何故4〜羞恥と開き直り〜

スコールはステージ裏に戻るなりすぐさまバッツを探した。しかし、そこには何人かの学生スタッフとフリオニールしかいない。
「おい!」
「俺に当たるな!バッツならもうここじゃなくて…」
フリオニールが言葉を紡ぐよりも先に、シャランラシャランラと音楽が鳴り出した。
「…まさか…」
「……バッツ、クラウドのエスコートしに舞台袖に行ったんだ…」
スコールの顔がみるみる怒りに染まっていく。
「…くそっ!」
この格好のままラグナに会いに行くのは、相手が相手だけに避けたい。父親であるラグナはこの国の大統領だ。周囲にばれてない今、余計な騒ぎは起こしたくなかった。
スコールは舌打ちした。
「これで優勝できなかったら……わかってるだろうな?」
仮にも年下のスコールになぞこうまで俺が言われなければならないのか。
フリオニールはバッツを心底恨んだ。
「クラウドはもう舞台袖にいるのか?」
「あ?あ、あぁ」
あのクラウドの姿を思い出して、フリオニールは顔を赤くした。それをスコールは見逃さなかった。
「…変なこと考えてるんじゃないだろうな?」
フリオニールは違う違うと勢いよく顔を横に振った。
「クラウド、すごい綺麗で…何て言うか…女の子より女の子みたいで…可愛いっていうか…あ!違う!違うから!」
何が違うのか。
スコールはフリオニールを一睨みし、クラウドを見るべく舞台袖へと向かった。
「…バッツの馬鹿野郎」
フリオニールは精一杯の恨みを込めて、空に向かって呟いた。


「完璧!おま、本当に美人だよな」
「……嬉しくない」
「喜べって!俺が選んだこの色も似合ってる!」
「だから嬉しくないって言ってるだろ」
肩をあらわにし、はぁとため息を零すクラウドに対して、バッツはどこまでも楽しそうだった。
「スコールが見たらびっくりするぜ?」
「見られたくない…」
「安心しなよ。観客の反応からしてスコールが優勝だと思うし、何より君は最高に美しくなったから!」
僕の技術も大したものだよねぇとクジャ。
「んじゃ、進行進めさせてくるから呼ばれたら前出ていけよ?」
「………」
「逃げんなよ?ってかその格好で逃げれるわけないか」
本当にどこまでも楽しそうなバッツに、クラウドは今すぐ殴りかかりたかった。
けれど、彼がいるおかげで、毎日が楽しいのもまた事実だ。
クラウドはいつか報復してやると近い、来るべき時を待った。

『それでは最後にスペシャルゲストです!とびっきりの美女に来ていただいています!彼は、参加者ではなくゲスト、なので投票はしないでくださいね。名前は匿名希望とのこと、こちらでは姫と呼ばせていただきます。それでは姫、お入りください!』
ナレーションとともに音が鳴り響く。
クラウドは一歩ずつ足を進めた。
履きなれないヒールが痛い。今にも転びそうだ。
けれど、なんとかクラウドはステージの真ん中まで進み、顔を上げた。
途端、息を飲む音に沸き上がる歓声とざわめき立つ観客。そこにいる誰もがクラウドに釘付けになった。
まるで物語から出てきたかのような美しさ。
雪のように白い肌を紫のシルクが包み込み。
いつもはツンツンとしている独特な髪も今はウィッグで滑らかな金髪を左側で緩く束ねている。あらわになっている肩に触れる髪がまた色っぽさを助長させた。長い金の睫毛がふるりと揺れれば、辺りからはほうと感嘆の息があがる。
ピンク色に薄く色づく唇から発っせられるであろう美しい声を想像するだけで、目眩がしそうだ。
何人かは鼻を抑え、何人かは股間を抑え、何人かはあまりの美しさに意識を飛ばしていた。

「超好みっス!あんな綺麗で可愛いこ、どこにいたんスか?!」
「同感だ」
「二人ともあれは男だよ」
セシルにはあれが誰なのかわかった。ここにもいない彼はきっと断れずにその身を犠牲にしたのだろう。しかし他の4人はクラウドだと気付いていないようだった。
「すごく綺麗ね」
「こんな人がいるなんて…本の世界だけじゃないんだね」
ティナとルーネスは瞳をキラキラと輝かせた。
スコールが出てきた時以上にデジカメのシャッターを切り、ステージはフラッシュの嵐だった。

「あんな美女みたことない…」
ジタンは身を乗り出し、
「美しい…」
ゴルベーザも瞳奪われた。
「今すぐにでも伴侶に迎えたいものだ」
皇帝はさらなる怪しげな笑みを浮かべて、
「超超超超ドストライク!」
ジェクトはガッツポーズをかまし、
「……」
セフィロスはうなだれた。名前も伏せているから誰も気づかないだろうが、どんな姿形になれども、セフィロスにはあれがクラウドだと瞬時にわかる。
クラウドが自分からこんなことをすると言うはずがない。
セフィロスの脳裏に一人の脳天気男が浮かんだ。
「どう始末してやろうか…」
バッツが人知れずぶるりと震えた。
「やべ!なんか今寒気した!」
「風邪かい?僕に近寄らないでおくれよ」
クジャはバッツから3歩横にずれた。

「見た見た見た?!」
「今一緒に見てるだろう?」
「クラウドくん超かわいいよなぁ!」
ここにも一人、あれがクラウドだとわかっている男がいた。ラグナはクラウドの姿もカメラに抑えた。
「あんな可愛いのに中身も可愛いとかクラウドくんどんだけ可愛いんだっつーんだよ!な!」
キロスとウォードは危うく同意しかねて、慌てて首を振った。スコールに怒られるのはラグナだけでいい。
「こらキロス!カメラちゃんと撮れ!」
「ウォード!顔アップも忘れんなよ!」
二人はレンズ越しにクラウドを見た。レンズ越しでもクラウドの美しさは少しも半減しなかった。

(この反応、ばれてないか)
(いや油断は禁物だ)
クラウドはぐるりと周囲を見遣り、ティーダ達を見つけて、苦笑いを零し、審査員席を見てジタン以外の恐すぎる視線に後退りし、ラグナを見つけて固まった。
(な、なんでいるんだ!)
ラグナは嬉しそうに手を振っている。しかし、こちらが手を振るわけにはいかない。
クラウドは少し顔を引き攣らせた。ナレーターがターンをしろと促してきたので一回りしてやった。途端上がる歓声。
『さぁ、姫はここでお色直しです!というのも、姫は実はこのコンテストの優勝景品なのです!』
一瞬にしてどよめきが上がった。
『コンテスト優勝者にはこの姫と行く温泉旅行をプレゼント!旅費代はここにいる教授からカンパしていただいています!さぁ、皆さん投票を開始してください!10分間投票する時間があります。それが終わればいよいよ優勝者が決まります!』
クラウドは小さく息を吐くと、そそくさとステージを後にした。




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