雨に唄えば2

どうだい?とクジャが胸を張る。おおー、と上がった歓声がクジャへの賛辞だ。ただ一人、クラウドだけが困惑していた。
「なあ…何で俺だけこんな格好なんだ?」
首を傾げるクラウドはきっちりと髪を結い上げられて薄く化粧を施されている。袖のないワンピースにはパッドが縫い付けられていて女性らしい体形を作り上げていた。
「何でって」
「そりゃあ」
クラウドの女装姿が見たいから、なんて面と向っては言えない。そんなことを言ったらクラウドだけでなくスコールからも拳が飛んできそうだ。
「スカートとハイヒールに慣れてもらわないとね。主演女優がガニ股で歩いたりなんかしたら興醒めだよ」
「そうそう」
クジャがもっともらしい事を言えばバッツとティーダが頷いた。確かにその通りだ。
渋々とだが納得して歩く練習をするクラウドの後ろ姿を見てティーダが鼻の下を伸ばす。その他の面々も慣れないヒールに苦戦する様子を微笑ましく見ていた。
「座る時も気を付けるんだよ。そう、膝を閉じて。じゃあそこの君、クラウドをエスコートしてみて」
クジャがスコールを指名する。スコールは黙って立ち上がるとクラウドの隣に立った。自然な手つきで腰を引き寄せる。寄り添うように歩けばクラウドのぎこちない足さばきも少しはましに見えた。
「それらしく見えるよ」
「それは彼のエスコートがスマートだからだよ。人に頼っているようじゃまだまだだよ」
「あ、ああ」
せっかくセシルが褒めてもクジャにあっさりと切って捨てられてしまう。だがスコールに頼りきりなのは事実だ。優雅に見えて実は強い力でクラウドを支えている。サポートに徹するならいいだろうが、演技をしながら片手で支えるには無理がある。それでも足を震わせながらもどうにか歩けるようになり、クラウドはやっと座ることを許された。
さて、とクジャが台本を取り出す。クラウドが演じるリナはドル箱スターだ。美人ゆえに周囲からちやほやされて、それが当たり前になっている。我が儘で少し頭が弱くて、だがそれさえも愛されるキャラクターとしてクジャの台本には描かれている。
「じゃあ読み合わせをしてみようか。ジタンのセリフは僕が読むからね」
最初はリナのセリフは出てこない。それは彼女が悪声の持主で外では声を出さないように周囲がフォローしているからだ。
台本に沿って読み合わせが進む。そしてクラウドがセリフを読み上げると場が凍った。
「っ、」
「?どうした?」
「いや…」
女性としてはあり得ない声だ。だが悪声かと言われればそうではない。どちらかというと美声だ。クジャが微妙な顔をしつつも先を促す。だが読み進めていくうちに顔に刻まれた皺が深くなっていった。一応女性を演じている自覚があるのだろう。控えめなアルトは耳に心地よく、だんだんこんな声の女性もありではないかと誰もが思い始めた。
「おい」
「ああ…」
そろそろ限界だとフリオニールが後ずさる。誰もがヤバイと思った時だった。急にクジャが立ち上がり物凄い剣幕で捲くし立てた。
「君さあ、台本ちゃんと読んできた?リナのキャラクター分かってる?」
「え、ああ」
「そんなの全然違うよ。もっと奔放で傲慢にしてくれないと。そんなに謙虚だったらドンは君に惚れちゃうよ。そんなことになったら話が変わっちゃうじゃないか」
そんなこと言われても、とクラウドは途方に暮れた。だから無理だと言ったのに。君達はどう思う?とクジャが皆に問う。
「美人で美声で優しそうな主演女優、サイコーっス」
「ずっと我が社で主演してくれ」
ティーダはともかく既に役になりきっているウォーリアまでが賛辞する。クラウドはこいつらではダメだとスコールを見たが、こちらもすっかりと骨抜きにされていて話にならなかった。
「クビだクビ、君はクビ!」
「ええーっ?」
ヒステリックに喚くクジャをよそにクラウドはほっとした。もともと気が乗らない話だったのだ。流されて何となくこんな格好までしたが、積極的にやりたい訳ではない。落胆したのはバッツとディーダだったが首になった本人はやれやれとヒールの高い靴を脱ぐと着替えるために部屋を出た。後ろでは誰が代役を務めるか盛り上がっていた。




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