何故2〜決断、その理由〜

「乗りかかった船だしね、化粧は僕が施してあげるよ」
乗りかかったどころかお前が押し出したんだろう。
そう言えたらどんなにいいだろうかとクラウドは頭を抱えた。
「どうしてもやるのか?」
「やる。他の奴にキスなんかさせない。温泉なんか行かせない」
バッと脱いで、バッと着込むスコールには普段よりも機敏さが備わっている気がした。
いつのまにかバッツはいなくなっていて、フリオニールがおずおずとクジャの助手をしている。
「俺達が出なければいいだけの話だろ」
最初企画に参加すると言った手前言うのは気が引けたが、もうそれどころではない。
「出なければキスもしてもらえないし、温泉にも行けないだろ」
何を言っているんだ?と言う目でスコールはクラウドを見るが、クラウドも同じようにスコールを見返した。
お前キスなんていつでもしてるだろ?嫌がってもしてくるだろ?
…嫌がらないけど。
雪山も温泉も俺達の気持ち次第でいつでも行けるだろ?
…誘われたことないけど。
クラウドはますます眩暈に襲われた。
「とにかく!俺は優勝してあんたからキスされて雪山で遊んで温泉に入りたいんだ!」
並々ならぬ決意を表明され、クラウドは口をパクパクとさせた。
「スコール、ウィッグはどれにする?」
クジャがズラッと見せ付けるそれから、スコールは迷うことなくダークブラウンのロングストレートをチョイスした。
「うんうん、君にはこれだと僕も思ってたよ」
鏡の前に座らせたスコールにそれを付け、化粧道具を広げた。
「わ…クジャ先生はいつも持ち歩いてるんですか?」
久々に声らしい声を発したのはフリオニールだった。
「もちろんさ!いつ何時何があるかわからないからね」
どういう意味なのか。
口にしたくともすることが怖い。
聞きたくない。
この教授はミステリーのままでいい。
「はいできたよ!君のテーマは東洋の歌姫ってところだね」
黙って化粧を施されていたスコールが伏せていた瞳を開け、出来上がりに満足する。
「勝ちにいけるか?」
「当たり前でしょ。誰が化粧したと思ってるんだい」
自信満々に頷き合う二人。
こんなに意気揚々としているスコールを大学で見たことがあるだろうか、いやない。
クジャはどこまでも楽しそうで、フリオニールの顔は真っ赤になり、クラウドの顔は真っ青になった。着飾ったスコールは凛としてとても美しく、モデルと言われても通じるような出で立ちだった。
クラウドもフリオニールのように顔を赤くしたい。
本来ならばそうなっているはずなのにそうならないのは、このあと自分に起こるであろう出来事のせいだ。
「スコール!」
部屋に入ってきたのはバッツだ。
「うっわ…!お前美人だったんだな!」
「うるさい。今だけだ」
バッツがスコールの変化に感嘆する。
「もうすぐお前の番だ!一緒に来い!そしてラストにクラウドだからな!クジャよろしく!んじゃまた呼びに来るぜ!」
慌ただしくスコールを掻っ攫いバッツは出て行った。
「……」
「さぁ」
「………」
「クラウド」
「……………」
「君をさらに美しくしてあげるからね」
クラウドは咄嗟にフリオニールを見たけれど、ごめん!すまん!許して!と彼の顔に書かれていた。そこで初めて、あの時謝られたのはこのことだったのかと合点がいく。
いったところで、もうどうにもならないのだが。
「くっ…」
助けてくれるならセフィロスでもいい。誰か助けてくれ。
しかしクラウドの願いは誰にも届かなかった。

会場のステージ裏。
バッツは参加者を並べていた。もうじきスコールの番になる。
「なぁ」
「なんだ」
「なんでやる気になった?」
「……」
「キスとか温泉とかどうでもいいんだろ、本当は」
隠したって無駄だとニカニカ笑いながらバッツが言う。
スコールはため息一つ吐き出して。
「クラウドが」
「クラウドが?」
「学祭もそうだが、大学での思い出があまりないと言っていた。今でこそ院生で皆との付き合いがあるが、貴重な大学四年間をほとんど一人で過ごしたんだ」
確かに、とバッツは近くでそれを感じていた。もっと早く声をかければよかったと、何度も悔やんだ。
「過ぎてしまった時間は戻らないが、今からでも思い出は作っていける」
「お!お前言うようになったじゃねぇか」
スコールの変化にバッツは嬉しさを隠せなかった。
「どんな思い出でも、振り返れば楽しかったとか辛かったとか、一緒に…、皆で振り返れるだろ」
プイと顔を横に背けたスコール。
その耳が赤くなっていた。
「それクラウド本人にも言ってやれよ。すっげー嬉しくなるからさ」
バッツがスコールの背中を叩いた。「とにかく、俺は優勝する!」
「あぁ!行ってこい!」
バッツは笑顔でスコールを見送った。
『エントリーナンバー17番、東洋の歌姫スコール・レオンハートくん!』
スコールは足を前に出した。




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