クリスマスイブ3

日が暮れると急に気温が下がり始めた。指がかじかんでだんだん感覚がなくなっていく。すっかりと暗くなった空はイルミネーションに邪魔をされて星が見えなかった。
残るケーキはあと二個。それが売れればバイトも終わりだ。決して手際が良いとは言えなかったが、結果としてケーキを売り切ってしまえば最低限の義理は果たしただろう。だが、道行く人も疎らでその残り二個がなかなか売れる気配がなかった。
スコールはむっつりと前を見ている。寒いし流石に疲れたのだろうと見ていると急にこちらを向いた。
「クラウド、帰ろう」
「え?でもまだ…」
エプロンを脱いで帰る準備を始めたスコールに戸惑う。急にどうしたんだろう。真面目で責任感の強いスコールらしからぬ行動に驚いていると、ほら、と急かされた。
「残りは俺が買い取る。それで終わりだろう?」
「買い取るってあんた」
「一つはあんたが食うだろう?もう一つはバッツの見舞いだ」
高熱にうなされている病人への見舞いにケーキはないだろうと思ったが、この遠慮のない関係が幼馴染というものなのかもしれない。
「…何かいいな」
スコールからはバッツに散々苦しめられた話を、バッツからはスコールとの楽しかった幼少時代の話を聞いている。そういう腐れ縁と言える人はクラウドにはいない。だから少し羨ましいと思った。
「喜んでくれるといいな」
「……ああ」
スコールがばつが悪そうに顔を背ける。それが微笑ましくてクラウドは笑った。
「本当に仲良いよな」
「それはこっちのセリフだ」
病気になったからと一番先に泣きつく相手がクラウドだなんて、とスコールが言う。
やっぱり幼馴染として頼られたかったのだろうか。それにクラウドよりもスコールの方が病人の看病には向いていそうだ。
「あんたは病人には甘そうだからな。どうせずっと側にいてやるなんて言ったんだろ」
「え、うん」
「今日のこの日にそんなことをされたらさすがに穏やかではいられないな」
「…ごめん」
スコールが雑誌でクリスマスの特集記事を読んだりネットで探し物をしていたのは知っている。だがクラウドには一人寂しく熱に苦しんでいるバッツを放っておくこともできない。一体どうしたらいいのか。
「あんたが謝ることじゃない。元はと言えばこんな日に熱を出すあいつが悪い」
そう言われてもクラウドにはどうしようもできない。スコールはふ、と笑うとクラウドの頭に手を乗せた。
「そんな顔をするな。恋人と二人で病人の看病も悪くない」
「スコール…」
「言ったろ?あんたといられれば場所なんて関係ない」
「ん…ありがとう」
スコールの言う通り残ったケーキを買い取ろうかと考えていると通りかかった男が足を止める。サラリーマン風のその男はリボンをかけたワインを持っていた。これから誰かとパーティーなのだろう。
「いらっしゃいませ」
クラウドは精一杯の笑顔を向けた。




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