大統領殺人事件3

例えば、と考えたらきりがない。バッツはああ見えて義理堅い。幼なじみのスコールよりも窮地に立たされているクラウドを選ぶ確率は高い。もしバッツがクラウドを隠していて、それをスコールに黙っていても責められようか。全てが終わってからクラウドのためだったのだと言えば咎めることはできない。セシルだって嘘をついていないとは限らない。ティーダに至ってはジェクトの力を借りることもできるだろう。誰かがクラウドを隠しているかもしれない。そう考えると誰も信用できなくなる。
スコールはため息をついた。何を信じたらいいか、その判断は自分にしかできない。
「クラウド…」
当てもなく構内を歩く。植え込みの陰や倉庫の裏まで。こんなところに隠れるほどクラウドは間抜けではないし、この程度で見つかるなら苦労はしない。
そうして何の手がかりがないまま二日が過ぎた。最低限の睡眠は取っているはずだが眠りが浅く疲労は蓄積する一方だ。スコールはベッドに横になり天井を仰ぎ見た。
一体どこにいるのか。寒い思いはしていないか、逃亡生活は常に神経を張り巡らせて休まる時はないだろう。そう、クラウドの疲労はスコールの比ではないはずだ。こんなことになるならあの時手を離すべきではなかった。どうなろうとも一緒に逃げるべきだったのだ。
目を閉じて最後に見たクラウドの姿を思い出す。酷く怯えた目をしていた。ラグナとの間に何があったのだろう。そこに思い至る前にスコールの意識は途切れた。



人の気配がする。ドアの辺りからこちらをじっと窺っている。暫くすると音を立てないようにゆっくりと近付いてきた。誰だろうとぼんやりする頭で考える。このマンションの鍵を持っているのは自分の他にはクラウドとキロスだ。一応賃貸契約を結んでいるのだからキロスが勝手に入ってくることはない。となると残るは…
「クラウドっ」
ベッドの側まで来た人物の腕を掴んで飛び起きる。掴まれた彼ははっと身を引いたがスコールは離さなかった。
そのままベッドの中に引きずり込み組み敷いた。暗闇の中に淡い金髪がぼんやりと浮かび上がった。
「クラウド…っ」
力の限り抱きしめる。もう、絶対に離さない。
「スコール、痛い」
少し困ったように笑うクラウドは追われているような悲壮感はなかった。それどころかこちらの方が切羽詰まっているように思えた。
あやすように撫でる手つきは以前と変わらない。ラグナを殺してもなおスコールを恋人として見てくれているようで安堵する。
「もう…俺を置いて行かないでくれ」
「…ゴメン」
クラウドはそれ以上は答えなかった。もう離れるのは嫌だ。誰を裏切ることになろうとも、それが父親であってもクラウドの最後の砦でいたい。なのにクラウドはそれも許してはくれないのか。
「あんたがいないのは耐えられないんだ。世間にどう言われてもいい。あんたさえいれば…」
「スコール…それはだめた。けじめはちゃんとつけないと。もう少しだけ待ってくれ。必ず帰ってくるから」
「クラウドっ」
またどこかへ行こうとしているクラウドを繋ぎ止めるにはどうしたらいいか。力ずくで閉じ込めるしかないのか。
逃げられないように手首を押さえつけたまま口付ける。クラウドはそれを抵抗もせずに受け入れた。
「ん…んんっ…」
ふわりと甘い香りが漂う。その香りに頭の奥がくらくらした。睦言も囁かず必死の形相で服を脱がせる様は初めての時より情けなく滑稽だったことだろう。
「ケガ、してるのか?」
腕に巻かれた包帯が手に触れる。ワインの瓶で切ったのだろうか。消毒はちゃんとしているのか。
こんなことをしている場合ではない。適切な処置をしなければと思いながらも薬を取りに行っている間にいなくなってしまうかもしれないと思うと、クラウドを抱く行為を止められなかった。
「何でもない、大丈夫だから」
だがクラウドはふわりと微笑んでスコールの頭を抱えた。全身を這う手に気持ち良さそうに身を捩る。もっと、と 囁かれて体が熱くなった。




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