クリスマスイブ4

何とかケーキを全部売り切り店を後にした二人はバッツの家に向かった。バッツは朝より熱が下がり意識もはっきりしていたが、それでもまだ自分で身の回りのことをするのは辛そうだった。
固く絞ったタオルをバッツの額に乗せながら幾分生気が戻った表情にクラウドはほっとした。薬を飲んで休めば明日には熱も下がり起き上がれるようになるだろう。
「本当に悪いな」
「いや、あんたは自分の体のことだけ心配していればいい」
頼まれた事は完璧に遂行したはずだ。ケーキ屋の店主は大喜びでバイト代を弾んでくれた。バッツの評判を落とすような真似はしていないと思う。
「飯ができたぞ。移動が辛いならここに持ってくるが」
キッチンで粥を作っていたスコールが顔を出す。ここで食べたいと言うバッツの体を支え起こしてやる。盆に乗せた土鍋の蓋を開けると湯気と共に食欲を誘う香りが広がった。
「美味そう」
「美味いぞ」
スコールが自信たっぷりに言う。クラウドは粥を茶碗によそうとバッツに渡した。普段の食事はスコールが作っているのだから料理の腕は心配していない。それでもクラウドはバッツが粥を口に運ぶのを固唾を飲んで見守っていた。
ふうふうと冷ましてぱくりと蓮華にかぶりつく。もぐもぐと咀嚼してごくんと飲み込むとバッツはにっこり笑った。
「美味い」
「当たり前だ」
「そうだな、クラウド作じゃないもんな」
「う…」
料理ができないのをバッツに揶揄されても返す言葉もない。昔から料理は壊滅的だし粥なんて作ったこともない。クラウドがキッチンで悪戦苦闘しているといつの間にかスコールが食事を作ってしまっている。しかも時間をかけた自分のよりも美味そうなものを。人には向き不向きがあるのだとクラウドはいつしかキッチンに立つのを止めた。食材を無駄にもしたくないというのもある。
だが今回のバッツのようにスコールが寝込むようなことになったら何ができるだろう。レトルトを温めることくらいしかできない。
「本当に美味いなー。お前が倒れたら俺が飯作りに行ってやるからな」
「頼む」
「……」
突然二人が遠くに行ってしまったような寂しさが込み上げる。当てにされていないのは理解しているが、ではクラウドが倒れたらどうなるのだろう。
「どうした」
ぼんやりと二人を見つめたまま動かなくなったクラウドの肩をスコールが叩く。クラウドははっとして顔を上げると力なく首を振った。
「何か、幼なじみって羨ましいな。俺なんか入り込めない絆っていうのかな、ちょっと妬ける」
「はぁ?何言ってるんだ、コイツとは腐れ縁だ」
「腐れ縁はひでーな。でもお前らの方がラブラブでこっちの方が妬けるっつーか当てられっぱなしだぜ」
そんな風に全力で否定しなくても分かっている。二人は深いところで信頼しあっている。
「幼なじみだとか絆とか言うが、風邪引いたってバッツが真っ先にメールしたのはクラウドにだろう」
「それはバイトの交代要員だから」
「それだけ信頼されてるってことだ」
自分の信用にも関わる仕事を任せるのに誰でもいいという訳ではないと言われてクラウドはバッツを見た。笑顔で頷くのを見て鼻の奥がつんとしてきた。こんな俺でも頼ってもらえるんだ。
「じゃあ俺が寝込んだら助けてくれるか?」
「もちろん」
「俺が看病するから必要ない」
強くスコールに抱き込まれバランスを崩しながら胸に倒れ込む。きょとんとして見上げるとスコールがバッツを睨んでいた。
「あー…ごちそうさま」
バッツは茶碗をトレイに置いて手で扇いだ。熱い熱いと言いながら笑う。
「愛されてんな」
「……ありがとう」
今さらだが恥ずかしくなる。確かに二人を引き合わせたのはバッツだが、こんなにも堂々と主張してスコールは恥ずかしいと思ったり照れたりしないのだろうか。
寂しい独り身の前でいちゃつくなと家を追い出された二人はマンションに向かった。先ほどから肩を抱かれたまま、いつもなら往来でこんなことはしないのだがクラウドは頭をスコールの肩に乗せた。口には出さないが凄く幸せだ。
「スコール」
「何だ」
今のこの状況が幸せすぎて口元が緩む。好きな人の名前を呼ぶ幸せ。そして好きな人が応えてくれる幸せ。
「今日のために色々準備したんだ。ケーキとか料理とか」
「あんたお手製か?」
それはそれで嬉しいが覚悟がいると言うスコールも笑っている。彼もきっと幸せだと感じてくれているに違いない。
「まさか。でも…今夜はちょっと凄いぞ」
「それはベッドの中で聞きたいセリフだな」
「…ああ…あんたが望むなら」
もう待てない。今すぐキスがしたい。スコールを愛しいと思う気持ちが体から溢れてしまいそうだ。
クラウドは立ち止まるとスコールの腕を引いた。年下だがほんの少しだけ背が高い恋人もそう思っていたようだ。腰を絡め取られ体が密着する。僅かに顔を上げて目を閉じる。唇を薄く開けて待っていると少し冷たい唇が重ねられた。
ここは往来だ。いつ誰が通るか分からない。でも止められない。差し込まれる舌を口内に招き入れながらクラウドは恋人を抱きしめる腕に力を込めた。




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