クリスマスイブ2

意外と様になっている売り子姿に、スコールに死角なんてないんじゃないかと思う。バイトは初めてだと言っていた。クラウドも接客のバイトは初めてだ。なのにこの差は一体何だろう。
客に話し掛けられるとしどろもどろになってしまうクラウドとは対照にスコールは堂々としたものだった。笑顔はないにしろ態度が悪い訳ではない。
「あ、ケーキだ」
「いらっしゃいませ」
山積みになっているケーキの箱を見つけてカップルが寄ってくる。早く売り切れればその分早く解放される。クラウドは慣れない笑顔をカップルに向けた。
「どれがいいかなー?」
女が首を傾げながらケーキの箱を見比べる。男の方はそんなに感心がないらしく黙って見守っている。どれがいい?と水を向けられて困った男はクラウドに助けを求めた。
「なあ、おすすめは?」
「え…あの、えっと…」
甘い方がいいのか、一度で食べきれるサイズがいいのか全く分からない。何も情報がない状態でどう薦めたらいいのだろう。答えられず困っているとスコールが後ろから助けを出した。
「このチーズケーキは濃厚で赤ワインに合う。4号と小さめだから二人で食うにはちょうどいいだろう」
「じゃあ、それにする」
それからは手早く会計をしておまけのコーヒー豆を渡しカップルを見送るスコールを呆然と見ていた。視線に気付いたスコールが振り返る。接客が苦手なら品出しを頼むと言われてクラウドは落ち込んだ。
バッツの代わりにバイトを引き受けたのはクラウドだ。だが今日はクリスマスイブ。恋人と過ごす日だと言われてはスコールに黙ってバイトをするわけにはいかない。事情を話し夜には帰ってくると言うと一緒にバイトをすると意外な言葉が返ってきた。最近は忙しくて同じ部屋に住んでいながらあまり会えなかった。忙しい理由も言えず心苦しく思っていたところにこの返事。スコールの考えていることが分からない。金が欲しい訳ではないだろうし、やはり一人で接客のバイトをさせるのは不安だと思われているのだろうか。
こんな日にこんなことになって申し訳ないことをした。そう思うとクラウドはスコールの顔も見れなくなった。
「疲れたか?」
手が止まったのを勘違いしたのだろう。スコールが顔を覗き込む。クラウドは首を振ると立ち上がった。
「いや、大丈夫だ。あんたこそ疲れただろう。…なあ」
「どうした?」
こんな時でもスコールの目は優しい。クラウドは少し泣きたくなった。
「…ゴメン」
耐えきれなくなり目を伏せる。本来なら部屋で二人で過ごすはずだった。だが熱に苦しむバッツの頼みを断る訳にもいかない。我慢ばかりさせているのに何も言わないスコールに甘えて、自分が卑怯に思えてきた。
「今日は二人で過ごそうって約束してたのに」
「二人で過ごしてるだろ」
「え…」
思わず顔を上げるとスコールが笑っていた。それは本当に嬉しそうで。
「今日は朝からずっとあんたの側にいられる」
ケーキの箱が場所を取っているから動ける範囲は少ない。周りをよく見てみると、確かに今朝からすぐ側にスコールがいた。
「あ…うん」
そう考えると悪くない。自分にはなかった考え方に感心する。
「ありがとう」
つられて笑みを返す。心だけでなく疲れた体も少し軽くなったような気がした。
もうすぐ夕刻、ケーキの箱も大分少なくなってきた。これを売り切れば解放される。早く終わらせて手を繋ぎたい。二人きりになりたいと思いながらクラウドは箱を並べた。




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