さらば温泉、さらば雪山

寝返りをうてば、肌に冷たいシーツが触れた。その感触に、自ずと目が開いた。
空気がひんやりとしていて、けれどとてもすがすがしいのは元旦だからだろうか。
クラウドは静かにベッドを出て、下に落ちていた服を急いで身につけて、暖房を効かせる。
次第に暖かくなるであろう空気を待つことが出来ずに、クラウドは足元にあるヒーターも稼動させた。ヒーターに手をかざし、暖を取るクラウド。
そしていきなり背後に感じた重さに、クラウドは苦笑いする。
「重い」
「最初の一言がそれか…」
首元に触れる髪がくすぐったい。
「おはよう」
「ん…ベッドにあんたがいなくて寂しかったんだ」
「俺が先に起きる時だってある」
「新年から不吉な…」
「うるさい」
ヒーターの前でじゃれ合えば暖かくなるのも早い。
突然クラウドがもじもじとしだしたを見てスコールがどうした?と首を傾けた。
「いや…その…早く……」
「早く…?」
「…下だけでもいいから…」
「…下…?」
「…っ着てこい!」
抱き着いたままだったスコールの顔を押しやる。
「あんたに引っ付くのが先だったんだ」
「もういいだろ!早くしろ!」
気づけばクラウドの顔は赤くなっている。ほんの数時間前はもっと恥ずかしいことをしていたというのに、いつまでたってもクラウドの初々しさには敵わない。
「わかった」
クククと堪えきれない笑いをもらしながら、スコールは着替えを手にする。
スコールが身につけている間も、クラウドは耳を赤くしてスコールを見ようともしない。
「…もう着たから」
それを伝えるとクラウドは首だけで振り返り、ますます赤くなって目を見開いた。
「っ嘘つき!」
下は身につけたものの、上はまだ裸のスコールに、クラウドは近くにあったスリッパを投げつけた。



リビングに行くと、食事が用意されていた。
これを食べたら、山を下りる。
こんな年末年始も悪くないなとクラウドとスコールは笑って、荷造りをした。
「どうなるかと思ったけど、案外悪くなかったな」
「……そうだな」
「いい食事ばっかりだったから、運動になるな」
「……そうだな」
「元旦から下りるとか、ちょっと縁起悪いきもするな」
「……そうだな」
「……」
「……そうだな」
クラウドはそうだなとしか言わないスコールを見た。
「…大丈夫だ、俺がいるだろ」
「……そうだな」
荷物を担ぎ、いざ行かん!とするクラウドに反してスコールはうなだれていた。
「山なんて、こんなもんだ」
「…視界悪すぎだろ」
見渡す限り雪、雪、雪。
天候は吹雪、吹雪、時々雷、そして吹雪。
「しっかりつかまってろよ」
ゴーグルをかけるクラウドが、スコールに手を伸ばした。あぁ、やはりクラウドはかっこいい。
「……お願いします」
スコールの言葉に微笑みながら頷くクラウド。
帰る前にもう一度温泉にはいればよかった。

何時間歩いただろうか。
クラウドはとても器用に目印を置きながら、また置いてきた目印を辿りながら、スコールを麓まで連れ帰った。
麓には、高級車に乗った仏頂面のセフィロスと、普通車に乗ったザックスがいた。
スコールは一発触発する元気もなく、セフィロスにもまた車から降りてくる気配もい。
「俺旦那の車に乗って帰るからさ、お前らはこっちで帰れよ。車は後で取りに行くからさ」
雪山から下山した二人をとても爽やかに迎え入れたザックスから車のキーを手渡されたクラウドは、
「遠慮なく借りる」
と車に乗り込んだ。
クラウドの耳元にザックスが口を寄せた。
「本当はさ、クラウドを乗せたいんだろうけど、そっちの…スコールだっけ、そいつは乗せたくないからって俺が呼ばれてさ」
「置いていくぞ」
聞こえないほど小声で言っているにも関わらず、鋭い視線がセフィロスから放たれた。
「あ、じゃ行くわ」
そんなことには慣れっこなのか、ザックスはセフィロスを気にすることもなく、セフィロスの車に乗り込むと、高級車はあっというまに走り去った。
「……よくわからんが、たまには役立つんだな」
スコールがセフィロスをそう称した。
「俺たちも帰ろう」
「…あんた車の運転できたのか?」
スコールが意外そうに言うから、クラウドは苦笑いした。
「一通りは、乗れるかな」
恋人といえどまだまだ知らないことがある。
アクセスを踏み込むクラウドはいつもよりさらにかっこよく見えた。





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