温泉へ行こう1

二人肩を並べて浸かる温泉。
ゴツゴツとした岩で造られた露天風呂。
今こうして、二人でいることに生まれてきて良かったとスコールは思った。
「あ、雪」
クラウドが空を見上げた。
ちらつく雪は温泉の湯気と混ざり合って姿を消した。
「…気持ちいいな」
「あぁ」
よこしまなことを考えないようにしているのに、スコールの目線はクラウドのうなじへ。
滴る水。
首に張り付く髪。
上気した肌。
そしてはっきりと見えない身体。
(悩ましい…)
いつも見ているクラウドだというのに、場所が変わるだけで新鮮な気持ちになる。
そして何より二人きりだというのがいい。
ここには、仕事を投げ出してかまってくれと言ってくる父も、面白い半分にちょっかいをかけてくる仲間たちもいない。
仲間うちでわいわいするのも楽しいが、よくよく考えれば二人での旅行というものすら初めてのような気がする。
大学生になったら、親の目の届かないところで愛する人とランデブーしたいっスとか言っていたのは、ティーダだっただろうか。
その時は同意するどころか心底どうでもいいと思っていたから、返事をした記憶すらない。けれど今思えば、激しく同意できる。
二人きりの旅行、最高だ。
「酒、飲むか?」
「……あんた未成年だろ」
「俺は飲まない。注いでやるから、飲んだらどうだ?」
湯舟にお盆を浮かせて、ちらつく雪を見ながらまるで漫画のように酒を飲む。
「…悪くないな」
クラウドは笑った。
咎める者は誰もいない。




大学祭が終わってから数日が経ったある日。
スコールはクラウドに呼び出された。
それはいつもの準備室ではなく、クジャの研究室。
軽くノックをして、中からの応答を確認後、スコールは部屋へと入った。
すぐそこのソファでお茶をしているクラウドとクジャを見つけ、スコールはクラウドの隣へ。
「迷わずクラウドの隣に座るところが君だよね」
「……」
スコールにはクジャの隣に座る理由が見当たらなかった。どう答えるべきかと悩んでいると、
「うん、僕が悪かったよ」
とクジャはティーカップを差し出しながら言った。
気に留める必要性が見当たらなかったスコールは、それらをすべてさらりと流し、ティーカップに口づける。
「君たちを呼んだのは他でもない」
「うん?」
クラウドがティーカップを置いた。
「僕の別荘へはいつ行く?」
「…?」
「…何の話だ?」
クラウドとスコールは顔を見合わせ、意味がわからないと眉をしかめた。
「君達ねぇ…正気かい?身体でもぎ取った景品を忘れるとかどれだけ神経図太いんだい?」
呆れながらクジャが差し出したのは、ステージの上でキスを送るミニスカチャイナ美女とそれを受け取るスリットチャイナ美女の写真。
「ぶはッ!」
「く、クジャ!」
盛大にお茶を噴き出すスコールと、写真を握り潰したクラウド。
「まだいくらでも印刷できるからいいよ」
ニヤニヤと笑うクジャに、二人はうなだれた。
もう二度と見ることはないと思っていたモノだっただけに、二人の顔は真っ赤になっていた。
「…思い出したかい?」
思い出したくなかった。
けれど思い出した。
なぜ、それに出ることになったのか。
「温泉、本当に行かせてくれるんだな?」
スコールは気持ちをリセットする。それにつられてクラウドも冥界から帰還した。
「俺、温泉って行ったことない。楽しいのか?」
「行ったことないのか?」
「…記憶にない。どんな感じなんだ?」
「………気持ちがいい、感じだな」
「へぇ…」
クラウドの発言に、心揺さぶられたのはスコールだけではなかった。
「君ね!その年で温泉未経験とか貴重すぎる!行っといで!僕の別荘、源泉かけ流しで露天風呂付きだよ」
「げんせんかけながし…?」
「年末年始はジタンとそこで過ごすのが恒例だったんだけどね、今年は海外の舞台とニューイヤーパーティーに誘われているから、別荘には行けないんだよ」
そういえば脚本か何かしていたんだったなと、スコールはお茶を飲む。
「そうだよ、君達年末年始に行きなよ。それがいいね、そうしよう!大学もクリスマス過ぎまで講義だかテストだとかあるだろ?30日辺りからがいいんじゃないかな?よし、決定!」
決定、された。
二人はただ目をぱちくりさせていた。
「別荘行きの手配はしておくよ。30日朝迎えを寄越すから、ちゃんと準備するんだよ」
「あの、クジャ?」
「お金の心配はいらないよ。それも全部景品に含まれてる。君達が用意するものは着替えぐらいだよ」
「飯はどうすれば?」
「別荘にはシェフを呼ぶよ。それも景品のうちさ。すべては僕にまかせておけばいいよ!詳しいことが決まり次第また連絡するから安心しなよ」
不安半分、期待半分。
それでも任せて大丈夫だろうと思うのは、相手がクジャだからだろうか。
二人は頼むと伝えて研究室を出た。
「楽しみ、だな」
「…そうだな」

クジャからの連絡メールがきたのは二日後。
すべての手配が出来たという旨と、別荘は高冷地にあるため暖かい格好をして来ることという注意書きが書かれていた。

30日の朝、確かに迎えが来た。
「……」
「……」
無言になるのも仕方ない。
「あの野郎俺をパシリに使いやがって」
待ち合わせの大学校門前に姿を見せたのは、車に乗ったジェクトだった。
「なんかよくわからんが、お前らをクジャの別荘に連れてきゃいいんだろ?」
「…たぶんな」
「…俺たちもよくわからないんだ」
「お前ら行く気あんのか?」
子供じゃないんだ、行ったらどうにかなる、スコールはそう思っていた。







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