焼き芋に纏わるエトセトラ4

いつもお茶するカフェテラスは、ビターな珈琲と甘い洋菓子の香りが混ざり合って心地いい空気がほんのりと漂っていた。
そこでセシルは困っていた。
どうすれば目の前の青年の機嫌は良くなるのだろう。
頬杖をついてぶすっとしている青年クラウドは、空いている手でちょんちょんとケーキをつついていた。
どんなに仏頂面でケーキをつついていようとも、それがクラウドの為すことならばすべてか可愛く見える。
「…皆ばれないって言ったのに」
そう零したのは、クラウド。
「ばれてなかったよ?ただ僕はなんとなくわかっちゃっただけで」
慌てて弁明するも、そんなことでは機嫌は良くならない。
「なんでわかるんだ」
「そりゃ…クラウドだけどこにもいなかったし。それにスコールがコンテストに出ること自体がまずおかしいよね。彼はそんなことをすすんでやる人間ではないし、ましてや誰かに頼まれてしょうがなくやる人間でもない」
セシルはここで珈琲を一口含んだ。いい香りが体中を駆け巡る。
「実行委員にはフリオニールがいたし、手伝いにバッツがいた。それから察するにその二人がクラウドを使ってスコールに参加を促したってところかな。二人っていうよりは、一人の考えだろうけど。しかもその一人はスコールに参加させることだけじゃなくてクラウドのあの姿も見てみたかった。その為に彼は人知れず裏工作をしていたはずだよ」
かく言うその一人は木の上で真っ青になって救出された。走り周り、クラウドが嫌がるだろうけれど、それでも受け入れてくれるであろう戦略を練りに練ったのだ。
標的になってしまったクラウドは気の毒だけれど、本音を言えばあの姿のクラウドを見ることができてラッキーな気持ちの方がセシルは上回っていた。
「……」
「その顔は当たらずとも遠からず、でしょ?」
「ほとんど…というか当たってる」
なんでわかるんだ?クラウドはぶすっとした顔から不思議そうな顔に変わっていた。
以前はこんなに表情が豊かじゃなかったのに、とセシルは嬉しくなる。
「安心して?あの姫がクラウドだってわかったのは、きっと僕とウォーリアだけだよ」
微笑むセシルにクラウドは二人にばれるのも嫌だったと言った。
「…でもウォーリアが姫と付き合いって言ってるってバッツから聞いたんだが」
どうしたらいい?クラウドまじですまねぇ!とクラウドに頭を下げたバッツ。
「あぁ、あれね…たぶん、ウォーリアも遊びたくなったんじゃないかな?彼も、真面目に真っ直ぐやってきた人間だろうから」
セシルは珈琲を含む。
つられたクラウドもカフェオレを含んだ。
「ウォーリアが…」
「たぶんだけど、はっちゃける二人を見てはっちゃけたかったんじゃないかな」
柔らかく微笑むセシルは綺麗だとクラウドは思った。
「…でも二人にはばれたくなかった」
それでも、そこだけは譲れないとでも言うかのようにクラウド再びふて腐れた。
「それだけ僕たちはクラウドを見てるってことにしてもらえると嬉しいんだけどな。きっと逆の立場でもクラウドは僕達に気づくと思うんだけど、どう?」
小首を傾げるセシルにクラウドはう、と考え込む。
「自信はないけど、二人ならわかるかも…なんとなく」
「それ、それだよ。僕もウォーリアもきっとそんな感じだったんだ。ただ周りの状況から、あれはクラウドだろうってなった」
クラウドはそうか、と一言漏らすとつついていたケーキをやっと口に含んだ。
「あの中で君を見つけられて僕達はちょっとだけ優越感を味わえたよ」
くすりとセシルが笑う。
「優越感?」
「だって、僕達だけがわかったんだよ?僕達の仲の良さの証みたいでね、皆よりほんのちょっとだけ、…先に知り合えてた分の優越感」
仲間だけれど、大人気ないけれど、でも子供心を捨てたわけじゃない。
秘密を知ることは特別な存在だと認められた気がしたんだ。
もちろんクラウドにはそんなこと言えないけれど。
「…本音を言えば」
「うん?」
「セシルとウォーリアにはばれると思っていた」
クラウドが悪戯が見つかった子供のように舌を出して笑った。
「そう思っていたけど、あまりにも簡単にばれたから…、俺にも意地ってものがあったらしい」
クククと笑うクラウドに、セシルはほっとした。
「ここは奢るから、それでチャラね」
「じゃああと一つ追加していいか?」
ショーケースを指差すクラウドにセシルは勿論と頷いた。
「あ、あとセシルに頼みがある」
「何?」
「ゴルベーザに使用許可を取ってもらいたい」
クラウドが楽しそうに言うから、セシルは勿論笑顔でそれを引き受けた。




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