を除いても親友であるラグナが殺されたというのにクラウドを気遣っている。ということはラグナに非がありクラウドはやむを得ない状況に立たされたのだろう。そしてキロスは何があったのか知っている。
キロスという男は公正だ。その彼がクラウドを責めることなくスコールにフォローしろと言うのだからそれは正しいと思っていいはずだ。
だが違和感が残る。仮にも一国の大統領が殺されたというのにこの静けさは何だ。確かに公表する時期は選ぶだろう。それにしてもキロスは落ち着きすぎている。何かあるのだろうと思いながらもスコールは突っ込んで聞くことができなかった。
あの話ぶりからはキロスがクラウドの行方を知っているとは思えず、何の情報を得られないままスコールは家を出た。だが収穫がなかった訳ではない。どうやら大統領官邸はクラウドを殺人犯として拘束する気はないようだ。だとすれば厳重な捜査網は張られていないだろうから、クラウドを見つけさえすれば容易に逃亡できそうだ。
そう、見つけさえできれば。一緒に暮らしてきてクラウドは何でも話してくれた。同じものを見て同じ世界に生きていたはずなのに見つけられないなんて、一体何を見ていたのだろう。クラウドの住む世界は自分と同じ世界ではなかったということか。
信じていたものが足元から崩れていく。もうこれ以上進めない。どこに行ったらいいか分からない。ただ立ち尽くすしかできなかった。




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