クリスマスイブ

ひんやりとした廊下を歩く。外よりは気温は高いがそれでもまだ寒い。準備室のドアを開けるとほわりと温かい空気が流れてきた。クラウドは部屋に入ると温かい空気が逃げないようにすぐにドアを閉めた。コーヒーを注ぎ、熱くなったカップで冷えた指を温める。一口飲むとやっと体が温まった気がした。ふと窓の外を見ると歩く人達もマフラーやコートを着込んでいた。
すっかり冬になったなあとコーヒーを啜りながら考える。故郷の厚い雪に閉ざされた冬に比べればここはまだましだ。雪もそんなに降らないし、様々なイベントを楽しむ余裕もある。耳に残るほど繰り返されるクリスマスソングに心が踊るのはスコールのお陰だろう。
「何だぁ?背中丸めて年寄りみたいだな」
「あんたはいつも元気だな」
ノックもなくドアを開けてバッツが入ってくる。季節を感じさせない薄着に寒くないかと聞けばまだ若いから、と返ってきた。
「一つしか違わないのに」
「気の持ちようだな」
そう言われればそうかもしれない。何をするにもうだうだと考えて腰の重いクラウドと何でも首を突っ込むバッツ。どちらがフットワークが軽いかと言えば確実にバッツの方だ。
「風邪引くなよ」
「大丈夫大丈夫」
バッツが胸を叩く。風邪でも引いたらスケジュールが狂うから自己管理はばっちりだと笑う姿は頼もしかった。



「…ように見えたんだけどな」
クラウドは濡れたタオルを絞るとバッツの額に乗せた。いつも元気に笑っているから病気とは無縁だと思っていた。実際本人も意外だったらしく滅多に引かない風邪に大袈裟に苦しんでいる。いっそ楽にしてくれと啜り泣く姿は痛々しい。
「薬とポカリ、ここに置くからな。飯は…後で適当に見繕って買ってくるから」
「わりぃ…」
バッツがよりによってこんな日にと嘆く。だが病気になるのに日は選べない。こんなクリスマスイブも仕方がないとクラウドは慰めた。
バッツの家はいつ来ても家族が不在だ。一人で耐える辛さはよく知っている。何もできなくても誰かが側にいるだけで安心するということも。
「今夜はここに泊まろうか」
「お前、スコールはどうすんだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
クリスマスイブは恋人と過ごすものだと去年スコールに教わった。だがこんな状態のバッツを一人にしてクリスマスを楽しむなんてできない。
「それより頼みがあるんだけど…」
「ん?俺にできることなら」
役に立てるならとクラウドは頷いた。とにかくバッツのために何かしてやりたい、それ以外何も考えていなかった。




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