雨に唄えば

クジャの機嫌が物凄く良い。嫌な予感がすると呟いたのは誰だったか。クラウドの周囲に集まる学生達を呼び集めたクジャが意気揚々と指差したのは夏休みの間に改修工事を終えたホールだった。
「だからね、ステージで雨を降らせることができるようになったんだよ」
「…で?」
「学祭で舞台をやるからね」
君達が出演するんだと言うクジャを皆がきょとんと見た。誰が何をやるって?
「演劇部がやればいいんじゃねえ?」
「ボクは演劇部の顧問じゃないしねぇ」
「だったら尚更、使用許可が下りないんじゃないんスか?」
「それがなぜかあるんだよ」
ほら、と見せた書類は確かに学祭当日の日付が載っていた。主役に特別にジタンを呼ぶよ、という話に皆が興味を持った。
「でも忙しいんじゃないのか?」
「受験もあるから仕事は減らしてるはずだよ」
「だったら尚更まずいだろ」
「息抜きにちょうどいいじゃないか」
「息抜き程度で主役をこなせるんスか?」
「ごちゃごちゃ煩いよ。ジタンの舞台をやろうと思ってわざわざ工事したんだから、やるったらやる」
はい、と台本を渡される。中をぱらぱらと捲ったセシルが歓声を上げた。「『雨に唄えば』か。面白そうだね」
「どんな話なんスか?」
「無声映画からトーキーへの過渡期を描いたミュージカルだよ。曲は有名だから知ってるんじゃないかな」
セシルがティーダにあらすじを教える。笑い要素を含んでいるそのタイトルは舞台をよく知らないティーダにも面白そうに見えた。
「でも女の役はどうすんだよ」
バッツはぐるりと集まったメンバーを見渡した。どこを見ても男ばかり。女装したらそれなりに見えそうなのはいるにはいるが。
「キャシーはジタンとのバランスを考えてあの子にお願いしたよ」
「あの子?」
「ケフカ教授の子猫ちゃん。ティナとか言ったっけ?」
どこでその情報を…とバッツがおののく。ティナの連絡先もだが、どこで存在を知ったのだろう。
「僕にだって情報網はあるのさ。で、リナは…」
「クラウド先生っスね!」
ティーダが鼻息荒く台本から顔を上げた。
「超美人の主演女優って先生以外有り得ないっス」
「え…俺?」
驚いたのはクラウドだけ、他のメンバーは皆頷いた。
「声もそのまま使えるし」
「美脚を披露して欲しいっス」
膨れっ面で我が儘を言うクラウドを思い浮かべてスコールまでが頬を緩ませる。ほぼ決まりかけたと思われたが、クラウドは素直に頷かなかった。
「俺に芝居なんて無理だ」
「ジタン以外は皆素人だから大丈夫」
「そのためにクジャがいるんだろ」
助けを求めてウォーリアを見るが、意外にも台本を読み込んでいてやる気十分だ。受ける気はなかったがあまりにも多勢に無勢。どうしようか悩んだ挙げ句に妙案が浮かんだ。これで諦めてくれたら儲けもの、ダメでも道連れを作れる。
「スコールがコズモをやるなら」
「はぁ?あれはフリオニールが当たり役だろ」
思わずスコールの声が裏返る。
「スコールのメイクエムラフが見たい」
一瞬の沈黙の後、バッツが爆笑した。
「いいな、それ」
「良いわけあるかっ」
体を張ったギャグダンスは体力と運動神経が必要だ。あれをスコールが笑顔で演じるなんてこんな機会でもない限り見られない。それとクラウドの女装が見られるなんてクジャも良い演目を選んだとバッツは喜んだ。自分はせいぜい良くて警察官役か。
クラウドもスコールも納得していないのは本人だけ。皆が楽しみにしているようで配役は無理矢理決定した。そしてまだ夏が終わらぬうちに稽古が始まった。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -