イチゴスイーツフェア

摘み取った苺を丁寧にかごに入れてスコールはため息をついた。だが隣のクラウドは嬉しそうだ。クラウドが嬉しいなら、と自分を無理矢理納得させてまた苺を摘み取る。かごの中はもう苺でいっぱいだ。そろそろいいだろうと立ち上がろうとするとクラウドに腕を掴まれた。
「これくらいあればいいだろう」
「ああ。だが…」
名残惜しそうに苺畑を見るクラウドを無理矢理立たせる。誰かに見つかったらまずい。
「早く行くぞ」
「うん…」

事の始まりは調理室だった。クラウドの唇に我慢できなくなったスコールが近くの教室に引き擦り込んだところ、女子の悲鳴が聞こえてきた。慌てたクラウドが力いっぱいスコールを突き飛ばし、声のした方を見るとティナが泣きそうな顔で立っていた。手にはボウルと泡立て器、そしてふわりと漂う甘い香りにここが調理室だと初めて知った。
「み、見ちゃった…よね?」
見ちゃったも何も丸見えだ。皆に内緒でお菓子を作って驚かせようと思ったのにと落ち込むティナを見てしまったと思っても後の祭り。見なかったことにすると言っても感動は薄れてしまう。そこで困ったクラウドがつい余計なことを口にしてしまった。
「手伝う」
「おいっ」
邪魔をする気か、自分の料理の腕を考えて物を言え。スコールはそう言おうとしてティナの顔を見てやめた。クラウドの無謀な申し出に嬉しそうにしているのにまた顔を曇らせるようなことは言いたくない。
「何を作ってるんだ?」
「タルトよ」
スコールは考えた。ティナの邪魔をせずにクラウドに手伝わせる方法を。そして思いついたのがこれだった。

なあ、とクラウドが見上げる。そわそわと何か言いたいことがあるようだ。
「何だ」
「少し食べてもいいか?」
「……ああ」
そんなことか。そういえばこいつは甘いものが大好きだった。それは苺も例外ではなく。
ティナのタルトに苺を飾ることを提案したのはスコールだ。その苺を調達してこようと言ったのも。とはいえ店頭に苺が出回るには時期が早い。そこで思い出したのがフリオニールの苺畑だ。たくさんなっているのだから少しくらい失敬してもばれないだろう。そう考えてビニールハウスに忍び込んだのだが。
早く出なければと心は急くが苺を頬張るクラウドの蕩けそうな顔を見てしまったら早くしろとも言えない。これが惚れた弱みか。
「仕方ない」
スコールは腹を括ると苺を一粒取った。
「ほら」
クラウドの口元に持っていくと嬉しそうに食いついた。唇が開かれ苺を食む。ついでにスコールの指に舌が絡みついた。美味しそうに指を味わうクラウドの口内にもう一本指を入れて柔らかい舌を掴んだ。
「ん…」
クラウドが目を閉じて震える。唾液が手を伝う。指を抜き去るとスコールはその指を舐めた。ほのかに苺の味がする。
「クラウド…」
もう一粒、苺を取りクラウドの口に入れると今度はそこに自分の唇を重ねる。潰れた苺の果汁がやけに甘く感じるのはクラウドのせいだと思った。
「スコー…」
唇を離すとクラウドがこちらを見ていた。眉を寄せて、我慢している目だった。もっと、と言われている様で肩を抱く。体を摺り寄せてきたクラウドの耳に口付けようとした瞬間。
ギイ、と鈍い音を立ててビニールハウスのドアが開いた。
「っ!」
二人はびくりと肩を震わせて硬直した。苺の件もこれからしようとしていたことも見つかったら大事だ。
すぐ向こうを歩く気配に息を潜める。どうか見つかりませんように。そう祈りながらクラウドはぎゅっと手を握った。
幸いにして足音は近くまで来たがすぐに遠ざかり、再びドアの開く音がして人の気配はなくなった。
「…はぁ」
知らず体が強張り息を止めていたらしい。息を吐いたら力が抜けた。
「…戻るか」
「そうだな」
こんな所で盛ってもまた誰が来るか分からない。二人はかごを持つと立ち上がった。
それを調理室に持っていくとティナの顔がぱあっと明るくなった。
「美味しそう。こんなにたくさん、ありがとう」
「いや」
「あれ?二人からも苺の匂いがするね」
それは深い意味を持っていなかったが先ほどの行為を見透かされているようで二人は顔を背けた。
この一件以来、スコールはクラウドが惑わすからといって場所を考えず欲望のままに動くのは止めようと思った。





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