magazine panic 1

少し留守を頼むと言われて、スコールはコーヒーを飲みながら窓の外を見た。準備室から見える景色が、冬を感じさせた。
そして、静かなこの棟に響き渡るバタバタという足音に、スコールは小さくため息をついた。
あらかたバッツかティーダあたりだろう。そう思って開くであろうドアに目を遣った。
けれど、開いたドアから顔を覗かせたのは、そのどちらでもなかった。
「…ジタン?」
「へ?あれ?スコール!」
タタタっと駆け寄るジタンは、手に何かを抱えていた。
「クラウドは?」
「今ちょっと席を外してるが…少し経てば戻ってくると思う」
「そっかぁ…」
せっかく出来立てほやほやを持ってきたのになぁとぼやくジタンに、スコールが何の話だと聞けば、ジタンはとても嬉しそうに話し出した。
「最初はスコールをスカウトするつもりだったんだけどさ、クラウドがやるって言ってくれて結果オーライだし評判はいいしで専属にならないかって社長からも言われてさ〜」
べらべらとジタンの話は続いたが、そんなことスコールにはもうどうでもよかった。ジタンからスコールに手渡されたもの、それはクラウドがモデルとして撮影された雑誌だった。
「こっ…!クっ…!」
言葉にならない衝撃とはまさにこの事。こんなことをしたなんて自分は聞かされていない。スコールの中で確かな動揺が生じた。
「特にさ〜これ!このクラウドの顔!このショット最高じゃね?」
それは見開きページで、とても穏やかな、蕩けるような、幸せそうな表情をしているクラウドだった。
「っ…」
思わず額に手を当てる。こんな顔を、俺意外に見せたというのか。
「なんか好きな人を思い浮かべてたらしくてさ」
全く耳に入ってこなかったジタンの言葉が、突然聞こえたような気がした。
「え?」
「こんな顔しちゃってさ…思われてるやつって幸せ者だよな」
羨ましいなとジタンが小さく呟いた。
こんな顔、させてみたいし、してもらいたい。それはなんて幸せなことなんだろう。
そしてスコールはジタンがいう幸せ者が自分だという事実に、顔を赤くした。わかってはいたが、人に言われるとさらに自覚する。スコールは今一度、自分がクラウドの恋人であることが幸せだと思った。
「これ、皆に配れるように10冊持ってきたぜ」
鞄からどさりと雑誌を取り出すジタン。
自慢したい気持ちと、見せたくない気持ちと、スコールの頭は良策を見つけるのにフル回転する。
「発売するのはもうちょい後だけどな。あ、わりぃ…次の仕事の時間が迫ってるから俺行くわ。クラウドに渡しといてくれよな」
どこまでもジタンは爽やかに、部屋を出て行った。
悶々とするスコールと、10冊の雑誌。表紙の中央にさえもクラウドが飾られている。
綺麗な、顔。
周りにいる女性たちよりも目がいってしまうのは、スコールが心底惚れているからか、はたまたクラウドから醸しだされているオーラのせいか。
プロの手によって、クラウドはさらにかっこよく、美しく、綺麗になったけれど、それが嬉しくもあり、腹立たくもある。
世間一般にこの男の存在を知らせていいものか…
手元にある10冊の雑誌さえも、スコールは今、配りたくない気持ちに苛まされていた。




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