何故5〜女装コンテスト〜

クラウドははぁぁぁと腹の底から息を吐き出した。
「クラウド…か?」
「スコール?」
顔を上げた先には、目を見開き口を手で覆うスコールがいた。
「アンタ…」
「いい!みなまで言うな!似合ってないのは分かってる!」
ブンブンと首を振るクラウドをスコールは引き寄せた。
「似合いすぎだ」
こんなにも俺を掻き乱してどうしてくれるんだと耳元で囁けばクラウドはすぐさま真っ赤になった。
「スコール…」
クラウドはスコールの背中に腕を回そうとした。
「あのねぇ、そういうことは家に帰ってからしてくれる?」
「うわぁっ」
「ぐぇ」
勢い良くクラウドはスコールを吹き飛ばした。
「ク、クジャ!」
「まだ終わっていないだろ?君は着替え!醜い悲鳴をあげた君は舞台袖に待機!」
壁に背を打ったスコールが背中を撫でながら、まだ学祭の最中だったと思い出す。
「制裁を下したから終わったものと勘違いしていた」
「制裁…?そういえばバッツはどうした?」
「……」
「何だよその黒い笑みは…」
スコールはクククと笑うだけでバッツのことには触れなかった。
クジャなら知っているかとクラウドがクジャを見れば、クジャはあからさまに顔を背けた。しかも何故か顔が笑っている。
「クジャ?」
「か、彼のことは…ブフッ、今はほっといても支障はないよ」
声は震え途中吹き出したクジャ。クラウドは首を傾げた。
「ほら!君は着替えに行くんだよ!」
ほらほらとぐいぐいとクラウドの背中を押し、クラウドはわわわと歩かされた。
「スコール!」
これ以上はやめさせてくれ!
そう言いたかったのに、スコールはスコールで進行役の学生に連れて行かれた。
「もう一着も君にぴったりだよ」
楽しそうにクジャが微笑む。
その顔を見てクラウドはやっと諦めた。



「くっそ…スコールめ…俺をこんなところに置き去りにしやがって…」
ブルブルと震える声と身体。
「誰か〜降ろしてくれ〜!」
美女コンが行われている舞台の、その裏にある一際大きな桜の木。
その木の枝にバッツはいた。
スコールに担がれ、そのまま木に登られ、バッツを枝に降ろし、スコールはそのままジャンプした。身軽にジャンプできることが憎い。
「終わるまでここで待ってるんだな。バッツにクラウドはもう見せてやらない」
スコールはそう言って踵を返した。
バッツは高所恐怖症。
ただ枝にしがみついて、誰かが現れるのを待つのみ。
「スコールの馬鹿野郎ー!覚えてろよー!」



ずらずらと並ぶ出場者達。その一番左にスコールはいた。
(優勝は間違いないが、まぁ…精神的に攻められる割にはレベルの低い闘いだったな)
出場者達の顔ぶれを見回し、スコールはゆっくり瞬きした。
『さぁまもなく投票時間を締め切ります!投票がまだの方は急いでください!』
すごい人数の学生が投票箱に並んでいた。

「誰にいれるの?」
セシルに問われたティナは笑った。
「私はスコールにいれるわ。頑張ったんだもの」
「僕も!」
ルーネスも同意した。
「俺は最後の美女っス!」
ティーダは投票用紙に姫と記載した。
「ティーダ、あれはゲストだから投票には関係ないんだよ」
セシルに言われ、そっスかと明らかにしょんぼりした。
「でも、意外にも姫は身近なところにいるかもしれないよ。ね、ウォーリア?」
セシルのフォローをバトンタッチされたウォーリアの投票用紙にも姫と記載されていた。
「私は美しいものが好きだったらしい」
書き直すつもりはないウォーリア。どこまでも自分を貫くウォーリアが、皆は羨ましく思えた。

「ラグナくん」
「もうちょい待てってキロス」
「………」
「ウォードあと少しで投票できるんだって」
「これ以上は公務に差し支える」
キロスは駄々をこねるラグナをウォードに任せた。
「投票は諦めるんだ」
「いやだぁぁー!」
「これから首脳会議に行ってもらわないと!」
「スコールぅぅぅ!」
「………」
キロスはその場にいた学生に代理投票を頼むと、ラグナを担いだウォードを追いかけた。

『ではここで審査員の皆さんの票を集めたいと思います』
そう言いながら学生がジタンたちの前に来た。
『ジタンさんは、もう決めましたか?』
「あ、はい。最初から決めていました」
ジタンはスコールの名前を書いた紙を差し出した。どう見てもスコールは綺麗だったし、やっぱり羨ましい。自分の身長がもう少したかければなぁと思わずにはいられなかった。
『教授たちは?』
セフィロス意外、スコールの名を記載していた。皇帝に至っては姫の名前も記載していたが、書かれていたとしてもそれは無効になる。
「おめぇ白紙じゃねぇか」
ジェクトがセフィロスの紙を覗き込んだ。
「私はここに座っていればいいと言われただけだ」
「屁理屈言ってねぇで誰かの名前書けや」
「……あの男の味方など今はしてやる気になれんのでな」
セフィロスはそう言うと、立ち上がった。
「どした?」
「これからの展開など見なくても予想できる。私がいる必要はもうあるまい」
くるりと長い銀の髪を翻し、セフィロスは立ち去った。
「……まだまだ甘ちゃんだな」
そんなセフィロスの背中をジェクトはため息混じりに見送った。



お色直しをしたクラウドは、ミニ丈の真っ赤なチャイナドレス。
クラウド自身、その服を見た瞬間に「な、な、な…」と青ざめ後ずさったが、もう一つ用意されていた服を見て、自らチャイナドレスを選んだ。バッツが用意していたピンクのナース服は、クラウドには荷が重すぎた。ナース服は男のロマンのままであってほしい。クラウドはそう思った。
チャイナ服にも戸惑ったが、クジャが「バッツがスコールとお揃い用にって言っていたよ」と聞いて、覚悟を決めた。ただ、なぜこんなにもスカートが短いのか。それだけが許せない。
「足がスースーして気持ち悪い」
「女の子って不思議だよねぇ」
出番を待っている時のクラウドとクジャの会話がこれである。
投票の結果、予想通り大差でスコールが圧勝し、大きな歓声の中で見事美女コン女王に輝いた。
そんなスコールの前に現れた、チャイナドレス姿のクラウド。唇はドレスと同じ赤のルージュ。足元も赤のハイヒールで統一され、この日最大の歓声を受けていた。
優勝したスコールにクラウドは近づき、進行役から渡されていた雪山温泉旅行と書かれた封筒を渡し、彼を労う為、観衆の面前でスコールの頬へとキスを寄越したクラウド。
奇声に喜声、悲鳴など色んな声が聞こえ、クラウドは足早にその場を後にした。
一部を除いて誰もその姫がクラウドだと気づいていなかったことだけがクラウドを救った。
控え室に戻ったクラウドはできる限りの八つ当たりをフリオニールにし、戻ってきたスコールに連れ去られた。
あの衣装のまま二人がどこへ行ったのか、フリオニールにはわからなかった。



「誰か…助けてくれ…」
何度目かの祈りが、地に届いた。
「バッツ?」
そこにはティナがいた。
「ティナ!降ろしてくれ!」
「え、ちょっと待ってて!」
ティナは走り去るとすぐさま仲間を連れてきた。
「何してんスか?」
「スコールにやられた」
ティーダとウォーリアが木に登り、バッツを救出する。
「自分で降りればよかったのに」
ルーネスの言葉がバッツの胸に突き刺さった。
「あ、美女コンどうだった?」
「スコールが優勝したっスよ!」
嬉しいけど今の気持ちは複雑だ。
「くそー!スコールのやつ…決めた!雪山俺もいく!あいつらだけにいい思いさせてたまるか!」
ハハハハハと笑うバッツに俺も行くっスとティーダ。その傍らで何かを考え込むウォーリアにセシルは気づいた。
「どうかした?」
「いや…、…バッツ」
神妙な面持ちでバッツを呼ぶウォーリア。
「んぁ?ウォーリアたちも行くんだろ?わかってるって!」
「もちろん行くが、そうじゃない」
「ん?なんだ?どうした?」
バッツは笑顔から心配顔に早変わり。
「姫を紹介してくれ。結婚を前提に付き合いたい」
ウォーリアは真剣そのものだった。
バッツはむせ返る。
紹介などできるはずがない。
だが、正体を明かせば木の上にのせられるどころの話ではない。
「え、あ、あのえっと…」
「ウォーリアずるいっス!俺だって付き合いたい!」
「私もお友達になりたいわ」
「僕も!なんだかちょっとクラウドに似てた気がするし、仲良くなりたいな」
次々と言われる言葉にバッツは頭を抱えた。
「まぁそのうち会えるかもしれないから、その時本人に言ってみなよ」
フォロー魔セシルが皆を宥める。
「セシル…!」
バッツはセシルに抱き着いた。
「なんとなく僕分かっちゃったから。一緒にクラウドを守ろう」
この騒ぎがスコールにばれたらまた大変だ。
バッツとセシルは密かに協力し合うことにした。


そして、フリオニール。
彼は控え室でチャイナドレス姿のクラウドに間近で迫られ怒られ、あまりの迫力と美しさに倒れていた。
フリオニールが片付けに来たクジャに叩き起こされるのは今から5分後のこと。

学祭2日目、美・女装コンテストはこうして幕を閉じた。





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