焼き芋に纏わるエトセトラ1

銀杏並木が続く道をゆっくりと並んで歩く。ほんの少し、冬の匂いを纏った空気が嫌いじゃなかった。
それは今二人の間にある空気にどこか似ている気がした。会話らしい会話もせずに、それでもそれが普通のこととお互いがそう思っている。
「この道を真っ直ぐでいいのか?」
「あぁ」
お使いを頼まれたのは3日前。
くじ引きで買い物係になったウォーリア。
クラウドは一緒に行きたいと立候補した。
「自分の目で選びたい」
そんな理由をつけていたけれど、クラウドの真意はそうじゃない。
シリアスな空気に持ち込めば不利になるのは自分かもしれない。
だからクラウドはこの機会を狙った。
「なぁ」
「どうかしたか?」
歩みを止めたクラウドをウォーリアが振り返る。
「あんた、なんでバッツをからかったんだ?」
この不思議な色合いの瞳に見つめられるのは久しぶりだとウォーリアは思った。
今彼の瞳には自分しか映っていない。
それが嬉しかった。
「それの結果はもう出ている」
ただ、もう一度だけその瞳を独占したかった。
そう、ただそれだけのこと。
すまなかったとウォーリアが謝っても、クラウドの瞳は反らされることがなかった。
「セシルに聞かされなかったらあんたの前でまた女装さそられるところだったんだぞ」
瞳からは怒りは読み取れない。ウォーリアは臆することなく毅然とした態度を見せた。
「それならそれでいい。あんなにも美しい君が見れるのであれば、私は演技の一つぐらいいくらでも仕込む」
ウォーリアはクラウドに一歩近づいた。
「それに嘘はついていない。私は美しいものは好きだ。付き合えるものなら付き合いたい。今でもそう思っている」
ウォーリアの青い瞳にも今はクラウドしか映っていない。もちろんクラウドの瞳にも。
少しして、クラウドはククと小さく笑った。
「ダメ。俺にはもういるから」
そう言って瞬きしたクラウドの瞳にはウォーリア意外も映っているような気がした。
「…あぁ、知っている。だから、自分の望みを叶える為にバッツを利用させてもらった」
そう言ったウォーリアの瞳にはもうクラウドは映っていなかった。
「…確かに上手いな」
「だろう?」
二人は声を出して笑った。
ウォーリアの言った言葉は、以前ジタンがテレビドラマの中で披露していた言葉だった。ジタンが出るドラマは皆が見ている。けれど、
「あんたが言うと全くの別物だな」
「相手がいいから、力も自然と出る」
「……あんたの望みってなんなんだ?」
「叶ったから、もういい」
だからすまなかったとウォーリアは再度謝った。
そんなウォーリアにクラウドはまた小さく笑みをこぼす。
「何を思って、何を遠慮してるのか知らないが、あんたの希望なら俺だって聞いてやれるかもしれない」
「希望を…?」
「人を利用するとかウォーリアらしくない。あんたなら、正々堂々と正面から向かってくると思ってたから。だから俺も利用させてもらうぞ」
「?何を言っている?」
「今日このまま飲みに行こう」
クラウドの言葉にウォーリアは軽く目を見開いた。
「…買い出しはどうするだ?」
「それはスコールに頼んで元凶のバッツに行かせてるから問題ない」
問題ない?クラウドらしからぬ行動にウォーリアは眉を寄せた。
「俺が言えた義理じゃないが、言いたいことは言った方がいいんじゃないか?」
人の為にも、自分の為にも。
クラウドが前を向いた。自然とウォーリアに背中を見せる形となる。
「…クラウド」
「…なんだ?」
「たまには、…私たちと…、いや…私と飲みに行く日を作ってほしい」
あのスコールが同窓会で夜が空いた日以降色々なことがあって、夜はほとんどスコールの実家に居るわけだから出歩けない。
同じ院生とはいえクラウドの忙しさはウォーリアの忙しさとはまた違う。
ウォーリアは歩みを進めてクラウドの横に並んだ。
「許されるなら、初体験も君に捧げたい」
真顔で言うウォーリアにクラウドは目を見開き、そして、小さく頷いた。
「朝まで付き合ってやる」
俺にもそんな気分の時があるから。
「言っとくけど、俺だって初体験だ」
ウォーリアはさも意外だと首を捻った。
「…スコールと済ませているものだと思っていた」
「スコールはあんたの次に誘いづらい相手だったし機会がなくて…」
ほんの少し、頬が赤みを帯びた。
クラウドが誰かにスコールの話をするときは、ほんの少し初々しくも顔を赤く染め、声のトーンが落ちる。
「…それは光栄だ」
ウォーリアは笑った。
クラウドも笑った。





「ちょ、今どこ?は?カラオケ?ちょちょちょ!なんかお前…飲んでるだろ?おい今どこの店に…は?教えない?いや教えろよ!スコールが心配して…は?心配させとけ?いやいやクラウドさんそれはまずいって!あ、ちょ、クラウド!…切りやがった」
バッツはため息を落とすと、スコールへの報告はどうしたものかと頭を抱えた。





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