焼き芋に纏わるエトセトラ6

「今日は美容のためにローズヒップティーだよ」
コトンと小さな音を立てて、ティーカップが置かれた。
濃いピンクの液体から、甘酸っぱい香りが漂う。
「あと、ローズヒップは目にもいいから」
眼精疲労にはもってこいなドリンクだよ、とクジャは言う。
「ありがとう…」
クラウドはそう言うと目の前に置かれたティーカップを手に取り、一口含んだ。
香りから想像していたよりも少し酸味がきついそれに少しだけ眉を寄せた。
おまけに自分はお茶をしに来たわけではない。口止めをしにきたのだ。
「あの…」
「あぁ、お茶菓子かい?あるよ、今日はバームクーヘンにしようと思ったんだよ」
お皿に直径10cmほどのバームクーヘンが置かれた。
「あ、ありがとう…。あのクジャ」
「なんだい?」
やっと一段落着いたのか、クジャはクラウドが座るソファのテーブルを挟んだ向かい側に座った。
「学祭でのことなんだが…」
ピリリリリリッ
クラウドが言い終わる前に部屋に鳴り響く呼び出し音。
「あぁ悪いね。この音はジタンんだ。ちょっと席を外すよ」
携帯を手に持ちクジャは出ていった。
クジャの後ろ姿を見送って、一人きりになったクラウドははぁと短くため息をつき、目の前のバームクーヘンにフォークを突き刺した。一口食べて、ほぅと息を吐く。甘すぎなくて美味い。これならスコールも食べてくれそうだなと考えていたら、部屋のドアが開かれた。クジャが戻ってきたものと思い顔をドアに向ければ、そこにいたのはクジャではなかった。
「あれ?クラウド?」
「ジタン?」
ジタンはクラウドを見るなり走り寄った。
「久しぶり!他の皆には学祭の時に会ったけど、クラウドには会えなかったから今会えて嬉しいぜ」
ニコニコと笑いながら言うジタンに、クラウドはその素直さを見習いたいと思った。また、多くを語らないジタンを見習いたいとも思った。
「今日はどうしたんだ?」
「あー今度やる舞台の脚本をクジャが担当してるんだけど、ちょっと直したいところがあってさ。今から行くからって電話したのにあいついねぇじゃん!」
クジャは確かにジタンからの電話だと告げて部屋から出ていった。
「ジタンを迎えに行ったんじゃないか?」
「…ありえる。んだよすれ違いかよー」
ジタンが頭を掻いた。
「まぁーしゃーない。ここで待つことにするよ。邪魔じゃない?」
「あぁ。むしろ俺が邪魔だろ?もう行くから」
立ち上がろうとするクラウドの手をジタン引いた。
「全然邪魔じゃない。ここにいてくれ」
一人だとどうしたらいいか…少し俯いたジタンが、年相応に見えて思わず頭を撫でた。
「…クラウド…」
見上げてくるジタンにクラウドは慌てて手をどけた。
「すまない、つい…」
「もっとやってくれていいのに。頭撫でられるとかもうそんなにないしさー」
「…そう言われてみればそうだな」
頭を撫でられることなんて、大人になればなるほどなくなっていく。クラウドは右手を見つめた。
「なんてな。ごめん、困らせたかったわけじゃないんだ」
「あ、いや、…大丈夫だ」
何が大丈夫なのか。クラウドは自分で自分が言った言葉の意味がわからなかったが、ジタンには伝わったようだった。
「あ!そういやクラウドとスコールって仲いいんだよな?」
「あ、あぁ…」
仲がいいどころが恋人で同棲までしているがそれをジタンは知らない。
「頼みたいことがあるんだけど、伝えてくれないか?」
「なんだ?」
ジタンは持っていた鞄から一冊の雑誌を取り出した。
「この本のモデルを頼みたいんだ」
「モデル?」
クラウドは差し出された雑誌を受け取りパラパラとめくった。メンズモデルが様々な衣装を身に纏いポーズを決めている。
「今度この雑誌の別冊号を出すんだけど、テーマに合うモデルがなかなかいなくてさ。でスコールならどうかなぁって!あいつスタイルいいしさ、どうかな?」
「モデル…」
個人的な感想を言えば、モデルをしているスコールを見てみたい。女装は見たけどそうじゃない普通にカッコイイスコールを見たい。そんな思いから頼んでみようかとクラウドは思ったが、ジタンの一言によってそれを思い断った。
「クリスマス前の撮影だから給料は弾むって言ってたし」
いつも与えられてばかりの自分は何を返せているんだろうとクラウドはいつも思う。今は住む場所まで与えてもらっている。自分の力で彼に何か与えられるだろうか。その答えを考えるより先にクラウドの口が動いた。
「モデル、俺じゃダメか?」
「へ?」
思ってもいなかったクラウドの言葉にジタンは目を軽く見開いた。
「ちょっと…稼ぎたいんだ」
「まじで?」
理由は嘘ではない。
「スコールより背は低いし顔も良くないけど、俺にできれば、やらせてほしい」
真剣なクラウドの眼差しにジタンは息を飲む。その表情が凛としていてあまりにも美しかった。
「ダメか?」
そんなの決まってる。
「おっけー!いいに決まってる!むしろこっちからお願いしたいぐらいだぜ!」
ジタンは飛び跳ねた。
クラウドのことも視野に入れていたが、断られるだろうと見込んでいたから、あえて聞かなかった。
「でも本当にいいのか?」
「あぁ。やらせてくれ」
クラウドは頷いた。
それを見たジタンも頷き、撮影の日時や段取りを説明した。
「この日から撮影な」
「わかった」
「皆に会って報告しようぜ」
ウキウキと喜ぶジタンを、大きな騒ぎにしたくないからとクラウドは止めた。
「でも、皆とちょっとしたパーティーをするんだが、…その日ジタンも来れるか?」
「行く行く!仕事でも行くって!パーティーって何するんだ?」
先程のようにウキウキするジタン。
クラウドは人差し指を唇に当てて、
「秘密」
そう囁いた。
その仕種にジタンの顔が朱くなる。それにクラウドは気づかなかった。
「予定は追って連絡する。防寒だけはしっかりとしてから来てくれ」
風邪引いたら大変だから。
クラウドは微笑みながら言った。
ジタンはただただ頷くだけだった。
その後すぐクジャが部屋に戻り、舞台の話を仕出す兄弟を見て、クラウドは少し羨ましくなった。






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